第2話「男同士で出発だ!」
俺の提案を聞いて、不満そうな声を出したレベッカ。
頬を膨らませ、口を尖らせて抗議をしている。
いつもの狩りのメンバーであるクーガーが不在。
俺とふたりきりになれる、絶好のチャンスだと思ったのだろう。
とても残念そうな表情をしている。
「悪い! ちょっと思うところがあってさ」
俺は、申し訳なさそうに両手を合わせた。
一方、頭上にLED電灯を灯らせたのはクーガーだ。
相変わらず勘が鋭い。
「あ~、分かった! たまには男同士でって事でしょう?」
大当たり!
図星である。
俺は、軽く頭を掻く。
「おお、さすがだな。実は、そうなんだよ」
「ふ~ん、男同士ねぇ……」
クーガーから言われても、レベッカは半信半疑だ。
俺のフォローをしようとするクーガーは、レベッカを説得にかかる
「レベッカ、聞いて」
「何?」
「あのさ……夜寝る前に女同士で話し込む時ってあるじゃない、お茶まで淹れてさ。下手したら朝まで盛り上がる……あれと同じだよ」
何だ?
嫁ズは俺の知らない所でそんな事してたの?
たまに凄く辛そうな表情で「眠い!」とか言っていたのは、そんな夜更かしが原因なのか。
「あ~、成程! 分かり易いよ、それ」
レベッカは、ポンと手を叩く。
クーガーの説明を聞いてすぐ理解したようだ。
「納得したよ、ダーリン。留守中、村の事は私達に任せておいて。何かあったらクーガーか、クッカに頼んで念話ですぐに報せるから」
「分かってくれて良かった、今度デートしような」
「うん! 楽しみにしてるっ」
他の嫁ズは納得してくれていたので、レベッカが理解してくれて漸く話は纏まったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺はその夜、嫁ズが寝静まってから従士達に声を掛けた。
当然ながら、会話は念話である。
3人の従士のうち……
ふたり——ケルベロスとベイヤールは喜んだ。
ケルベロスは硬派な地獄の猛犬。
だけど最近は、奥さんのヴェガと子供達に優しいマイホームパパと化していた。
それが俺のお供と言う公式な理由で、堂々と出かけられる。
男同士の気儘な旅の上、思う存分暴れる事が出来るのは大歓迎だという。
某悪魔の騎乗馬だったベイヤールは人語を話す事はないが、魂に直接意思を伝えて来る。
荒野を駈け巡り、魔物をバンバン蹴散らしてやると意気込みを示したのだ。
しかし!
唯一不満を洩らしたのが妖精猫のジャンだ。
『クーガーの姐御は体調不良で不参加は納得しますがね。何故元気なレベッカの姐御までが不参加なんですか?』
口を尖らせるジャンに、俺は言う。
『たまには、男同士で話そうと思ってな』
俺の言葉を聞いたジャンは首を傾げて、抗議する。
『はあ!? ケン様の奥様方は皆、美女揃いじゃないですか! レベッカの姐御だって「きりり」とした美顔でスタイル抜群ですぜ』
『まあ、確かにそうだ』
『じゃあ、何故!? 何が悲しくてヤロー同士で、それも原野なんかに行かなくちゃならんのですか! むさいだけですよ、華がなくちゃ暗くてつまらないですよ、そんなイベント』
『ま、まあな……』
健全な男とすれば、確かにジャンの言う事は分かる。
俺が口籠るのを見て、叱る者が居た。
ケルベロスである。
『ナマイキナコトヲイウナ! コノ、ダネコメ』
ケルベロスから叱られたジャンは逆切れする。
『ああっ、てめ! ケルベロス! 駄猫だと! それ二度と言わないって約束しただろう?』
『フン!』
どうやら、ケルベロスとジャンは何か決め事をしていたようだ。
しかし、ケルベロスは取り合わない。
鼻を鳴らして却下。
ジャンは引き続き、悔しそうに抗議する。
『ああ、く、糞っ! 男としてお互いを認めたとか、敬うとか、お前は言っていたじゃないかぁ』
『ヤクソク? ソンナモノハ、タッタイマ、テッカイダ。ソコラノ、ブタニデモクワセロ』
『撤回!? 何だと! き、汚ねぇぞ!』
『シュジンヲ、ウヤマワナイ、ジュウシノヤクソクナド、シラヌ』
『何、言ってる! 俺っち、ケン様を、う、敬っているじゃね~かよ』
『ダッタラ、ケンサマノメイレイニハ、シタガエ。ソウデナケレバ、ケンサマヘタノンデ、オマエノケイヤクヲ、カイジョシテモラウガドウダ? オマエノカゾクトモ、ハナレバナレニナルゾ?』
『え? けけけ、契約解除? か、家族とも離ればなれ?』
『ソウダ! キョムノセカイヘ、モドリタイカ?』
『い、嫌だ! 虚無の世界なんかへ帰るのは嫌だ!』
以前、聞いた事がある。
召喚する前にケルベロス達はどこに居たのか、を。
ケルベロスによれば俺から呼び出される前の記憶が無いそうだ。
例えれば、夢を見ていた事は分かっていても、目が覚めると全てを忘れている……
そんな感覚。
ちなみに召喚された後に契約解除されて戻されるのはどこか?
これもケルベロスが教えてくれた。
別の異世界か、もしくはエデンの園のような穏やかな異界だという。
しかし一旦契約解除されると、再び記憶は全てが消されてしまうらしい。
ケルベロス同様、今のジャンには村や王都に家族が居る。
男として名を上げたジャンは多くの猫達を嫁にしたのだ。
夢にまで見たハーレム生活をゲットしたのだ。
そんな夢のような生活が消える……
ジャンは渋々頷くと、同行を了解したのである。
『じゃあ、明日出発だな』
こうして俺は従士達を連れて、小さな旅へ出る事になったのであった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。




