ピッツアはジャンクフード-③
厨房に戻ったら、コックの皆さんがちょうどまかない用に置いておいたピッツァを召し上がられてるところだったよ。
「あ、妃殿下、カティアちゃん!」
僕らが戻ってきたらライガーさんがぶんぶん手を振ってくれた。
それにつられて他の若いコックさん達も手を振ってくれました。
マリウスさんは気づくとこっちにやってきた。
「妃殿下、カティアさん。新しいピッツァは皆にも好評です」
「それは良かったわ。私は手伝いしか出来ていないけど」
「ファルミアさんがいなかったら、ここまで種類出来ませんでしたよ?」
ツナマヨしかり、サラミなんかの燻製肉オンパレードしかり。
こっちの世界で長く生きてるから食材に関して詳しいのは当然だものね。
「あら、カティがいたからこそ私もピッツァ食べれたもの。いくらでも協力するわ」
「それで、今からですとデザートピッツァをお作りになられるのですかな?」
「ええ。けど、カッツと蜂蜜のはさっき作ったし……カティ、カッツクリームとコパト以外はどうするの?」
マリウスさんの前だから蒼の世界用語が使えないのはわかるけど、どれだろう?
ニュアンス的にはココアのことかな?
「そうですねー。この前は生クリームと果物にココルルソースでしたけど」
「果物と生クリーム? いいわね。リースや四凶達がいるから誰も残さないでしょうし、ケーキみたいな感じで作っていきましょう!」
「はーい」
それと、手早い方がいいのとまかない用にほしいからとマリウスさん始め、コックさん達が生クリームやクリームチーズの用意はしてくださいました。
「……こうなったら、クレープの要領で作りたくもなるわ」
果物を洗ってる最中、ファルミアさんがこそっと言ってきた。
「こっちにはクレープってないんですか?」
「フランス料理のようなガレットならあるけど、クレープは見かけたことはないわね。屋台だとむしろサンドイッチやホットドッグ的なのが多いわ。デザートだとほとんど揚げドーナツね」
ああ、だからフライヤーお借りした時にドーナツのことが出てきたんだ。
庶民にはドーナツがおやつと言うのが定番らしいです。
「ん? そうよ、思い出したわ。このフェイ……ブルーベリーとクリームチーズを使えば」
おややぁ? ファルミアさんが何やらぶつぶつ言い始めちゃった。
何だろうと僕はりんごを洗いながら聞き取ろうとしたけど、途中でだんまりになったから集中して考え込んじゃったみたい。
なので、僕は先に生地を伸ばして数枚は焼いてから冷ましておいたよ。
「うん。そうね! カティ、生地は全部焼かないでおいてちょうだい」
「ほえ?」
一緒に焼けるものがあるのかな?
けど、ファルミアさんの思いつきにハズレはほとんどないから僕も興味が湧いてきた。
「何を試してみるんですか?」
「カッツクリームとフェイでね?」
「??」
クリームチーズとブルーベリー?
むしろ焼かない方が……いや待ってよ。
僕もファルミアさんが作ろうとしてるのがわかってきたかも。
「それって少しだけ砂糖をまぶします?」
「あら、さすがはカティね。ええ、とりあえず一枚伸ばしてもらえるかしら?」
「はーい」
作り方は簡単だった。
生地を伸ばしてソースがわりにクリームチーズを均一に塗り、少量の砂糖を振りかける。その上にブルーベリーをたっぷり乗せて、また少量の砂糖を。
これを普通に焼いたら、生のブルーベリーを散らしてカット。
ブルーベリーの焼ける甘酸っぱい匂いがたまりません!
「これに好みでまた砂糖を振りかけるのもいいけど、ゼルもいるしそれはやめておきましょうか?」
「そうですね」
それからは以前作ったものに加えてティラミス風ピッツァも作りました。
まかない用にも用意したら、特に女性のコックさんと給仕さんの目がキラキラ輝き出したんだよね。
「綺麗すぎる!」
「「「食べるのもったいなーい‼︎」」」
「これはフェイ? 焼いてあるようだけど、いい匂い……」
「妃殿下、カティアちゃんありがとうございます!」
「どういたしまして」
感想は後日教えてくださいとお伝えしてから、僕らはまたワゴンに全部乗せてから食堂に戻りました。
「ふゅゆゆ!」
「わ、クラウ⁉︎」
僕らが黒い壁の中に入ったらクラウがこっちに向かって飛んできた。
そして、僕の頭の上にちょこんと乗っかられちゃった。
「待ちきれなかったみたいだぜ?」
疑問に答えてくれたのはエディオスさん。
「フィーやユティが構ってやってはいたが、やっぱ主人のお前の方がいいみたいでな? それと、さっきの自分の爆食い反省してたみてぇだ」
そうなの?と、クラウを下ろして顔を覗き込めば、お目々が垂れ下がってしょんぼりしてた。
「クー? もうしない?」
「……ふゅ」
こくこくと頷いてくれたので、僕ももう怒ってないことをわからせるのに頭を撫でてやった。
そうすれば、水色オパールの瞳がキラキラ輝いてきた。
「じゃ、デザート食べよ?」
「ふゅ!」
ぴこっと右手を上げて、クラウは意気揚々に答えた。
なので、クラウを頭に乗せてからピッツァの大皿をテーブルに乗せていきました。
「これもピッツァなの? なんかケーキみたい」
ユティリウスさんが興味津々にベリーミックスピッツアを覗き込んでた。
「甘さ控えめの生クリームに果物とココルルのソースをかけただけですが。奥の茶色いのはさっき説明したカッツクリームと生クリームのです」
「こう見ると綺麗なもんだな?」
サイノスさんも褒めてくれたけど、観賞時間が長くて皆さんなかなか手を出し辛いようです。
例外はフィーさんとエディオスさんで、既にティラミス風ピッツァを食べてたけど。
「甘過ぎなくて、コパトの苦味もあるからかくせになるね!」
「予想以上にうめぇな!」
ひょいぱくひょいぱくって食べ進めてるよ。
僕もなくなる前にクラウと分けっこして口に入れれば、ちょっと酸味のある生クリームにココアパウダーの苦味がベストマッチして美味しい。
コーヒーを生地に塗ろうか悩んだけど、ない方が正解だったかも。
お代わりの温かいコーヒーと一緒に食べればちょうど良かったです。
「……これは、食べやすいな」
セヴィルさんが食べてたのはブルーベリーとクリームチーズの。
僕もさっき食べたけど、フレッシュと焼いたブルーベリーの食感と甘酸っぱさにクリームチーズがまろやかでやみつき確定だと舌がうなりました。
「フェイを焼くなんて発想はあまりなかったな?」
「ジャム風で美味しいですねー」
「カティアが作ったのではないのか?」
「これはファルミアさんの案です」
レアチーズケーキにブルーベリージャムの発想はあったけど、それをピッツァには思いつきもしなかったもの。
「あら、カティがプチカ達を生クリームと組み合わせるんで思い出しただけよ。たまにレアチーズケーキ作るの」
「おお」
是非ともご相伴に預かりたいです!
けど、そう言うお約束は昨日エクレアでしたから別の機会だね?
そうこうしているうちにあれだけ作ったピッツァは綺麗になくなり、クラウも満足したのかお腹をぽんぽんと手で叩いていた。
「ふゅぅ」
「いっぱい食べたねー?」
僕の3倍以上食べたよね?
僕もデザートは多めに食べたけど、それでもお子様な量でしかない。
「作ってくれてありがとうカティ。何かお礼しないとね?」
「お礼なんていいですよ」
美味しいって言ってもらえただけで充分ですとも。
けど、ユティリウスさんは納得されてないのかうんうん唸ってしまったよ。
「あ、そうだ。それならゼルと散歩に行ってきなよ。クラウは俺とミーア達で預かるからさ」
「……………はい?」
「は?」
何がどうしてそう言う提案に?
それってお礼になりますか⁉︎
僕は思わずセヴィルさんと一緒にぽかんと口を開けてしまったよ。
「まあ」
「あら、いいわね。私もリースに賛成よ?」
「執務は気にすんなゼル。今日くらいいいだろ?」
「俺も手伝うしな」
おうふ。外堀がどんどん埋まっていくよ。
フィーさんはと言うと口笛を吹いて僕からクラウを取り上げた。
「ふゅぅ?」
「君はこーっち。いいじゃん。全然カティアを案内出来てないし、逢引兼ねて行ってきたら」
「えぇええ‼︎」
昨日言ってたデートを今日実行ですか⁉︎
「なななな、なんでデートを⁉︎」
じたばたと手を振っていると、まだ後ろにいたフィーさんにぽんぽん頭を叩かれた。
「僕らのせいと言うか、君をここの区画しか説明してないしさ? セヴィルに案内も兼ねて話し合ってきなよ。積もる話もあるようだしね?」
「え、えーっと……」
僕とセヴィルさんが初対面じゃないことだよね?
セヴィルさんが忙しいを理由にここ一週間話し合わずじまいだったけど、それって結構重要なことだったよ、忘れてた。
(あ、あと、僕がセヴィルさんの『初恋』じゃないかってことも)
ちゃんと確認しなきゃいけない。
僕だって、あやふやなままで置いておきたくないもの。
区切りとなりましたので、次回から新章です✿゜❀.(*´▽`*)❀.゜✿




