八方塞がりで
僕は小さめにうなずいた。こんなことってあるのかな。でも、変な考え方をして、変に期待すると恥ずかしい。僕は友達として……と考える事にした。
帰り道。受験後よりもドキドキした。
話が見つからず、ペンと紙を持ったまま固まった僕の手を突然つかむと、
「好きです。その、付き合って下さい!!」
びっくりした。手を放してもらってすぐ、返事をした。
『僕も好き。僕からも、付き合って下さい。』
メモを渡すと、貴桜はとても嬉しそうな顔で僕の顔を見つめた。そして、2人で顔を見合わせてにっこりと笑った。彼は、なぜ僕が好きなのか、教えてはくれなかった。僕もそれどころではなかったけれど。
次の日。
僕はあいさつができないから、毎日人に会うたび、笑顔でおじぎをしていた。
「留脳さん、おはよう。」
貴桜が言ったのと同時に、僕はおじぎをした。
「あ、貴桜君……?!い、意鈴?!」
留脳は僕を初めて呼び捨てにした。僕は怖くなって貴桜の後ろで縮こまった。
「俺の恋人の意鈴ちゃんだけど、どうかしたの?」
少し怒った声で言う貴桜。
それを聞いて留脳は口を開けたまま動かなくなってしまった。もちろん、廊下での出来事だし、貴桜が好きだった子も僕だけじゃなかったから、女子は大騒ぎ。泣いたり、悔しがったりしている。
それを見ていると、小学校の1年の時を思い出した。花壇から落とされたあの日。痛みを知った日。嫌だ。もういじめられたくない。そんな思いが頭の中でぐるぐる回る。
「あ、意鈴ちゃん!」
僕は教室へ走って逃げた。けどもう遅い。
「意鈴ちゃん……貴桜君と、って、本当?」
僕はもう追い詰められてしまった。そう思って泣いた。怖い。今まで仲良しだった女の子たちが、すごく怖い。
「意鈴ちゃん!」
貴桜が教室へ飛び込んできた。そうだ。貴桜のせいだ。僕は都合の悪いことを押し付けるようにして紙を渡した。
『大嫌い』
貴桜は紙に書かれたその言葉を見ると、黙ってその場で、目で意鈴を追いかけていた。
告白されてから1日たたずにこんなことになるなんて、思ってもみなかった。きっと貴桜も同じことを思ってる。
また次の日。仮病して休んだ。貴桜にあんなことを言ってしまった。嫌われた。そんな風に思ってしまう。もう嫌だ。学校に行ったら、いじめられる。その日のニュースで、いじめられた子がいじめた子に殺される、というのをやっていた。行ったら僕もあんな風に……僕も殺されてしまう?そう思うと、家にいた方が安全だと思ってしまう。もう会いたくない。でも、貴桜がいる。どうしよう。
ずっと悩んでいた。
ある日のことだった。
「意鈴、お見舞いに来てくれたわよ!えっーと……留脳ちゃん!!」
うそ。何されるかわからない。お見舞い?よりによって留脳?!暑いからか、会うのが怖いからか、汗がこぼれ落ちる。
こういう時に限って紙が近くにない。大声なんか出せない。急いで取りに行く。その日は頭痛がひどかった。悩みすぎたのだろうか。動くと激しい痛みが生じる。1年生の頃を思い出して、もっと怖くなった。
来ないで。
ガチャッ。ドアが開いてしまった。
話せないことは不便だが、これほど不便だと思ったことはなかった。
留脳が入ってくる。やめて。殺さないで!
「……意鈴。」
何?と言いたいけれど、ペンさえ無い。
「紙とシャーペン。動けないんでしょ。」
?思っていたより親切だ。だから、余計に怖くなった。
「ニュース……見た?あの……いじめで……そう、殺されるヤツ。」
まさか、同じめにあわせる、とか言うんじゃないだろうか。
「皆で、話し合ったの。意鈴が、それを恐がってるんじゃないかって。」
痛みが引いてきたので、ペンを走らせる。
『皆が怖い。帰って。』
「だからさ、皆何もしないよ。貴桜もあんたのこともう許してるし。」
本当だろうか。まだ怖くて信用できない。
留脳は僕に背を向けると、言った。
「もうすぐテスト。競える相手なんて、あんたぐらいしかいないのよ。」
メモが見せられないので、紙飛行機にして頭に当てた。
『最下位のクセに。』
「う、うるさいわね!早く来ないと貴桜とるわよ。」
留脳は走って部屋を出てしまった。
また学校へ行ったら、皆と仲良くできるかな。また学校へ行きたい。留脳のおかげで僕は立ち直れたし、お礼、言いたいな。
次の日。その日はテストだった。自分で勉強していたことは、皆には秘密。
自信を持って、教室へ入る。皆が僕をいっせいに見る。
「意鈴ちゃん……」
静まり返る教室。心臓の音が聞こえた。
「ごめんね!怖がらせちゃた?」
「また仲良くしよう!」
たくさんの女の子がそう言ってくれた。
『ありがとう。また仲良くしてね。』
話は丸く収まったけど、その次に皆が心配な事は……
「ねぇ、今日テストの日だけど……大丈夫?」
『うん、大丈夫。』
その言葉に、皆半信半疑だった。僕もあまり自信がなかった。というか、薄れていた。
チャイムが鳴り、皆にテストが配られる。
僕が勉強していた範囲よりもはるかに先にいっていた。




