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 3 急には止まれないモノだよね

や、やっと書けたぁぁぁ………………(泣)

 

               3 急には止まれないモノだよね



「ほっほまへ! はへがぬふっほば!! っへひふは、はんべほうひふほほひはふんば!!!」


 いきなり盗ッ人扱いされた事で気が動転したのだろう、おっさんは顎が外れた事も忘れて必死に抗弁していた。


「何を言いたいのか、さっぱり分かりませんけど。まあ、それはともかく。僕の畑を荒らした罪、命と引き換えに償ってもらうぞ、盗ッ人!」


「違いますってばッ! この方は盗ッ人では御座いません!! って、それよりも陛下(・・)、顎外れてます、顎ッ!!」


 マリクのあんまりな発言にツッコミを入れつつ、おっさんに顎を嵌めるように促すセリカ。そんな彼女に対し、マリクは戦闘態勢を維持しつつ聞き捨てならない単語に眉をひそめた。


「………『陛下』って……誰?」


「貴方の目ン玉は飾りですかッ!! 目の前にいるでしょう、目の前にっッ!!!」


 もはや怒号にしか聞こえないセリカのツッコミに訝しげな顔をしてマリクは目の前のおっさん……の遥か後ろに目を凝らし始めた。それは次第に目の上に手をかざし、こぼれんばかりに目を全開にして『陛下』の姿を探すようになり……、そして一分後。


「いないじゃないですか」


 ――――ブチッ―――


 セリカの頭の何かが切れた。


「アンタは馬鹿かッ! それとも阿呆かッ!! 目の前って言ったら、今そこに突っ立ってる髭面のおっさん以外にいないでしょうがああぁぁぁぁッッッ!!!!!!」


 怒りのあまりか、一応の主君であるマリクまで『アンタ』や『バカ』『阿呆』呼ばわりな上に、『陛下』と呼んだ人物を『おっさん』扱いする程にブチ切れたセリカであったが、貧困と侮辱と暴力に鍛えられた王子にはどんな暴言も雑音以下の扱いであり、故に返す言葉は全くブレる事は無かった。


「嘘を付かないで下さい。使い込んで薄汚れた鎧、鼻が曲がりそうなほど血の匂いが染み付いた剣、何より、あのむさ苦しい髭ッ!どっからどう見ても傭兵崩れの山賊のナリじゃないですかッッ!!」


「……髭だよなァッ! お前、思いっっ切り髭がメインで俺の事山賊扱いしやがったよなァ、オイッッ!!」


 やっとこさ顎を嵌め直したおっさんは、嵌めた痛みと山賊扱いされた理由のあまりの酷さに若干涙目になって突っ込みをいれた。


「五月蠅いッ! 間違った事は何も言ってないッ!! とにかく! 山賊はさっさと死んで肥やしに為ってやがれぇぇェェェッッ!!」


「人の話を聞けえぇぇぇェェェェッッッ!!!」


 最早、問答無用とマリクは斧槍に姿を変えた鍬をおっさんの顔面に叩き付け、おっさんが結構ギリギリで眼前の刃を弾き返す。そこから先は凄まじい斬撃の応酬だった。


 上段からのマリクの斬撃を紙一重で躱し、右手の胴を狙って放たれるおっさんの一撃を柄の中ほどで受けて撥ね上げる。空いた胴に向かってマリクは下段から中段への一撃を放つが、一瞬早くおっさんの剣がマリクの鍬を弾き返す。それぞれ体勢を立て直し、再び攻守が目まぐるしく入れ替わる。上段下段中段上段下段。斬って突いて薙ぎ払う。おっさんの足元に隙を見つけたマリクが鍬の柄の中ほどを握って軽く捻る様な動作をすると、石突きの部分が伸びてそのままおっさんの足元に襲い掛かった。


「ちぃぃぃっっッ!!」


 当たる寸前に跳んでかわし、さらに二回跳びずさってマリクの間合いの外に出る。


「避けるなぁっ! 殺せないだろぉ!!」


「避けるに決まってんだろう! 死にたくねぇンだからッ!!」

  

「贅沢ぬかすなッ! さっさとお前は第五十九開拓区の百七十九番地の肥やしになってりゃいいんだよぉ!!」


「どこが贅沢だぁッ!! っていうか、手前(テメェ)一体これまでに何人を肥やしにして(コロシテ)来たんじゃあぁ!!!」


 やたらと具体的な死に場所とその言葉に隠されているであろう膨大な数字に、思わずおっさんの背筋に冷たいモノが通った。


「死にゆく身で細かい事気にしてんじゃねぇよッ!」


「死にたくねぇっつってんだろうがああぁぁぁッッ!!!」


 とことん()る気まんまんのマリクの再びの攻撃に、ほとんど悲鳴のような怒号を上げて応戦するおっさん。そんな二人の激闘のそばで、


「………………………………………誰か止めてぇ」


 すっかり疲れ切ってへたり込むセリカが、力無く呟いていた。

                       ・

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「…………セリカさんっ? なんなんですか、この状況はっ???」


 別段セリカの呟きが聞こえたからという訳では無いのだが、かなり絶妙なタイミングのツッコミに顔を上げると、そこには困惑を隠しきれない少女と中年女性が立っていた。


「ティリア殿下! それに奥方様!! 良い所に!! お願いです、マリク殿下を止めて下さい!!! このままじゃ陛下が畑の肥やしにされてしまいます!!!」


「ええええええぇぇ!? どういう事ォォォ?????」


 『ティリア殿下』と呼ばれた少女は素っ頓狂な悲鳴を上げた。


「えぇっと。簡単に説明しますと、陛下の髭面を見たマリク殿下が山賊と勘違いして殺しにかかっちゃているんです!」


「髭なの!? あのむさ苦しい髭の所為で殺されかけてんの、父上は!? だからあれだけ剃れって言ったじゃないのよ、あの馬鹿親父!!」


 …………娘にとってもむさ苦しいモノだったらしい。


「あぁ。そういえば、あの子は髭を見ると殺したくなる性分(タチ)だからねぇ」


 一方、『奥方様』と呼ばれた女性は妙に頓珍漢で物騒な納得をしていた。


「ちょっとっ!? なんなんですか、そのヤバい性癖わあぁ!?」


「しょうがないでしょ。あの子の血縁上の父親が、毛ジラミを擬人化させたみたいな髭面だったんだから」


「そこまで言いますかぁ、フツー!?」


 ティリア殿下の脳味噌は飽和状態になった。


「大丈夫よ。一度()っちまえば暫くは落ち着くから」


「それじゃマズいんですってば! 早く止めて下さい奥方様あぁぁ!!」


 全く大丈夫では無い台詞を自信満々に(うそぶ)く奥方にセリカが必死の思いで懇願する。


「いいじゃない。放っときなさいよ。最近じゃあ犬猫はおろか、泥鰌(どじょう)(なまず)の髭を見ただけでも殺気が漏れてたんだし」


 少女二人は同時に思った。……それ、もう病気って言わない? って、そんな事はどうでも良くないけど、どうでも良い!


「「とにかく早く止めて下さいってば!!」」 見事な異口同音であった。


「面倒臭いわねぇ…………」


 魂の叫びと言い換えたくなる程の溜め息を一つ()くと、奥方はマリク達を止め……ようとした所で立ち止まって、心底困り果てた顔で少女二人に質問した。


「…………どうやって止めんの、コレ?」


 後にティリアは語る。『時が止まる』というのは恐ろしい事なのだと。いや、確かに言われてみると、すぐに方法が思い付く訳では無いが。

 一方、セリカはいち早く復帰して、対処法を必死にひねり出していた。…復帰出来た理由が『慣れ』というのが、いささか不憫ではあるが。


「と、とにかく、何でも良いですから止めて下さい! 何かこう、確実に止まるような一言をビシッと言って下さい!! ビシッと!!!」


「そんな事言われてもねぇ……」


 セリカの発言に首を傾げてしばらく考え込んでいた奥方は、何か思い付いたらしく顔をマリク達に向け、息を思いっ切り吸って、以下の台詞をほとばしらせた。


「こぉぉらぁぁっッ!! そいつを殺したら、今晩メシ抜きだよおぉぉぉっっッッ!!!!!」


 その場に居た奥方以外の全員がズッコケた。


((言うに事欠いて、出た台詞がソレかいッ!!))娘二人が心中でツッコんだ、その直後。


 ぐわぉわぉわあぁぁぁぁぁんん……………


 教会(おてら)の鐘にしては妙に情けない音が周囲に鳴り響いた。

                 ・

                 ・

                 ・

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                 ・

 ここで、時は若干巻戻る。


 絶賛戦闘中の二人はまさにぶつかり合う直前だった。

 おっさんは剣を大上段に振りかぶり、マリクは剣を弾き返す為に下段からの切り上げを強行した。

 このまま行けば、おっさんの剣はマリクの鍬の平面部分にぶつかって弾かれるか、そのまま何度目かの鍔迫り合いになっていたかもしれない。


 しかし。ここで奥方の渾身のボケが炸裂した。


 この時全員がズッコケた。そう、『全員』である。戦闘中の二人も例外ではない。

 おっさんは振りかぶった状態でつんのめって首から先が前に飛び出し、マリクは切り上げを始めた所で足を滑らせて若干仰け反り、―――――その結果。


                    「「あ」」


 ジャストミート。


 そう。鐘の音にも似た名指し難い音の正体とは、鍬とおっさんの石頭が激突した音であったのだ。

                 ・

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                 ・

「陛下っ! しっかりして下さい、陛下ああぁぁっっ!!」

 最早ピクピクと痙攣する以外に反応の無いおっさんに向かって、必死にセリカが呼び掛ける。


「へんじがない。ただのしかばねのようだ」


「笑えねぇボケかますなあぁぁぁっっッッ!!!!」


 素晴らしい程に棒読みなボケを口に出すマリクに、セリカが目を三角にしてツッコんだ。


「ハイハイ。二人とも其処までにしときなさいな。一応そいつは生かしとかなきゃいけないらしいから、急いで手当をするわよ。マリク。アンタはさっさとそいつを家まで運びなさい」


「え~~~、何でそんな無駄なこ「早くおやり」……はぁい」


 せっかくイキの良い死体(肥やし)が 手に入ったのになぁ…、などとブツクサ言いながら、マリクはおっさんの左足を掴んで家まで歩き始めた。


「ちょっ、ちょっと殿下ッ! 引き摺ってます、引き摺ってますってばッ!!」


「大丈夫、僕は気にしない」


「気にして下さいッ! お願いですからせめて、そこの荷車に乗せて下さいッ!!」 


「面倒臭いなぁぁ。……んじゃ、せぇぇぇのおぉぉ………」


「誰が放り投げろと言いました? 丁寧に、優しく置いて下さいね? ほら、頭の方は持ちますから……舌打ちすんなああぁぁぁっっッ!!!」


 もはや、あまりの阿呆らしさに聞き流す事しか出来ないティリアは、黙って一人、空を見上げた。


 いつの間にやら陽も傾き、


 紅く染まり始めた空の中、


 山の古巣へ帰り往く、


 カラス達が高く、低く、鳴いて飛ぶ。


 地上の戯言(たわごと)よりも美しい、ソレが無性に心に()みたティリアであった。


 

    

  













たったこれだけの文章を書くのに一年半もかかってる自分にちょっと落ち込んでます(涙)。

もっと早く書ける様になりたいです、切実に。

とりあえず、いざ書き始めようとすると手が止まってしまう癖をどうにかしたいです(悩)。

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