第1節 1.憧れだったはずの異世界転生
体を動かしながら延々と考える。
どうしてこうなってしまったんだ、と。
話は少しさかのぼる———
———しばらく前
「さてと、今日はどのゲームで遊ぼうかな」
私は今日遊ぶゲームを吟味していた。
26歳独身。
おまけに無職ニートだ。
遊ぶ時間だけはたくさんある。
「お、このゲーム新作出たんだ!これにしよっかな~」
以前好きでやりこんでいたゲームの新作を見つけ私は目を輝かせた。
購入してダウンロード待ちの間、自分のことをぼんやりと考えた。
なぜ私が無職ニートをしているのか。
それは私の精神力が弱すぎた結果だ。
社会の波にもまれ、心がぽっきり折れてしまって外に出れなくなったのだ。
「あ~ぁ、ここが異世界だったらなぁ。そしたら私、頑張れる気がするのに。」
そんなことをぼんやり考えていると、ふらっとめまいがした。
めまい自体は普段からあるから特に気にしないけど、今日のめまいは少し違和感があった。
「ダウンロードできるまで時間あるから、少し寝ようかな。昨日も寝不足だったし、多分そのせいだよね。」
布団にもぐり、目をつむる。
これがこの世界最後の瞬間だとも知らずに———
———・・・
———い、おーい。
声が聞こえた。
優しいような、厳しいような、不思議な声だ。
私はそっと目を開けると知らない場所にいた。
暗いけど明るい、白いけど黒い、そんなよくわからない場所だ。
周りを見渡すと少し離れた場所にぽつんと机と椅子が置いてあり、そのすぐそばに胡散臭そうな男がいた。
「おーい。目を覚ましたんならこっちにきておくれよ。」
男はそう言って手招きをする。
私は怪しいとは思ったものの、こんな現実ではありえないようなこと、夢以外の何物でもないなと考えて言葉に従うことにした。
夢の中だからか、寝る前にあっためまいは綺麗さっぱりなくなっている。
ゆっくり立ち上がり男に近づいていく。
「よしよし、来てくれてありがとうね。ボクは神。君が住んでた世界とは違う世界を管轄しているんだ。まぁ座りなよ」
なんでもないことのように男は”自称”神を名乗った。
そして目の前の椅子に座ると私をじっと見てくる。
私も、夢だと思って神だと言うこの男の言葉を流して反対側の椅子に座った。
「さて。まず現状を簡単にまとめるね。キミは元の世界で死んだんだ。眠るように息を引き取ったらしいよ。苦しまなくてよかったねぇ。それで、まだ魂が元気だからボクが貰ってきちゃった。今度はボクの世界で生きてもらうよ。」
突拍子もない言葉に一瞬息が詰まった。
けど、私はここが”夢”だと思い出し、話に乗って少しでも楽しもうと思った。
しかし、こんな予測できない夢を見るのは久々な気がする。
まるで小説で読んだ異世界転生みたいだなと思い——
「つまり異世界転生ものの夢ってこと?!うおおお!!久しぶりにこの夢が見れた!!私の脳みそに感謝を——!!」
一人テンションが上がっている私を横目に、”自称”神は呟いた。
「——まぁ、転生は転生でも、人間に、じゃないけどねぇ...」
———・・・
「——ふう、落ち着きました。ごめんなさい神さん。それで?異世界転生の夢ってことは能力とかも選ばせてくれるの?」
私は呼吸を整えながら”自称”神に問いかける。
「もちろんだよ。あまりにも無茶なものじゃなければ能力をつけてあげれるよ。どんなのがいいとか考えがあるの?」
「当たり前!!私も異世界転生ものの小説を読んでるからね、能力は色々考えてるよ!」
そうして私は”自称”神と沢山お話をした。
あーでもないこーでもないと、様々なやり取りをして選んだ能力が、この一覧だ。
・言語理解
・魔力操作
・創造魔法
・収納魔法
・全耐性
ほんとはもっと欲しかったけど、創造魔法がやっぱりだいぶ強いみたいでそこにリソースを持っていかれた。
言語理解はそのまま、異世界に行っても言葉を喋ったり文字を書けたりするためのものだ。
魔力操作は魔力というものがわからない私には必須の能力らしい。
創造魔法は自分の想像した通りの魔法を作れる魔法。
かなり難しく、想像することができなければ使うことすらできない魔法だけど、神さんが私ならきっと使えるって言ってくれたからこの魔法にすべての希望を詰めてみることにした。
収納魔法はそのまま、別の空間に収納機能を持つことができる魔法だ。
多分創造魔法で作れただろうけど、想像魔法の難しさもわかってないし初期から収納魔法があるのとないのじゃ大違いだろうから追加させてもらった。
全耐性はそのまま、毒や衝撃、麻痺など、すべての出来事に耐性を持ってるということだ。
これがあるのとないのでは死ぬ確率が変わってくる。
せっかく異世界転生できたのに早々に死ぬなんてことは避けたい。
本当は無効が欲しかったけどそれはさすがに無理らしい。残念だ。
「どう?これで満足してくれるかな?」
”自称”神は少し疲れた様子で私に話しかけた。
「すっごく満足!あ~、これが夢じゃなくてほんとに異世界転生できたらよかったのになぁ~」
私は椅子に身を投げ出しながらつぶやく。
その私の様子にきょとんとしながら”自称”のはずの神が言った。
「何言ってるの、ほんとだよ?キミは今から異世界転生する。」
「・・・え??」
「じゃ、準備もできたし向こうに送るね~。元気にやっていくんだよ、ボクが見ててあげるから。まぁ見てるだけだけど。じゃあね~」
その瞬間意識が暗闇に落ちていく。
思考が停止している私を置いてけぼりにして。
———・・・
と、まぁ、こんな感じでこの世界にほっぽり出された私は目覚めて最初に驚いた。
まず人間ですらなかった。
自分の感覚を信じるなら、私の体は明らかにドロドロした感じの・・・液体状なのだ。
たとえるなら、そう、スライムのような…
そして現在いる場所がどう考えても洞窟のような場所なのだ。
自分の種族も、どこにいるのかも、なにもわからない。
少しの間放心していた私だが、変わらない現実に、ようやく思考が追い付いてきた。
私自身がモンスターのようである、ということはだ。
この場にはほかにもモンスターがいる可能性が高い。
すなわち、このままだと襲われて死ぬ、と。
そこから私は早速行動にうつることにした。むしろ行動しないといけない、そんな気がした。
かろうじてぼやけて見える洞窟内を這って進み、小さな横穴を見つけた。
このサイズなら私のように液体状のものかよっぽど小さい生き物しか入ってこれない。
横穴の中は少しスペースに余裕があるくらいの広さだった。
横穴の中で私は自分の中心に集中する。
体の中心という意味ではなく、心の中心だ。
適当に話を聞いていた中でかろうじて覚えている神さんが言っていたこと。そうしたら魔力がわかると思うよって。
…10分、30分、1時間…
どのくらい集中していたのか、ふと、心の中に暖かいものが溢れていることに気が付いた。
これが、神さんが言っていた魔力なのか、わからないけれど、わからないからこそ私はそれに集中した。
暖かいものを見つけてからは早かった。
暖かいものを自在に動かせるようになったのだ。
形も作って操ることもできる。
多分これが魔力で、”魔力操作”の能力なんだと理解する。
そのまま私は自分の中の魔力だけじゃなく、自分の周りの魔力も認識できるようになり、操作することもできるようになった。
そのおかげで私は周りの景色もより鮮明にわかるようになった。
この横穴は偶然空いただけのひび割れだったらしい。
そこから私は元の場所に戻った。
私が生まれた場所付近は何かがいる形跡もなく、恐らく安全な場所だったんだろう。
あの胡散臭い神さんもさすがにそこは配慮してくれていたらしい。
動きなれないこの体を少しでも動かしやすくなるように動く練習をしながら、魔力操作の精度をあげる。
なんでこんなことになったのか、と考えながら———
———・・・
異世界に転生してから数日が過ぎた。
——いや、私の体内時計なので実際はもっと経ってるかもしれないが——
この体は今のところ食事を必要としていない。
だからこそ時間いっぱい自分の体に向き合うことができた。
そして向き合った結果———
私はこのどろどろの体に諦めをつけた。
だって、遅いし、きもいし、動きづらいし……
——ということで私はエルフになることにした(?)
・・・もう一回いうね、エルフになることにした!!!!
いや誰に向かって叫んでいるんだ。
落ち着こう。
ふう…。
こんな場所に長時間一人(一匹)でいるのだ。
情緒がおかしくなってもしかたないので許してほしい。
エルフになろうって言ったのには何も理由がないわけじゃない。
創造魔法を試したり自分の体を調べたりしてわかったことがあるのだ。
このどろどろは、どうやら形を変えられるらしい。
魔力の質を固くして自分の体も固めれるのだ。
丸、四角、三角、そしてゴーレムのような二足歩行のものにもなれた。
動き方は人間と変わらず、少しぎこちないが普通に歩けた。
そして、練習すればいずれ人間のような見た目になることもできると確信している。
だから今すぐエルフになるわけじゃなく、徐々にエルフに近づけていく、が正しい。
そう、なぜ普通の人間ではなくエルフなのか……
——それは、私がエルフが大好きだからである!!!
エルフ耳にピアスをバチバチに開けたりとかしてみたい!!
完全に自分の欲望である。
———とりあえずこの話は横に置いて。
今現在私はどろどろを卒業し、デフォルメされた人間型ゴーレムのような姿になっている。
もちろんいつでもどろどろにも戻れるし、一部分だけ変化させることもできる。
私は思っていたより有能なのかもしれないな…
人間型ゴーレムの大きさはざっくり計算で大人の人間の腰くらいまでの大きさがある。
きっと、何かしらの方法でどろどろの大きさが変わったり、魔力に変化があれば大きくなれると予想している。
そして創造魔法のおかげである程度の防御魔法や攻撃魔法、移動するための魔法などを開発できた。
紹介は後でする。
楽しみは後にとっておかないとね。
今の姿のミニゴーレムは見た目はいびつだが、中々動きやすい。
やはり元人間として二足歩行が一番慣れているのだ。
そして見た目も少しだけいじった。
歪なのは変わらないが、顔を作り口から話せるようにした。
どろどろを変質させて服のようなものも着た。
そして一番は、青い髪の毛をはやした!!
これはとても重要だと自分では思っている。
歪なゴーレムには少し不釣り合いなサラサラの髪。
ここだけはめちゃくちゃこだわった。
髪の毛が生えたことでゴーレム感が薄れ、少し人間っぽさが出た気がする。
けして、青髪に憧れていて譲れなかったわけではない。けして、だ。
———・・・
今日から動く練習だけじゃなく、私が生まれた場所から離れて他の生き物の調査や外に出るために行動をしていこうと思う。
長かったような短かったような、そんな気分だ。
まだ練習とかしていた方がいいって?
そんなの、私もわかっている。
けど、どうしても耐えられないんだ。
たった一人だということが。
せめて仲間になってくれる動物とかが一匹いればよかったけど、この場所には何もない。何物も来ない。
だから私は探しに行く。
自分以外の生物に会うために。
そのために作った魔法がこれだ!
・土魔法
これは、なぜかこの体と一番相性よくて一番に作ることができた。
主に土の槍を出したり、地面を液状化させたり、土壁を出したりして使う。
ちなみに、今の私の体も土魔法を少し使っている。
・光魔法
といっても、癒しとかそういうものではなく、ほんとに名前の通り、明かりを生み出す魔法だ。
洞窟の中は暗い。
魔力操作のおかげで何となく周囲のことはわかるけど、やっぱり明かりがあった方がいい。
・身体強化
これが一番苦労した。全身に巡らせた魔力を使って移動スピードを上げたり力を強くしたり防御力を上げたり………なんて簡単にできるわけもなく。
自分の形が不安定な今できたのは移動スピードを二倍ほどにあげることと、少しだけ防御力と攻撃力を上げることだけだった。
・風魔法
これは絶対に作ると決めていた魔法だ。
風魔法があれば空を飛ぶという憧れを実現できるかもしれないからね!
ただ今は移動力を上げる補助としか使えない。
練習あるのみだな。
ここまで作って気づいたことがある。
おそらくだが、私の魔力量は多い。
創造魔法がばかみたいに魔力を使うのにもかかわらずこの数日間で私は一度も疲れなかった。
これも神さんのおかげなのかな。
でも絶対にお礼はいってやらない。
何も言わずにどろどろに転生させた罪はおもいんだからあああ!!!
(※言ってます)
ま、そういうことで、私は前世も含めて初めての旅をすることになったのだ———
———・・・
——探索を初めて数時間。
代り映えのしない景色にうんざりし始めていた頃。
私は発声練習(独り言)をしながら歩いていた。
「こんにちは!こんにちは!誰かいませんか~!こんな場所で一人は寂しいよ~!誰かいないの~??」
まだ発声に慣れていないためか、少し無機質な声で話し続ける。
「誰でもいいから出ておいでよ~。こんな場所で一人は寂しいよ…」
まぁなにも出てこないわけなんだけれど。
そんな感じで歩いていくと、少し景色が変わった気がした。
今まではただ岩壁があるだけだったのに対して、今の周りの景色は少し草が生えている。
この草が何なのかはわからない。
だから観察してみることにした。
「ふむ……普通の雑草、にもみえるけど、こんな場所に生えるものなのかな…。あっ、あっちの草には花がついてる!小さい白い花だね…なんだろう、これ。」
先に進めば進むほど増えていく草。
悪い感じはしないから多分安全なんだろうけど、何の草なのかわからないのが気になる。
「——あっ、そうだ!鑑定魔法を作ればいいんだ!っていっても、今すぐは絶対無理だな…鑑定魔法なんてどうやって作ればいいのか見当もつかないし。だから……」
私はおもむろにすぐそばの草を手に取った。
そして、次の瞬間その草は虚空に消えた。
「収納魔法の存在忘れてたよ~。そうじゃんね、しまっておいて後で調べればいいんだよね!よーし、たくさん集めておこう!!」
私は片っ端から草を集めては虚空に放り投げていった。
ついでに、そこら辺にある石ころなども少しだけ拾っておく。
もしかしたら何かの価値があるかもしれないからね。
沢山拾ったけど、収納魔法はまだまだ余裕がありそうだ。
そしてある程度集まったあと、私はまた当てもなく歩き出した。
———・・・
「あれ、分かれ道だ。右か、左か……どっちに行こうかな。」
私は突然現れた分かれ道に頭を悩ませる。
右は少し上りになっていて、左は下りになっている。
現在地がわからない以上、上に行くべきか下に行くべきかがわからない。
「どうしようかな……」
数分悩んだ末、私は右に進むことにした。
なんとなく出口は上だと思ったからだ。
この時の私は知らない。
この選択が私の運命を大きく動かしたことを———
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