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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん
第二日目

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第二日目④

踏切を渡ると、

道は海沿いへ続いていた。


防波堤。

小さな漁港。

揺れる船。


空はどこまでも青い。


リツカは何度も立ち止まりそうになる。


見るもの全部が珍しかった。


網を干している人。

波に揺れる浮き。


並んだ自動販売機。


特に、赤や青に光る飲み物の箱は理解不能だった。


「……これは?」

リツカが指差す。


奈緒が振り返る。

「あ、自販機」


「じはん……」

「飲み物買えるやつ」


買える。


ここで?


リツカは近付いてじっと見る。


透明な壁の向こうに、

色んな瓶や缶が並んでいた。


冷気まで感じる。


魔道具にしか見えない。


「……すごいです」

「そんな感動するとこ?」


奈緒が笑う。


リツカは真剣だった。


この世界は、

“便利”が当たり前すぎる。


水が出る。

湯が沸く。

鉄の箱が走る。

飲み物が勝手に冷えている。


なのに、

誰も驚いていない。


不思議な世界だった。


その時。


ハクが突然、

ぐいっと横道へ曲がった。


「あっ」


リツカが引っ張られる。


奈緒はスマホを確認しながら歩いていた。


「ハクー?

そっち違……」


しかし。


次の瞬間。


ハクはどんどん進む。


細い道。

知らない角。

民家。

坂。


「え、ちょ、待っ……!」

リツカは必死に付いていく。


奈緒の姿が見えなくなる。

「……奈緒さん?」


返事がない。


リツカは立ち止まった。


静かだった。


聞こえるのは、

遠くの波音と、

風の音だけ。


「…………」


迷った。


理解した瞬間、

じわっと不安が込み上げる。


どこだここは。


帰れるのか。


異世界でも方向音痴気味だったが、

知らない町では致命的だった。


リツカはきょろきょろ周囲を見る。


似た家ばかり。


道も分からない。


すると。


ハクが振り返った。

「……ハクさん」


ハクは当然みたいに歩き出す。


まるで、

“ついてこい”

と言うように。


リツカは迷った末、

その後を追った。


坂を上る。


石段。


鳥居。


リツカは足を止めた。


「……神殿?」


そこは、

小さな神社だった。


古い木の社。


揺れる鈴。


静かな境内。


風に葉が揺れる音だけが響いている。


ハクは満足したように、

木陰へ座り込んだ。


……迷子の末に、

なぜここへ。


リツカは困った顔になる。


けれど。


不思議と、

空気が落ち着いていた。


異世界の神殿とも違う。


もっと、

静かで、

人の生活に近い場所。


石段の上から、

町が少し見える。


青い海。

線路。

小さな駅。

煙突から上がる白い煙。


リツカはゆっくり息を吐いた。


知らない世界だった。


でも。


この町は、

どこか優しい。

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