永久欠番
【2月】
黒髪ちゃんが始発列車から、姿を消した。
ボイスレコーダーを持ち出した時点で、別れが近いことは分かっていた。一体何に使うのかはわからないが、黒髪ちゃんならきっとうまくやるだろう。俺は留守になった自分の特等席を見つめる。
そう、見つめていた。
…俺は、元特等席には戻らなかった。
あれから何か月たっただろうか。
すっかり元の3人の貸切始発列車が様になってきた。依然、貸切状態の始発列車が破られる様子などない。俺はいつも通り、駅のホームで寝ぼけながら電車を待つ。無人駅にアナウンスの上昇音が鳴り響き、ゴトン…ゴトン…という音が迫ってくる。
そうして電車が到着し、自動ドアが開いた時だった。俺のボケボケとした表情は、風と共に吹き飛んで行った。
俺の特等席に座っていたのは……
天使のわっかが輝く、セミロングの女の子。
なんだか急に感慨深い気持ちになる。根拠はなかったが、彼女は必ず帰ってくると思っていた。
所詮は赤の他人、話しかけようなどと言う気は皆無。顔すらめったに合わせない。
だが、あれだ、その....
挨拶ぐらい交わしても、かまわないだろう。
「おはよう。」
「お、おはようございます…」
「あら、おはよう。」
「おはようさん。」
今日も貸切始発列車は、ゆっくりと動き出す。
その日の空は、ほんのりと…明るみを見せた。
-- fin --
ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました。