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転生博士の魔術原論 ~魔術適性ゼロの子爵家に生まれた少年は魔術を再定義する~  作者: 式部 夜未
第五章 声なきものの伝播について

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幕間 鐘の届かぬ先

 王城の執務室で、王太子レオニス・フェルマティアは報告書から顔を上げた。


 報告に来たのは近衛隊の副官だった。弟エリオンにつく護衛から上がった内容をまとめたものだという。


「電流、と呼ばれる雷に似た流れを銅線へ通し、離れた場所の鉄片を動かした。さらに、その動きに符号を与え、研究棟の廊下の端から端へ合図を送ることに成功した、か」


 レオニスは、ゆっくりと報告の一節を読み返した。


 弟が一人の特待生に強い関心を示していることは聞いていた。


 エリオンは好奇心が強いが、他人に深く執着することは少ない。その弟が、ユリウス・ヴァルディエルという少年の研究室へ何度も足を運んでいる。


 それだけでも気にはなっていた。


 だが、今回の報告は、弟の気まぐれで片づけられるものではない。


「松明でも鐘でもない合図か」


 レオニスは小さく呟いた。


 城門。兵舎。港。軍務院。


 王都の要所を結べば、伝令にかかる時間は大きく削れる。さらに距離を伸ばせるなら、国境砦との連絡すら視野に入る。


 もちろん、研究棟の廊下で成功したものが、そのまま王国の通信網になるわけではない。


 それでも、見過ごすには大きすぎた。


「この研究について、さらに詳しい情報を集めよ」


「はっ」


「ユリウス・ヴァルディエル本人、エルネスト教授、同席していた者の証言。使用した道具、距離、符号、失敗の有無。できるだけ具体的にだ」


「承知しました」


 副官が頭を下げる。


 レオニスは、報告書の雷魔術という文字へ視線を落とした。


「それと、ドルンベルク卿にも意見を求めたい。雷に関わる事象なら、あの方の見解は必要だろう」


「ジークフリート・ドルンベルク卿に、ですか」


「そうだ」


 レオニスは報告書を閉じた。


「もし事実なら、これは早急に扱いを考えるべき研究だ。弟の遊び相手では済まない」


 窓の外では、王都の鐘が時を告げていた。


 だが、レオニスの手元にある報告は、その鐘よりも速く、遠くへ意味を届けるかもしれない技術について記している。

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