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77話・あなたの顔なんて見たくもない

「きみの事は色々と聞かされていたよ。大活躍だったみたいじゃないか? ベーカー男爵の夜会の件や、ハッターレ侯爵へのお仕置きなど聞かされてお腹が捩れるほど笑ったよ」

「それはどうも……」

「さすがバイス家の破天荒な末娘。他のご令嬢ならなかなか出来そうにないことをしてみせる。規格外の我が奥方だ」

「私はもうあなたの妻ではありませんのよ。陛下から離婚の許可がおりましたから」

「表向きには、私は療養中ではなかったかな?」

「リギシア国での事情をよくご存知ですのね? あの検分所にすでにあなたの手の者を潜り込ませていたようですから、あそこを拠点に間者を連れ込んでいたのかしら?」


 父の領地で好き勝手してくれたアントンが憎たらしく思えてくる。父はアントンが入り込んでいたとは知らない。でも、これでもし、あの検分所がトロイル国の間者達が侵入していて隠れ家となっていたとしたら、父は責任を負わされることだろう。

 アントンは事の重大さを感じさせない口調で言った。


「いや、あそこを使ったのはたまたまだよ。陸路よりも水路を使った方が人目を避けやすそうだと思ったんでね。先に検分所に上がりこんだ仲間が、自分達が乗る丸太船を桟橋に寄せようとしたら、きみの目に留まってしまった。仲間もきみを薬で気を失わせたのはいいが、すぐに護衛達が戻ってきて、慌てた仲間はきみを船に隠し、我らはその場から逃げ出すことしか出来無かったと言う訳さ」


 きみを攫ってしまったからね、足がつくのも早そうだ。もう二度とあの手は使えそうにないね。と、少しも残念そうに聞こえない声で言う。


「あなたは一体、何をしたかったの?」

「やだな。ユリカ。お説教かい? きみはそんなにお節介な性格ではなかったはずだろう? 私はそろそろ時間だ。宮殿に行って来るよ。あとはアンナ、頼むよ」

「畏まりました」


 アントンはベッドから腰を上げると、アンナに任せて退出して行った。二人の間には目に見えない絆のようなものが感じられた。


「あの人はここで何をしているの?」

「それは私の口からは言えません」


 アンナは口を噤む。その態度が苛ついた。


「あなたはいつからあの人を狙っていたの? 私が離縁される前からあなた達は深い仲だったの? あの時、私はあなたに泣き付いたけど、あなたは私のことを慰める振りをしながら内心あざ笑っていたのでしょう? 酷い人ね」

「そのようなことはありません。アントンさまは奥さまのことを大事に思われていました」

「あら、模範的な侍女の答えね。でも、私はそれを望んでないわ。本音を言ったらどう?アンナ。子育てに夢中になって夫の世話まで手が回らない奥さまに代わって、自分が旦那さまの身の回りや閨のお世話をしてきたんだってね」


 私の発言にアンナは顔色を変えて、言い返してきた。


「よくお分かりのようではないですか。アントンさまに貴女は不釣合いだったのですよ。奥さま」

「私の事を奥さまだなんて言わないで。もう私は離婚したのよ。あの人の妻じゃない」

「ああ。そうでした。忘れてましたわ。奥さまはアントンさまに捨てられたってこと」


 アンナはくすりと笑う。彼女に挑発されて私は憤りを感じた。


「アントンさまは閨でおっしゃられておりましたわ。あなたさまとは子供の為に結婚しただけだって。子供の良い世話係が出来て良かったと言っておりました。奥さまは従順な御方だから自分の言う事に逆らいもせずに尽くしてくれるから良いようにこき使えると」

「……」

「初めは陛下のお声がかりで面倒なものを感じたけれど、良い拾いものをしたと言ってました。おかげで私と深く愛し合えると」


 可哀相な奥さま。と、言いながらほほほと高笑いするアンナを見て私は気が高ぶった。ベッドから降りて彼女に近付く。利き手を振り上げるとぱあんっと派手な音が上がった。


「出て行ってっ。あなたの顔なんて見たくもない」


 そこへタイミングが悪く、一人の侍女が入って来た。


「痛い~」

「アンナさま。どうなさいました?」

「酷いわ。この人、私をいきなり殴ったの」


 侍女はアンナが頬を押さえて蹲ると、そこに駆け寄り私をキッと睨みつけた。


「まあ、お優しいアンナさまに何てことを。大丈夫ですか? アンナさま」

「ありがとう。ミール」

 頬が腫れてます。あちらで冷やしましょうね。と、侍女はアンナを連れて行った。



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