第100話
人間界は、花が風に揺れ、鳥は青空を泳ぐ。
セントラルクルス教会謁見室には、斎を含めピエール以下全位階の代表が列席していた。ピエールと斎が玉座に座し、下段に代表者が横一列に並ぶ。
クラウドはセディアに咫嘶からの書簡を手渡す。それを受け取り一読したピエールが、嬉しそうに愁眉を開いて髭をひと撫でした。
「確かに承りました。バスウン卿、これを各位階の代表へ回して下さい」
「はっ」
彼らが一通り読み終えたのを確認し、ピエールが立ち上がる。
「皆さんご苦労様でした。世界の自然荒廃は食い止められ、書面にあるよう魔族侵攻の危機も去りました。この先やるべき課題も多くありますが、まずは互いの働きに感謝をしましょう」
クラウドたちは互いに拳を合わせて喜びを分かち合う。ピエールが歩み寄り、そして一人一人の手を取って声をかけてきた。
「クラウド、あなたのような聖騎士がいてくれること、教会として誇りに思いますよ。カズキ君をよく護り、よくぞ帰ってきてくれました。カズキ君、召喚士として一番の負担をかけましたね。それでもやり遂げてくれたこと、嬉しい限りです。叉胤、あなたは辛い立場の中よくやってくれました。その知識と魔力は、我々を含めて大きな助けになってくれましたよ。ナシュマ、あなたがいなければ全てを終わらせることは難しかったでしょう。素晴らしい洞察力です。これからも多くの人々を助けてあげて下さい。ヨハン、その剣での働きと知勇に感謝します。ザーニアの傭兵の実力、さすがという他ありませんね。そしてソギ――」
ヨハンに抱えられるソギの額に手が置かれた。クラウドもカズキも、ナシュマも叉胤も、皆ソギに触れる。
「あなたには、鳥や動物を通してたくさん助けられました。クラウド達が迷わず旅を進められたのは、あなたがいたからですよ。皆を導いてくれて感謝します」
「これで終わったんだぜ。だから、いつ目を覚ましても大丈夫だ」
ヨハンが瞼に唇を落とした。ぴくりとソギの指先が動く。どこからともなく飛来したソギの鷲が、ヨハンの肩に止まった。目覚めはしなかったものの大きな進歩だった。
「さてクラウドはこの先どうするのです?」
「私は――」
この後のことはカズキと決めた。クラウドはカズキの手を握る。
「お許しをいただけるのであれば、今しばらくは召喚士の守人として彼に従い、傷む自然を戻す旅に出たいと思っております。そして我々の友人を救う為にも」
「友人? ――ふむ、なるほど。諦めてはいないのですね」
「アイツと約束したからね」
ピエールには誰のことか分かった様子で、髭を撫でて頷いた。ライシュルトが番人になってしまったと知っているのは、あの場にいた聖騎士以上の者のみだ。表向きは、密命でセントラルクルスを出たことになっている。
「分かりました。クラウド、守人として聖騎士としてカズキ君を護るのですよ。これをあなたに預けます」
セディアが立ち上がり、ピエールから一振りの剣を受け取る。それをクラウドの前に差し出した。
形は聖騎士の紋章剣に似ている。白銀に輝く剣身は目に見えるほど強力なオーラを纏い、赤や緑といった宝飾が散りばめてある鞘にも、同様の力が感じられた。
「これは……」
「紋章剣の元となる宝剣だ」
「クラウド、これ聖獣の力が入ってる」
「聖獣の?」
「教会に代々伝わるものです。召喚士一族の宝でもあったのでしょう。おそらく召喚士の守人であるクラウドならば使いこなせるはず。持ってお行きなさい」
「ありがとうございます。必ずやカズキを護ります」
クラウドは恭しく両手に取ると、剣が鳴いた。適度な重さ、初めてとは思えぬほど柄は手に馴染む。
「素晴らしい剣ですね」
「今まで誰にも扱えなかったものだが……剣もお前を選んだか」
「さすがボクのクラウド!」
「クラウド、頼みますよ。そしていつでも帰ってらっしゃいな、カズキ君も一緒に。教会はあなたの家、聖騎士はあなたの家族です。待っていますよ、父として」
「ピエール様……」
二人の手に重ねられたピエールの掌が、とても温かく大きく感じられた。言葉は素直に嬉しく、聖騎士としてこれほど誇らしいことはない。
その後小規模ながらもを労を多とする宴を設けてくれ、クラウドたちは心行くまで楽しんだ。
そして太陽が月へと変わる頃、ピエールに許可をもらい、ソギを含めた皆で封印の扉へと向かった。全員で報告がしたかったのだ。親友であり仲間でもあるライシュルトへ。
月明かりに伸びる柱の影が、くっきりと扉に映し出されている。
「ライ」
クラウドはライシュルトの剣を引き抜いて扉の前に置いた。
「聞こえているかい? 終わったよ、全て。霤碧は助かり、人間界への侵攻も回避された。ライのおかげでもあるね。ありがとう」
「ライシュルト、約束守ってあげたよ。だから次の約束果たすまで、あんたも少しは頑張ってよね」
――コン。扉が鳴った。
「そこにいるのか?」
返事のように二回。
「一枚の扉はあるけど、繋がっているんだな。俺達、仲間として」
「ふふっ、旅の話をしてもいいかな?」
「大変だったんだから。クラウドが」
「俺の武勇伝も話してくれよーカズキ」
「さて、どこから話そうか――」
彼らの語らいは夜明け近くまで続いた。
扉の黒。
床の緋色。
月の白。
月明かりに反射した紋章剣が幽遠に光り、どこからか鈴の音が凛と部屋に響いた――。
Two Justice本編としてはこれで終了です。少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。
エピローグがありますので、そちらもお暇なときにでもどうぞ!




