第9話 いざ、モグラーギルドへ
「俺もその調査団の一員に加えること。それがノアがリーダーになる条件だ」
リックが全てを理解する。
「勿論OKだ。そりゃ息子だもんな。心配するのはあたり前さ。それにお前は腕一本でも中年のおっさんになっても、このヒューマニア王国の現冒険者と比べたら雲の上の存在だからな。実力的にも何の問題もないさ」
話はまとまり、リックは今から王都へ報告に向かうことに。そしてリリカはティアを連れて家に帰ることに。
「お兄ちゃんは帰らないの?」
「ティア、お父さんとノアは今からモグラーギルドへ行く必要があるんだ。夕食はみんなで一緒に食べような!」
「……うん」
冒険者ギルドを出てロイとノアはモグラーギルドへ向かって歩いていた。城下町コンクーリはブロッカ地域とは違ってギルドや商店など一部の建物が中級魔土を使用して造られていた。低級魔土で造られたブロッカとは違い、どこか美しく頑丈そうである。
ノアはそんな建物に対しても興味を持っている。
「いいなぁ。僕はいつか神秘の魔土<ミステラ>で建物を造ってみたいなぁ」
「ははは。ノアは本当に伝承を信じているんだな。ミステラなんてお父さんも見たことないぞ。でもそういうノアが持っている夢は大事にするんだぞ。いつかノアの力で叶えるんだ」
こう言った話を父親のロイはちゃんと受け止めてくれる。ノアはそれが嬉しかった。
「さて、着いたぞ。モグラーギルドだ」
ロイは受付で早速状況を説明する。
「何と! E級ダンジョンが成長したんですか!」
受付係のシェリが大喜びでギルドマスターのもとへ。
「シェリさん、喜んでいたね」
「まぁ、モグラーからしたら、ワクワクが増えるって感じなのかな」
シェリが戻ってきた。そしてロイ達をギルドマスターのもとへ案内する。
—ガチャ
「失礼します。マスター、お連れしました」
「おう、ロイか! 久しぶりだな」
「ボイドさん、ご無沙汰です。お元気そうで何よりです!」
長いヒゲを生やした背の低い屈強なおじいさんというべきか、いやこの人はドワーフだ。ノアは生まれて初めてドワーフ族を見た。その興奮と興味が抑えきれない。
「お、おい、ロイよ。こちらのものすごく熱い眼差しでワシを見つめる男の子はまさか……」
「えっと、私の息子のノアです」
「初めまして。ノア・グリードと申します! よろしくお願いします」
「ワシはモグラーギルドのギルドマスター、ボイドじゃ。よろしくな、ノア」
ノアの表情がパァっと明るくなった気がする。とりあえず、それは置いといて本題に入るロイ。
「ほうほう、ダンジョンが成長したとな。それで、この10歳のノアが調査団のリーダーとはのう。こりゃ愉快じゃな。そういえば最近10歳の子供がダンジョンをモグりまくって荒らしておるという噂を耳にしておったのじゃが……」
「「来た……微妙な展開だ」」
目をそらすロイとノア。怪しさが漂っていて誰でもわかる。
「……ふむふむ。なるほどな。リックの意図がようわかるわい。それならワシもその案に乗っかってみるとするか」
「え? と、言いますと?」
「モグラーギルドからもS級は出さん。今回はノアをモグラーの代表とし、サポート役にロイを抜擢する」
「えぇ! ボイドさん、ちょっと待ってください。ノアはすでに調査団のリーダーで……」
「隣の息子の顔を見てみい」
嫌な予感はした。そして予想通りノアが嬉しそうに、そして猛烈にワクワクしている。
「そもそも、それ以前に噂が尾ひれをつまくって王都まで歩いていきおったぞ。10歳の子供がE級D級ダンジョンを荒らしまくっておるとな。いっそのこと、ここででっかいもんモグって見つけて持って来い! それでモグラーギルドから上級の資格を与えてやるわい。ガッハッハ」
(さっきも聞いたような話だな……まぁ、仕方ないか。ノアも喜んでるし丁度いいか)
「ノア、調査団のリーダーであり、モグラーのリーダーだ。大丈夫か? できそうか?」
「お父さま、僕は全力で受けた任務を全うする所存です」
「う、嬉しそうだな……どこでそんな言葉を覚えたんだ。全く……それじゃぁ、ボイドさん。ご提案いただいた通りに進めてください。こちらも準備しておきます」
「了解した! それではシェリ! あとは任せたぞ」
「は〜い! 承知しました」
退室しようとしたロイをノアが引き止める。
「ちょっと待って、父さん。ボイドさんに聞きたいことがあるんだ」
「ん? あぁ、いいよ」
「何じゃ? ノア」
ノアは自分で作った探掘刀を取り出してボイドに見せる。
「これは僕が作った探掘刀です。これを超えるものをダンジョン調査までに作りたくて」
じっくりと探掘刀を鑑定するボイド。
「なんと……お主これを本当に自分で作ったのか?」
「はい! もうボロボロだから新しいのをと思って。材料は準備してあるんです」
「材料じゃと? どんなものじゃ?」
「これです」
袋からツノと額の殻を取り出してボイドに見せる。
「な、なんと! ジャイアントソイラアントじゃと! ノアよ。お主が討伐したのか?」
「はい。そうです。今日お昼前に取ったんで、まだ新鮮ですね」
「しかも切り口が見事じゃ。こりゃ解体をさせても一流の素質があるようじゃな……ふむふむ……ノアよ。お主はモグラーの探掘士の資格も欲しいか?」
「「えぇ!」」
探掘調査士<モグラー>の資格は実は2種類存在する。一つはダンジョン調査士であり、先ほどのボイドが与えると言った資格とは、まさにこの調査士のことである。調査士はF級からS級まで存在する。一方で探掘士の資格も存在する。
「探掘士はな、低い方から順に「スコッパー、シャベラー、ドリラー、ケイトラー、ダンプカー、ブルドーザー、ショベルカー」の7つの等級に別れておる。ちなみにワシはショベルカーじゃ」
「うぉお〜! そんな格好いい称号が! 父さんは? 父さんは探掘士の資格あるの?」
「……スコッパー」
「……なんだ。一番下か……」
息子から初めて蔑んだ目で見られたことにショックを隠しきれないロイ。ガクッと膝から崩れ落ちる。
「まぁ、待て待て。ノアよ。ロイはモグラーのS級調査士じゃ。その時点でとんでもなく素晴らしい逸材じゃし、こやつは今でもモグラーギルドに貴重な調査レポートを書いてくれとるんじゃ。ロイ抜きではモグラーギルドは成立しない。そして上級の調査士で且つ探掘士という人間はおらん。ロイがスコッパーの資格を持っているだけでも優秀じゃよ」
「そうなんだね! 父さんはやっぱりモグラーとしてもすごい人なんだね!」
パァっと明るい表情になって復活するロイ。
「話を戻すが、ロイよ。 調査する日時が決まって準備する間、ノアをモグラーギルドの鍛冶場に預けてみんか?」
「え? ノアを鍛冶場に?」




