第78話 木製の小物入れ
「今回は先に僕たちの住処マリーボイドを建てたから、ここに2名残して3人でダンジョンへモグろうと思うんだけど、皆それでいいかな?」
「住処は守らないと困るからね。僕はノアに賛成。護衛として残りたいところだけど、むしろマリーボイドが安全と考えると、残るのはエミラとリリーの二人がいいのかな?」
ヘンリーの意見にノアとティアも同意する。ティアは外で動きたいという気持ちみたいだ。
「私とリリーでここを守るわ。何かあったらマナフォンで連絡するわね」
こうして食料調達班の3人が決まり、早速出発することになった。
再びガイアの大地の上に立ったティアとヘンリーは急に恐怖心に襲われる。
広大なガイアで時を過ごすということがいかに孤独か、いかに危険と隣り合わせなのかを急に実感したのか、身体が重くなって足が前に動かない。
(ここはもう、簡単に王国へ戻れる距離ではない。もしも何かトラブルがあったら……)
ザッザッザッ。ノアが迷いなく歩き出した。
「よし! 二人とも行くよ! 今日は絶対に肉が食べたい! 鶏肉ゲットだ!」
二人の視界にノアの後ろ姿が映った瞬間、そこがいつもの日常に戻る。ノアの存在が二人にとってどれほど大きいものか。改めて理解したような気がした。
「あ! 上空に魔物が飛んでるぞ! フライングソイラバードが3羽! ティア、炎弾の準備だ。僕が左の2羽をティアが一番右ね! 同時に撃つぞ」
「任せて!」
ティアが詠唱し、炎弾を放つと同時にノアは両手で二発同時に無詠唱で撃つ。見事に3羽しとめた!
「やった! 落下地点に向かうぞ!」
ノア達がフライングソイラバードを回収しにガイアを走る。落下地点付近に何かあることにヘンリーが気づく。
「あれ、ダンジョンの入口じゃないかな?」
「ソイラバードを回収しながらノアが確認する。
「本当だ! ダンジョンだね。ちょうどいいからこのまま入ってみよう」
ヒューマニア王国の領域を超えたガイアのダンジョンは調査されていないためランクがわからない。しかし、今のノア達ならS級でも問題ないだろう。
「サーチライト!」
慎重に奥へ進み、ノアがモグって野菜をゲットする。ヘンリーとティアはその間周囲を警戒し、時々出て来る魔物を倒していく。
「ドブリン、ドロイム、ローソイラバットか……C級以下のダンジョンかな」
「今のところはね。でも油断をしちゃダメよ」
ティアはダンジョンで油断を見せない。魔物の強さに関係なく、警戒しながら攻撃している。あの時のような思いはしたくない。そのままさらに奥へと進んでダンジョンの雰囲気が変わったことに3人とも気付く。
「ここの下に何かあるみたいだ。前方から魔物が突っ込んで来るけど、二人に任せていいかな?」
「オッケー!」
頼もしい二人の返事を聞いて、ノアが探掘刀<レアラグロー刃>を装着する。
ザクッと刃を差し込んだ瞬間に感じた違和感、これは中級魔土だが硬さが異常だ。魔土の密度が高いのか? あるいは別の要素が……
掘りながら考えるノアの目の前になんと木製の箱が見つかった。
「すごい……木で作られた工芸品なんて初めて見た……」
その頃、ヘンリーとティアはハイソイラワームとキングソイラコングの群れに出くわし、交戦していた。
「ラ・ファイア!」
炎で焼き尽くすティアの魔土術攻撃を意識しながらヘンリーがキングソイラコングを真っ二つに斬り裂く。
《ティア、僕が奥の3頭をやるよ。手前の8頭くらい任せていい?》
《オッケー。気をつけて一番後ろは多分ボスザルよ! ひと回り大きいわ》
ヘンリーが身体強化魔土術を唱えてスピードをあげて群れに突っ込む。攻撃をかわしながら一番奥にいる群れのボスへと突き進み、一撃で仕留める。前方からはティアの炎でどんどん焼き払い、後方からはヘンリーの斬撃で斬り倒していく。あっという間に魔物の群れを殲滅した。そしてノアがちょうど良いタイミングで戻ってきた。
「二人とも派手にやったね! A級の魔物もいるのにこんなにあっさりと」
「お兄ちゃん、わざと出て来るの遅らせたでしょ?」
「あ、バレた?」
笑いながら謝るノア。その右手に持つ箱にヘンリーが気付く。
「それ、何を見つけたの?」
「樹木から作られた小物入れみたいだ。すごいよね? 木製なんだよ!」
流石にティアもヘンリーもノアが興奮している理由が理解できた。このガイアの大地で生活する人族にとって樹木とは王宮でしか見られない貴重な存在。それはグランサンクチュアの森でしか得られないはずなのだ。それがこんな遠く離れたガイアの大地で加工品を見つけたのだから状況が不可解過ぎる。
「ん? ノア。その木箱の裏側、何か彫ってあるよ。名前じゃないかな?」
< レーテル・グリムス>
「どこかの国の職人の名前かな? とりあえず、持ち帰って調べてみる」
食料調達も無事に終えたノア達はダンジョンを出てマリーボイドに帰還した。
エミラとリリーは拠点のマリーボイド周辺を探索し、遭遇した魔物を数体倒した後、十分な水を低級魔土から確保し、持ち帰っていた。
ノアとヘンリーで魔物をさばき、女性側で調理する。そうしてできた鶏肉入り野菜スープが高級魔土製テーブルの上に並ぶ。
「美味しそう! いただきます!」
「うん! いいね! 鶏肉が柔らかい」
「鳥の出しもきいているし、なかなかの味付けね!」
「お、美味しいわ。ちょっと感動ね」
全員が笑顔であっという間にスープを完食してしまう。ノアは黄金の卵にマナを注ぎ続けているため、正直食事の量が全く足りなかった。
「食事問題は結構大きな課題だなぁ。一応大量に食料をアイテム袋に入れて持ってきてはいるけれど、今の段階で減らしたくないし」
「そうね。しかもアイテム袋の中は時間が止まっている状態だから腐ったりしないからね。この先の窮地で使用すべきよね」
エミラもまた、ノアと同じ心配をしていた。思った以上にガイアの大地には食用の魔物が生息していないのか、今日は見つからなかった。
「ダンジョンの魔物も食用に活かさないとダメなのか、それともガイアの大地で狩りにもっと時間を避くべきか……まぁ、徐々に経験を積みながら対策を練っていこう!」
希望の剣で初めてとなる食事のメニューは王宮の食事とは比べものにならないほど質素なものだ。しかし、それはパーティーメンバー5人にとって特別に美味しく感じるスープだった。




