第77話 ついにお披露目、マリーボイド
「よし、この辺で一旦ガイアに降りるよ。エミラとティアは割と広い範囲で魔物索敵を、ヘンリーとリリーはフルーゲ着陸地点周辺を警戒して」
「「「了解!」」」
まだ、夕方前で日が落ちるまで時間は有るが初日ということで早めに着陸して宿泊拠点を準備することにした。
フルーゲが無事に着陸し、全員がガイアの大地に飛び降りて真っ先に身体を伸ばす。長時間同じ姿勢で固まっていた身体がやっと解放される。
「ノア。これからどうするの? 魔物は近辺にはいないわ」
「まずは今晩寝泊まりする拠点をつくる。初日だから皆一緒に作業しよう。時間もあるし。いいかな?」
誰も異論はないようだ。その様子を見てノアが早速ゴソゴソとアイテム袋を漁る。
「ちょっとヘンリー、こっちを持っててもらっていい?」
二人掛かりでアイテム袋からくるくると筒状に丸められた長さ9mはある布を取り出す。縛っていた紐を解いて巻かれた布をガイアの大地に広げていく。
「これって……巨大なアイテム袋? 小さなアイテム袋の中にこの巨大なアイテム袋を収納してたの?」
全員困惑している。ノアは何をしようとしているのだろう。全員に身体強化魔土術をかけ始めた。
9m正方形のアイテム袋からノアとヘンリーが大きなプレートを取り出す。
「皆、このプレートは四つ折りになっているから展開して」
言われた通りに5人でプレートを広げる。約18mほどの正方形となったプレート。わけがわからないというメンバーの視線を気にすることなく、ノアはテキパキ指示を出し、巨大アイテム袋から次々とパーツを取り出して、適切な位置に配置する。
「よし、次にこのフロアプレートの四隅にあるジョイントホールにウォールパネルを接続するよ。カチャって音がするまではめ込んでね! プレートと言っても結構重いから不安な人は更に補助系魔土術で筋力アップしてから運びましょう!」
「フロア、ウォールって……まさかこれ、私たちのねぐら?」
ニコッと笑うノアの表情を見て今回ばかりはたくましく思えるエミラ。流石にガイアでは簡易テントしかありえないと思っていたからだ。他のメンバーも何ができるかワクワクしながら作業を手伝う。
「ウォールプレートのコーナーもしっかり固定して。床と壁、そして壁と壁も固定する。それが終わったら天井プレートだ」
こうして苦労しながら高さ3m、広さ18m正方形の広い空間が出来上がった。
「でもノア……プレートだからすごくヘロヘロで倒れそうだよ」
ヘンリーが今にも倒れそうなぺらぺらの巨大な箱を見て突っ込む。
「大丈夫! あれは外壁の皮みたいなものだから。今からあの皮の内側に建物の構造を与えてやるんだ」
ちょっとリーダーが何を言っているのかわからないから黙って指示通り動くことにする。
「この大きな布をウォールパネルに固定するよ。この青いマークは入り口だからあのプレートの穴がある箇所に合わせるように配置して……」
大きな布と簡単に言うが、それはとてつもなく巨大なもので、どうやら二重になっている。とにかく言われた通りにパネル空間の内側に布を固定してノアたちは一旦外へ出る。
「もうほぼ完成だ。それでは最後にリリー、ちょっとこっちに来て」
訳が分からずリリーがノアの元へ。ノアは布に付いているキャップのようなものをポンと抜いた。
「ちょっと小さい穴で申し訳ないんだけど、ここにリリーのリトルウインドで風を送り込んで欲しいんだ。この穴の中だけにね。外に漏れてパネルに放つと吹っ飛んじゃうから気をつけて」
「は、はい。やってみます」
全員が見守る中、リリーが集中してリトルウインドで風を送り込む。外からだと良くわからないが布が空気を含んでムクムク膨れているようだ。
「まだだよ。もう少し風を送って」
「はい!」
そしてウォールパネルどうしが引っ張られるような状態になったのを確認してノアがストップをかける。そしてキャップを閉めて皆に笑顔で伝える。
「外壁が完成したよ。中へ入ってみよう!」
空気を含んでパンパンに膨れた布が一部見えている箇所、そこが出入口だ。当然扉など存在しない。
「この布の部分をめくるようにして中へ強引に入る」
ノアを先頭に中へと入るティアたち。
「うわぁ〜! すごいわ! 布が壁になってる!」
巨大な布は二重構造になっていて、中に空気を入れて膨らませるとちょうど立方体のような形になるように作られていた。パネルにピッタリくっついている。それが同時に建物を安定させるための構造体であり、空気層を作っているため断熱効果もあって、内側の空間はかなり心地い。パネルと一体化していて、かなり頑丈そうだ。
「なるほど。パネルは外側の外敵から守る役割を担っているんだね。これなら安心して夜眠れるね! すごいよノア!」
ヘンリーが感動している。エミラもリリーもティアも広々空間に満足そうだ。しかし、この仮設住居はこれだけではなかった。
「今からシャワールーム、トイレ、キッチンとベッドルームを作ります」
「ウソ! お兄ちゃん本当! シャワーもあるの!」
「フッフッフ……ティアよ! あの巨大アイテム袋を開いてくれ! ヘンリーとリリーはシャワールームを僕とエミラでトイレを運ぶよ!」
「もうそれぞれがユニットとして完成してるってことね!」
エミラが珍しくノアの出し物に対し好印象だ。そしてユニットを取り出すためにアイテム袋の中に入る人族という不思議な体験もしつつ、水廻りユニットを配置し、ベッドルームの間仕切り壁パネルを設置してついに建物は完成した。
「すごいわ! これがテントなの? 信じられない!」
エミラがはしゃいでいる。こんな姿王宮では絶対に見られない。普段見せないエミラの表情にヘンリーが驚いている。
間取りはとてもシンプルだ。大きなリビングにベッドルームが男女で二つに別れていて、それぞれの部屋に4人は利用できるほどの広さが有り、ベッドもついている。そしてリビングに向かってオープンキッチンで、衛生的なトイレとシャワールームだ。完璧すぎる。
ノアが建物使用に関するルールが示されたプレートを壁にかける。
「皆、これは一通り読んで必ず守ってね。建物が壊れるから」
1、室内で生活系、補助系魔土術以外の使用は禁止。ただしキッチンでのみ火と水の魔土術使用は可
2、室内での剣を用いた訓練は禁止。
3、トイレ使用後はユニットに設置してある浄化用魔土ブロックに触れて必ず処理すること。(次に利用する人のことを考えて使いましょう)
4、建物の清掃は全員で行うこと。建物の設備や構造の定期点検はノアが担当。
…………
「なるほど。一般的なことだけど、とても大切だね」
ヘンリーの言葉に皆が頷く。
「今日は初めての作業で二時間くらいかかったけど、次からはもっと時間短縮できると思うし、なんとかなりそうだね」
皆笑顔で同意する。
「そうそう。大切なことを言い忘れていたよ」
ノアが真剣な表情になった。皆もつられて真剣になる。
「この建物の名前は……マリーボイドだ」
また、名前か……エミラはそう思ったが、ここでツッコミを入れるほど野暮な王女ではない。
「ん? ボイドってことはこの建物はモグラーギルドも絡んでいるの?」
そう。王女が二人も旅に出ると決まり、最初にマリアが住環境を気にし始めたことがキッカケだった。ガイアの大地でも王女が心地よく過ごせるような仮設の建物を開発するプロジェクトがノア工房で立ち上がる。そして二人はどんどんアイデアを出し合ってまとめていく。
しかし、工房では場所が狭すぎて製作できないことから、モグラーギルドのギルドマスターであるボイドに相談する。手持ちの超級魔土とノアたちのアイデアを聞いたボイドは全ての仕事そっちのけでこのプロジェクトに参加してくれた。そしてモグラーギルドの鍛冶場を借りて試行錯誤を繰り返してできた完成品がこのマリーボイドなのだ。
「マリアとボイドさんは最後までこだわって製作していましたよ。だから僕はこの建物の名前をマリ――」
「ノア、いい話を聞かせてくれてありがとう。とても感動したわ」
「え、あ……はい」
話を遮るようにお礼を言うエミラ。ノアの得意気な話はもうお腹いっぱいらしい。
その横で思わず涙がこぼれるリリー。
とてもいいエピソードに心が温まるメンバーだったがリーダーノアが話を現実に戻す。
「皆。今から少し休憩した後、夕食用の食材探しにガイアのダンジョンへモグるよ!」




