第75話 いざ、グランサンクチュアへ
「こ、こんな小さな卵になっちゃった……嘘でしょ……」
動揺するノア。とても残念そうな表情で掌にのせた卵を見つめている。
同じくミラ王女も困惑していた。
「これって、黄金になったけどやっぱり卵よね?」
「はい。まだ僕のマナを吸収しています。もうこうなったらトコトン注いでやりますよ! ありったけのマナを」
孵化しなかったことは残念ではあったが、ミラ王女の中で一つ決意が固まる。これでノアも自由に動けるようになった。遠征パーティを組むときだと。ミラ王女は早速ロイとノア工房で話をすることにした。ノアとマリアも同席している。
「ロイ。ついさっきのことなんだけど、ノアの卵が孵化して卵が生まれたわ」
「は、はぁ……なんか、そのようですね」
「これで卵が大分小さくなったし、ノアもある程度自由に動けるようになったということよ」
「確かにそうですね。まぁ、また大きくなるかもしれませんが」
微妙な顔つきで黄金の卵を見つめる。
「ノア、お前その金玉どうするつもりだ? 育てるのか?」
「キンタマ言うな!」
怒るミラ王女を無視して卵に触れるロイ。そしてノアの表情を見て意思は固そうだと理解する。
「うん! 僕はこの金玉を立派に育ててみせるよ!」
「だからキンタマって言うな!」
話を元に戻すミラ王女。ここで大切なのはパーティメンバーの人数だ。
「パーティー名は希望の剣ね。人数はノアのフルーゲに乗れる人数って感じかしら?」
「ゆったり座るなら5人。詰め込んだら6人って感じですね。子供と大人で変わりますが」
「まず、ロイの意見を聞かせて。誰を連れて行くべきかしら?」
ロイは少し考えて口を開いた。
「まず今回の遠征ですが、俺とリリカは参加しないでいようと二人で話して決めています」
「えぇ? どうしてロイまで? リリカは王国を守るためって意味よね? でもどうしてロイまで行かないことに?」
ノアは黙って聞いている。
「今回、ミラ王女が同行される点が少し気掛かりではあります。長旅を無事に終えることは簡単ではありませんから。しかし、私やリリカが行くとノアや王女自身の成長には繋がらない。自分たちで壁を乗り越えて初めて経験は蓄積されると思うので」
納得するが、少し不安になるミラ王女。
「そこで、ヘンリーを王女の護衛騎士として同行させるのはいかがかと。彼にももっと強くなってもらいたいですし、今の騎士団で一番将来性があって頼りになるのはヘンリーです」
「なるほど。ロイの意見は正しいわね。ノアはどう思う? ロイがいなくても大丈夫?」
ノアが卵にマナを注ぎながら考えをまとめる。
「父さんたちが同行しないのはグランサンクチュアに着くまでの期間ですね。仮に到着した後、魔族との戦いが起こるとなったら、僕がテレポートで連れて来れますから。なのでガイアの大地を横断する長い旅を乗り越えられるかどうかです。ただ、父さんたちは当時歩いて辿り着いた距離。今僕たちにはフルーゲがある。これで無理だとは言いたくありません。恥ずかしいし」
大笑いするロイ。確かにその通りだと思ったのだろう。まだ11歳の子供だが。
「それよりも、リリアナ王女とティアをどうするかですよ。僕はティアは連れて行くべきだと思います。工房にはマリアがいてくれて、マリリンが王国を守ってくれる。基本的に母さんとマリリン、そしてミネルヴァ校長や先生方、そして王国騎士団の皆さんがいれば前回のような魔族の群れも対応できると思います。だから戦力的にはティアもリリアナ王女も王国を離れて問題はないと思うのですが……」
「要はティアを連れて行ってリリアナを連れて行かないとなったら、リリアナがさみしがるということね?」
「はい。寂しさもそうですけど、最近のリリアナ王女の成長は目覚ましいですよ。父さんもそう思うでしょ? 母さんもすごく褒めていたし。経験をさせるのはいいかもしれませんが、王女を二人同時にっていうのは果たしていいのかどうか……」
「国王と王妃がなんて言うかってことね……確かにそうね」
「ロイはどう思う?」
「本人次第かと。やはり行きたいと強い意思で望むのなら行かせたほうがいいですよ」
「私は……正直リリアナを危険にさらすことはしたくないんだけど……後で国王に聞いてみるわ」
「そうなるとパーティーメンバーはノア、ミラ、ティア、ヘンリーは決定ね。あとはリリアナが加わるかどうかね!」
ノアが黄金の卵にマナを注ぎながら頷く。
僕もいよいよグランサンクチュアに向かうんだな。準備はある程度しているけど再度確認しておこう。
王宮での夕食時、ミラ王女は国王と王妃にメンバーの話をした。案の定、リリアナ王女を連れて行くという点に難色を示す。そして隣に座るリリアナ王女自身が国王に遠征に行きたいと直接希望を伝える。王妃のフォローもあり、無事に許可が下りたのだった。
一方ヘンリーはロイから遠征の話を聞かされて驚いていた。王国を守ることを希望していたのにどうして遠征に行くのかと困惑気味だったが、王女2名を守るためとの説明を聞いて快く承諾した。
ノア工房ではマリアがリモートスクリーンユニットを無事に完成させ、マリリンと共に3人で喜んでいた。
「これは基本的にマリアがいるときだけ使うということにしよう。ずっと観られるのも辛いしね。あと、戦いの時は使わない。不安にさせるだけだから」
「わかりました。使うときはいつでも信号送ってください。準備しますので」
「あと、フルーゲとゴーレムの整備もしておこう」
それからあっという間に時が流れていく。
* * *
ノアが12歳になり、いよいよ出発の日がやってきた。
王宮の庭園でフルーゲのチェックをするノアとマリア。そしてロイとリリカ、国王と王妃とヘンドリックが王室から出てくる。続いてミラ王女とリリアナ王女、そしてティアとヘンリーも一緒だ。
「お兄ちゃん、準備はできた?」
「あぁ。バッチリだ」
「ノア、あの金玉は持ったのか?」
「うん。バッチリ今もマナを流し続けているよ。全然変わらないけどね」
(……だからキンタマって言うな)
「ティア、何かあったらノアに言うのよ! なんでも解決してくれるから」
「うん、わかってるって! 大丈夫だよ」
国王と王妃は不安そうだ。王女二人に何度も言葉をかけている。
「良いか、何かあったらいつでも戻ってくるのだぞ。焦らずしっかり自分の目で世の中を観てくるのだ」
「はい。国王、旅に出る機会をくださり誠にありがとうございます。リリアナと二人でガイアの大地、そしてグランサンクチュア地域の諸国に対する見聞を広めて再びヒューマニア王国に戻って参ります」
王妃が娘二人を抱きしめる。さみしい気持ちをグッと堪えて挨拶を済ませる。
「じゃあ、父さん。目標は1年後に地底のドワーリア王国で連絡をとって召喚だね!」
「おう! こっちは気長に待ってるから焦らずやれよ! 卵が孵ったら教えてくれ! ティアや皆を頼んだぞ!」
ノアが操縦席に乗り込み、その周りにミラ王女たちが乗り込む。ノアがマリアを見て笑顔で話しかける。
「じゃあマリア。あとは手筈通りに進めておいてね!」
「了解しました! ノア工房長! 皆さんお気をつけて!」
頷いておでこに掛かっているゴーグルを目に装着する。
「出発だ! フルーゲ!」
フルーゲがゆっくりと上昇し、宙に浮く。
「それでは皆さん、お元気で! 必ず戻ってきます!」
ロイたちが手を振って見守る中、フルーゲが遥か先の天空塔に向かって飛びたっていった。




