第66話 魔族の誤算
ノエビラ王国では再びヒューマニア王国へ攻め込む体制を整えていた。ミネーラが邪念術の詠唱を終える。そしてグルテナスとポリフェスに確認する。
「準備はいいかしら? 今度こそ全軍を送るわよ」
「既に我が部下より連絡があった。王都へ到着し邪念晶を設置したとな」
「ミネーラさんに王国の宝石でも持ち帰ってきますよ。楽しみに待っていてください」
グルテナスの気遣いに笑顔を見せるミネーラ。
「あなたたち、必ず帰ってきなさいよ! 邪念術、テレポート!」
パッと消えた二千の軍勢。今度は戻って来る気配はない。無事にテレポートできたようだ。ミネーラは自室に戻り、ポリフェスの部下の魔鳥につけておいた小さな邪念晶の邪念をリンクさせて映像を映し出す。これで魔王軍の侵攻を見守ることができる。
「さて、どの辺りに移動したのかしら。確か王都の少し手前――!」
映し出されたものは全く想像していなかった光景だっだ。
「な、何で……どうして人族に包囲されているのよ!」
* * *
時は遡りテレポートされる2日前、それはちょうどロイたちが魔人軍を壊滅した日だった。王宮で早速作戦会議が開かれる。
「結界が張られている時点でこの王都リトルガイアに魔王軍が突然攻め入ることはないと考えていいのかしら?」
ミラ王女の心配にノアがはっきりと答える。
「問題ありません。先ほど簡単にですが結界を確認してきました。特に目立った損傷もなく今後もテレポートで使用される邪気程度なら破壊されることもないと思います」
頷くミラ王女。
ミネルヴァ校長が手を挙げる。
「えっと、先ほどの魔鳥がやって来るだろうというのは予想かしら? それとも魔人から得られた確かな情報?」
「僕の予想ですね。ただ、当たる可能性の方が高いと考えていますが」
「その根拠を聞いてもいいかしら」
「はい。まず、今回の魔王軍の侵攻はガイアの大地を進軍する三千人以上の大軍とテレポート系邪念術による王宮奇襲軍の二つ以上からなるものだと魔人の話から判明しました。そして、奇襲攻撃を仕掛けるなら、何の前触れもなく、いきなり仕掛けるか、ガイアの大軍に王国騎士団が意識を向けているいまこの段階か、開戦後、混乱に乗じて仕掛けるかの三つが考えられます」
「なるほど。魔王軍は何度かテレポートを試みたが、以前のように直接王都へは移動できなかった。そこで現時点で魔鳥を飛ばさないとテレポートの目標地点を開戦までに設置できないということね」
「はい。ここ数日でおそらく王都へ向かって飛んで来ると思われます」
全員がある程度納得しているようだ。
そしてミネルヴァ校長が何か閃いたようだ。
「だったら、その魔鳥を利用してテレポートの場所をコントロールしましょう。魔王軍が現れたところを一網打尽というのはいかがかしら?」
全員がミネルヴァ校長の作戦に賛成したが問題はその方法だ。
「私がサーチ魔法で広域を調べておくから皆さんはそのまま待機で構いません。見つけた後、魔土術で魔鳥を操るわ。どのあたりに誘い込んだらいいのかしら?」
「それならブロッカエリアから少し南のここにしましょうか。ちょうど窪みになっていますので」
窪地にテレポートさせて、その周囲の高い場所から王国騎士団と魔土術士で陣取るというロイの提案にミネルヴァもミラ王女も賛成した。
そして現在に至る。
「何だと! ここはどこだ? 何故人族に囲まれているんだ!」
グルテナスが混乱する。しかし容赦無く大量の魔土術が超級魔人と魔獣に降り注ぐ。
「どんどん撃て! マナが尽きるまで撃ちまくれ!」
ロイの指示が飛ぶ。王国の魔土術士も学院の生徒たちも皆、必死で自分が出せる全てを魔人にぶつけている。
《ロイ。学院生はここで退散しますね。彼らはもうマナが限界です》
《ミネルヴァ校長、了解です! ありがとうございます! 引き続きブロッカエリアでの防衛、よろしくお願いします》
ミネルヴァ校長とロイがマナフォンで連絡を取り合い、次のフェーズへと進める。
「王国騎士団! これより魔王軍の殲滅を開始する! 全軍突撃!」
「ウオォォ!! くたばれ魔族がぁ!」
グルテナスとポリフェスは軍の体制を整えることができず、混乱の中に埋もれていた。そこへ王国騎士の波状攻撃をまともにくらい魔獣も超級魔人も徐々に数を減らされていく。
「なめるなよ! 人族のゴミどもがぁ!」
ポリフェスが上空へ舞い上がり魔王軍もろとも燃やす勢いの巨大な火を嘴に溜め込んだ。
「今ここで灰になってガイアの大地の一部と化すがいい!」
「テレポート」
炎を噴き出そうとした瞬間、突然正面にノアが現れた。
「そんなことさせるわけないだろ!」
嘴を強烈に蹴り上げて、炎が空へと吹き上がる。
「お、おのれ……ガキが舐めたマネを……死ね!」
空中戦となった時点でポリフェスが有利のはずだがノアが鮮やかに攻撃をかわす。
「こいつ……テレポートを小刻みに無詠唱で使っているのか? そんなことできるわけが――」
ズバッとノアがロングソードを一閃。羽をもがれたポリフェスがそのまま落下する。そして地上でヘンリーが一太刀入れてポリフェスの首をはねる。
戻ってきたノアがポリフェスのコアを回収した。
地上戦は徐々に落ち着きを取り戻した超級魔人が王国騎士団を押し始めていた。
「さあ、超級魔人よ! ここにいる人族全てを殺せ!」
声を荒げて指示を出すグルテナスの前にロイが現れた。
「見つけたぞ! ロイ・グリード! キサマだけは必ず私が殺す!」
グルテナスが邪念術を放ち、ロイがそれをかわす。そこへグルテナスが斬りかかる。しかし力でも押し負けないロイの馬鹿力。
グルテナスが左手で大きな邪念の塊を作り出す。
「片腕の英雄よ、これで死ぬがいい! 邪念弾!」
「あれはやばそうだな……仕方ねぇ。俺も左手使うか」
ロイがマナを流し込む。そして左腕が現れると同時に邪念弾を掌で受け止めてかき消した。
「な、何だと! 腕が生えただと? そんなわけが……」
ズバ!
グルテナスの右腕が斬られた。
「グアア!! クソがぁ。 太刀が全く見えなかった」
続いて左腕も斬られる。あまりに速いスピードで全くついていけない。
《ノア、ティア、ミラゴーレム! 俺がボスと対峙している間、王宮騎士団をフォローしてやってくれ。できるだけ犠牲者を出したくない。頼んだぞ!》
《了解!》
ミネーラはノエビラ王国で映し出された戦いの様子を観て驚愕していた。超級魔人や魔獣を相手に無双する子供たちの姿。本当に人族なのか?
「一体何者なの? この子供……」




