第64話 3000人 vs 5人
結局この日、グルテナス率いる精鋭軍はテレポートできなかった。苦肉の策として魔獣軍の魔鳥3体をリトルガイアへと向かわせた。一週間もあればリトルガイアへ到着するだろう。それぞれミネーラが作った邪念移動のためのゲートプレートを持たせている。
「我々が向かう前に魔人軍3000人がヒューマニア王国を滅ぼしているかもしれませんね。私はあのロイ・グリードさえ殺せればそれでいいのです。必ず見つけ出しますよ。ククク……」
この魔王軍の一手の遅れが戦局を大きく変えることとなった。
2日後、ヒューマニア王国作戦会議にてロイが提案する。
「一つ提案なのだが、魔王軍がブロッカエリアにたどり着くまで後一週間程度か? 結界が完璧であるならむしろ、こっちから数を減らしに行くのはどうだろう? 少数精鋭で」
「確かにわざわざブロッカ地域を戦場にする必要はありませんし、その前にできるだけ敵の戦力を削ぐのはいい考えです。ロイは何か作戦でもあるのですか?」
ミラ王女が尋ねる。
「機動力としてノアのフルーゲに乗れば簡単に魔王軍のところまで行けますからね。そこから少し離れたところでリリアナ王女のゴーレムで無双するのはどうでしょう。ついでにティアとヘンリーにも暴れさせる。5人か……ノア、ミラ王女のゴーレムをフルーゲに捕まらせて6人で移動できるか?」
「ゴーレムなら大丈夫だよ。実質マナで具現化したものだから重量とか関係ないし。リリアナゴーレムはデカすぎるから無理。本人に来てもらう必要があるね」
「ではミラ王女はゴーレムを超遠隔で操作してみましょう。ティアとヘンリーに回復系魔土術をかけてください。今回、リリアナ王女を守るのはノアです」
危険だと家臣は喚き散らしているが、リリアナ王女は遠隔操作ができる。そして連れて行くメンバーが無敵のロイとノア、そして心の支えとなっているティアだ。ミラ王女は意外にも肯定的だった。
「ミネルヴァ校長、戦いの様子を魔土術で観ることはできますか?」
「できますよ。スクリーン化して皆さんとお茶しながらその勇姿を拝見しましょうか」
「絶対に無理しないと約束してください。そしてノアはリリアナをお願いしますね」
「任せてください! 皆、無茶なんてしませんから」
こうして、第一陣が決まった。これも全てあの結界を張れたことが大きかった。王都が守れて市民が避難できる場所を確保できた。あとは敵の殲滅に集中できる。
「それではロイ、敵軍を無理なく殲滅してきてください」
「……は、はい。できるだけ頑張ります」
フルーゲに乗り込んだ5人と後ろに捕まっているミラゴーレム。流石に今回はリリアナ王女もティアも緊張している。ヘンリーはもっとガチガチだ。
王宮を飛び出してその美しいガイアの大地を上から見下ろして多少の元気が湧いてくる。
「ティアは怖くないの?」
ヘンリーがティアに聞く。ティアはニコッと笑ってノアを指差す。
「昔お兄ちゃんに死ぬ寸前で助けてもらったことがあったの。その時からもう怖くない。あれが一番怖かったし、一番後悔した。だから二度とそうならないように頑張るだけ」
この言葉がヘンリーに突き刺さる。自分より年下の女の子が異常に達観している。負けるわけにはいかない。一気にやる気と覚悟が漲ってきた。
「見えてきたわ!」
「あ、あれが魔王軍か!」
ガイアの大地に広範囲で砂煙が舞っている。大軍の行進だ。
「なるほどな。数は多いな。とりあえずノア、あの辺りに止めてくれるか」
「了解! 父さん」
岩場の陰に隠れるように着陸し、フルーゲをサクッと収納する。
「リリアナ王女。ここからかなり離れた距離に魔王軍がいます。ゴーレムで攻撃できそうですか?」
リリアナ王女が状況を把握してからはっきりと頷く。
「できます。十分に射程圏内です」
そしてマナゴーレムのコアを取り出す。
「リリアナゴーレム! 起動!」
マナゴーレムのコアにマナを注入し、あの巨大なゴーレムが再び起動する。
「リリアナ王女、まずは思いっきりやってみてください」
「はい! 行きます!」
ゴーレムが右腕を伸ばし、詠唱を終えたリリアナがそのパワーを一気に解放する。
「リリーキャノン!」
リリアナゴーレムが解き放った過去一番の衝撃。おなじみだがガイアの大地をえぐりながら突き進むリリアナの風。エリアも広範囲で威力もかなり上がっている。
「う、うそ……何これ」
「ついに来た〜! リリアナ王女の奇跡の一撃!」
「お兄ちゃん喜びすぎ!」
「なんだこりゃ! 大砲どころじゃねぇな!」
おさまった砂煙の先に見えるのは四分の一ほど吹き飛んだ魔王軍の姿だった。
あまりの威力にヘンリーが腰を抜かす。
「もう一発! リリーキャノン!」
「まだまだいきます! リリーキャノン! リリーキャノン!」
「ちょっと待ってリリアナ」
ティアがリリアナ王女の肩に手を触れてゴーレムの攻撃を一旦止める。
舞い上がった煙が徐々にうすらいで、状況がはっきり見えてきた。
「魔王軍の残り……300〜500程度になりました」
「……へ?」
「ねぇ、パパ。私たちが出てきた意味、ある? リリアナと操縦士のお兄ちゃんだけでよくない?」
「そうだな。こんなにすごいとは……」
「いや、父さん。そうでも無さそうだよ。残っている部隊はあのでかい砲撃をなんとか避けたみたい。多分、ここからだとあの長距離砲は当たらないと思う」
ノアの言う通りだった。上級魔人の中の精鋭部隊がリリーキャノンをかわしてこちらへ前進してきた。その数約400人。
「それじゃあ、俺とヘンリーとティア、そしてミラゴーレムであの魔人どもを殲滅だ。リリアナ王女は一旦ゴーレム操作を解除して休憩してください。ノアはリリアナ王女護衛を最優先だ」
「「「了解!」」」
数が減ったとはいえ、それでも400を超える魔人の群れ。ヘンリーは集中してロイの指示を待つ。そしてティアの魔土術の範囲に侵入してきた。
「ティア! 迎撃だ! 魔人の群れの左側にでかいのを頼む」
「任せて! ラ・ファイア!」
炎で魔人たちの進軍が止まる。
「ヘンリー、行くぞ! エンチャントして炎の周囲にいる魔族から斬りかかれ!」
「はい! ウインド!」
ロイとヘンリーが魔人の群れに突っ込む。そして怯んだ魔人から次々と斬り倒していく。ロイはどちらかというとヘンリーに攻撃させて自分はできる限り動かなかった。
「ウオォー!」
無我夢中で剣を振るかと思ったロイの予想とは違って、ヘンリーは意外に冷静だった。無理して敵軍奥へ踏み込まず、向かってきた魔人だけを斬っている。
《ティア。ヘンリーに当たらないように、後方から炎弾でヘンリーをフォローして! 同時に右側の魔人たちに向けても魔土術で牽制だ》
マナフォンでノアからの指示が飛ぶ。
《お兄ちゃん、なんで後ろにいるのに戦況を把握できてるのよ。まぁ、いいわ。いつものことだし。とりあえず了解よ! やってみるわ!》
この会話を聞いて、ロイもニヤッと笑っていた。
前線でひたすら魔人を斬りまくるヘンリー。わずかな隙を突こうと反撃する魔人を炎弾で的確に狙撃するティア。タイミングをみて二人に回復魔土術ハイソイラをかけるミラゴーレム。
魔人がヘンリーに向けて呪縛念鎖を飛ばしてきた。しかし、ヘンリーはひるまない。ノア工房特製の防具によって見事にはじき返す。
「よし! 僕らがつくった防具も絶好調だよ。マリア!」
自分たちがつくった邪念術対策を施した防具がうまく機能したことに大満足のノア。
「まだ、足りないぞ。もっと魔族のことを知るんだ!」
何やらノアが必死にメモしている。
「あぁ、もうティア! その魔土術強すぎ! 一発で魔人が死んじゃうよ〜」
《ティア! もっと突っ込めよ。もっと魔人の技を引き出せよ! 魔人データが欲しいからさ、ちょっとピンチになってみて。噛まれてみるとかさ。あ、ちょっと転んでみてよ。ミラゴーレムが回復してくれるからさ!》
《できるかボケ! 自分で喰われたらいいでしょ!》
「チェッ。非協力的な妹だなぁ……」
(…………国の存亡を賭けた戦いで、データ収集して楽しんでる)
前線で戦わないことを指示されて、文句言わずにおとなしいなと思っていたリリアナ王女だったが、やはりノアはノアだと改めて思ってクスッと笑ってしまった。




