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グランサンクチュア〜地底天空都市の伝説〜  作者: 大森六
第一章 ヒューマニア王国

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第6話 妹の失踪

 次の朝、リリカが慌ててロイを起こして叫んだ。


「ティアがどこにもいないの!」


「なんだって⁈」



 家の中には居ない。居住区の第1ブロッカ地域にも居なかった。


「リリカ、冒険者ギルドに捜索願いだ。ノアは一緒に第2ブロッカを探してくれ」


「わかったわ」


「わかった」



 その後、第2ブロッカ、第3ブロッカと探したがティアの姿は見つからなかった。リリカと合流した後、3人で城下町コンクーリをくまなく探しまわった。しかし、やはりティアは見つからなかった。



「あぁ、ティア……どうしましょう……」


「一体どうして急に……」



 わけが分からないと頭を抱える二人。しかし人拐いの可能性は低そうだ。早朝の時点で既にティアはいなかった。しかし、夜はノアと一緒に寝ていたのだから。


 ノアもティアの行動を振り返ってみる。ふと、あることを思い出した。



「……そういえば、昨日の夜、ティアは目が覚めてトイレに行ってたんだけど、帰ってくるのが遅かった気がしたんだ。僕も眠くてはっきり覚えていないけど」




 ノアの話を聞いて、表情がみるみる青ざめていくロイとリリカ。



「まさか……ティアは私たちの話を聞いて……」


 膝が崩れ落ちて立っていられない。



「待て。リリカ落ち着け!」



 状況がいまいちわからないノアだったが、二人の表情を見て危険な状況だと察する。



「だとすると……あの負けず嫌いのティアが向かったのはきっとダンジョンだ」



 * * *



 三人で再び冒険者ギルドへ向かった。そして受付でリリカとロイはダンジョンへ入る手続きを始めた。


「あ、リリカさん。まだ娘さんの情報は特に入っていなくて……」


「セラ、違うの! 私たちでダンジョンに入って娘を探したくてその手続きに来たの」



 ギルド内の冒険者が騒つく。それもそうだ。伝説の冒険者が二人揃って現れたのだから。



「えぇ? 娘さんがダンジョンに? 流石にそれは何かの間違いではないですか?」



「いや兎に角、今は許可証を早く発行して欲しいんだ。頼む! D級とE級のダンジョンの許可を頼む」


「いや、そんな急に……どのダンジョンにしますか?」


「さっき、言った通りだ! D級とE級のダンジョン全てだ! 急いでくれ!」


「そんな全部だなんて無理です!」



 ロイもリリカも焦ってしまい、冷静さを欠いていた。受付係のセラも突然の申し出に混乱してしまう。なぜなら一回のダンジョン利用の申請で一箇所を指定するのが原則だからだ。それを複数箇所、しかもたった二人の冒険者が何十箇所も回るなんてできるはずがない。



「すみません、とりあえず第1ブロッカの南側にあるこのD級ダンジョンと、このE級ダンジョン、更にこのE級ダンジョン、計三箇所の許可を取らせてもらえませんか?」


 冷静なノアが受付台に貼ってあるダンジョン配置マップを見ながら、セラに笑顔で相談する。


「僕の両親は【黄金の大地】のメンバーです。このくらいは三時間あればすぐに踏破します。また直ぐにこちらに戻って来ますので、一旦この三箇所の申請許可証をいただけませんか?」



 驚いて固まってしまったセラが我にかえり、直ぐに許可証を申請する。



「こちらになります。私は何もできませんが、娘さんが見つかることを大地神ガイアにお祈りいたします。どうか皆さんもご無事で戻って来てください!」



「ありがとう! セラ!」



 そして、三人は急いで冒険者ギルドを飛び出し、ダンジョンに向かった。



 ノアを肩車してロイが走りながら話す。


「ノア、どうしてこの三箇所なんだ? 第1ブロッカに近いダンジョンは他にもあるぞ」



「ティアが知っているダンジョンはこの3つだけだから。昔父さんと行ったD級ダンジョンとE級ダンジョン。ディアは一人で()()()()()()()を探索しようとはしない。一人でお使いに行く時は絶対に母さんと歩いた道を通って、行ったことがあるお店にしか行かないんだ。本当は臆病なんだよ。でもすごく負けず嫌いだから、行動力はあるんだけどね」


「そんなことまで知っていたの? ノアはティアの内面をちゃんと知っていたってこと? 私たちは……」



「母さん、今は落ち込んだり、反省している場合じゃないよ。ティアが二人には認めて欲しくて見せていなかっただけだよ」



「本当にノアは10歳なのか? すごいな。父さん感動したよ。無事に家族が揃った後、ゆっくり話そう! で、この三箇所のダンジョン、どう入る?」


「三人で別れるか? ノアはどちらかに付くか?」



「そんなのノアが単独でダンジョンなんて不安だわ……やっぱりどちらかについて行って……」


「いや、母さん。僕はE級に一人で行くよ。 時間がない。僕よりもティアの方が心配だ。D級はほんの少し不安だけど、E級なら全く問題ないよ」


 リリカの弱気な発言をノア自身が拒否する。ノアの言っていることが現状で最も冷静な判断だとロイも判断した。



「ノアは東側のE級ダンジョンを頼む。リリカは残りのE級を。俺はD級ダンジョンを探す。ノア、入口に誰かいてもなんとかすり抜けて入ってくれ。後のことは父さんと母さんでなんとかするから気にせずにダンジョンを突き進め。慌てなくていい。その一つのダンジョンをできるだけ隅々まで探す気持ちでいいから」


「うん、わかった!」



「逆にリリカと俺はできる限り早急にダンジョン内を探して、ノアのいるダンジョンへ向かうようにしよう。リリカの方が早くノアのダンジョンに着くと思うから、その時は俺を待たずにダンジョンに入ってノアに合流してくれ。俺もできる限り早く合流できるようにする」


「わかったわ! ロイもD級だと軽く思わずに気をつけてね。最近、ダンジョンが変化することがあって不安だから」



「あぁ、そうだな。ティアの命がかかっているんだ。絶対に油断なんかしないさ」



 そして三人は各捜索担当のダンジョンへ向かって解散した。




 五分後、ノアがE級ダンジョンの入口付近に到着した。入口に門番はいないようだ。

 他の冒険者パーティーも見当たらない。


(よし、チャンスだ。目立たないでダンジョンに入れる)



 ティアの捜索という急展開で訪れた機会だが、これがノアにとって初めてのソロでのダンジョン探掘となった。そしてこの事件とも言える出来事が、今後ヒューマニア王国内で語り継がれる英雄譚えいゆうたんとなることを、今は誰ひとり知るよしもなかった。


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