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グランサンクチュア〜地底天空都市の伝説〜  作者: 大森六
第一章 ヒューマニア王国

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第48話 初めての講義 02

「そんなこと、できるわけ……」


「どうやってマナを流す魔土ソイラを選ぶんだよ。手に触れていないんだぞ」


 動揺しているのは学生だけかと思いきや、教員の中にも驚いているものがいるほど。それくらい、どうすれば良いのかわからない課題をノアが出題したということだった。



「おい、下民! いい加減なこと言うなよ! そんなことできるわけないだろ! 今すぐ魔土術学院から出て行け!」


 ミスバッカの大声が会場に響き渡るが、ノアは一切気にしない。



「それでは誰かできるという方は挙手をお願いします」


 ミラ王女がスッと手を挙げた。勿論ティアも挙げている。


「ではミラ王女、お願いします。この低級魔土ローソイラは少しマナを注げばおそらく砕けてしまいますので、すぐに皆さんも判断できる状態になっています」



 教壇上の低級魔土ローソイラに集中し、詠唱するミラ王女を見て微笑むノア。そしてライトが唱えられ光が放たれる。ノアの言う通り僅か数秒で低級魔土ローソイラが砕けてしまった。


「よかった……出来たわ」


 ミラ王女に向けて歓声が上がる。


「さすがミラ王女だ……すごい」


「私もできるかしら……」


 周囲が前向きに取り組む姿勢を見せ始めて、ミスバッカとヘッポコットが焦り出す。


「お、王女ができたからっていい気になるな! 下民のくせに!」


「そうだ! 下民はとっとと帰れ!」


 見かねた教員が対処しようとしたその時、周囲の学院生たちから声が上がる。


「さっきからお前らうるせーぞ! 授業を聞きたくないならお前らが出ていけよ!」


「そうよ! 私たちはノア先生に教わりに来ているのよ! 授業の邪魔をしないで!」



 周囲がミスバッカたちに詰め寄る。自然と沸き起こる出ていけコールに堪らず二人の貴族が逃げるように会場を出ていく。その姿をオコール・アングリーは複雑な気持ちで傍観していた。



「みなさん、ミラ王女が今何をしたと思いますか? 手に取った魔土ソイラではなく、少し距離のある場所の魔土を使って魔土術を唱えるには何の技術が必要でしょうか」


 注目されて少し照れるミラ王女。本人も最近ノアからできるようになれと言われて努力していた成果だとは誰にも言えない。



「実はとても簡単な解なんです。マナを離れた距離で流す。ただそれだけです」



 会場全体の時間がノアのペースで流れているような、それくらい皆がノアの言葉に夢中になっている。



「それを行うためにどうすればいいか。まずは自身のマナの特徴をよく理解してください。理解したらそのマナのイメージを視界の先にある魔土ソイラに向かって流すように詠唱するだけです」


「先生! それができる事でどんな利点があるのですか?」


 一人の学院生が質問する。


「まず、この操作ができるということは今よりも格段にマナコントロールが上達していると言えるでしょう。それは魔土術の精度、威力などに直結する重要な技術です。次に唱える際に使用するマナの流れを調整できるようになります。不必要な量のマナを使用するのはレベルの低い魔土術の典型例ですね」


 ノアが罵声を浴びていたマリアの方へ近寄っていく。



「先ほどライトを大きく唱えていたミスバッカさんの術は非常に無駄が多い例です。マナが大量に流出して詠唱も雑で全く美しくありませんでした。一方マリアさんのライトは非常に綺麗な円で、且つ必要最小限のマナを流して丁寧に詠唱していました。あなたなら、今できると思います。あそこに新たに低級魔土ローソイラを用意しました。挑戦してみませんか?」



 ニコッと微笑むノアに後押しされて、立ち上がって目を閉じるマリア。


(あのローソイラを意識して、マナの流れも意識してあそこへ…………)



「ライト!」


 またしてもポワッと美しい球体の光がマリアの手から生み出された。そして数秒後にローソイラが砕けてしまった。


「おぉぉ〜!!」


 またしても歓声が上がった。喜ぶロイを見てマリアはとても嬉しそうに笑った。



「皆さん、これはいつでもどこでも訓練できることです。ある程度、自由に使えるようになったら、ランク外判定を受けた方々は再度ブロンズCクラスの試験を受けてみてください。多分実技なら通りますよ」



 こうして大歓声の中、ノアの講義は無事に終わった。





 * * *



 学院生食堂にて、ノアたちは昼食を摂っていた。


「お兄ちゃん、なんでティアにやらせてくれなかったの?」


「ん? あぁ、あの場では僕たち『下民』が活躍しちゃうとダメなんだよ。どうしても()()()()でないとあの場は綺麗におさまらなかった。最初から指名する人は決めていたんだよ。王族がやったんだ、だから我々貴族も頑張らないとって思わせる必要があったんだよ。残念ながらそれはティアでも僕でも逆効果になっちゃうから」


「そこまで考えて教壇に立っていたのね。それじゃあ、あのマリアって子は? 庶民なのに詠唱させてたわね。しかも一発で成功するなんてびっくりしたわ」


「そうそう、それなんですよミラ王女。あの子は才能ありますよ。もしかするとこの学園一、繊細にマナを操作できる人かもしれません」


 ちょっとイラっとしたティアがムキになる。


「ティアよりも上手いってこと? でもとても遅い詠唱だったわ」


「そうだね。詠唱はとても遅かった。だからこそ丁寧なのかもしれない。あの子の性格上スピードを求めるのは良い成果を生み出さないと思う。その代わり、精密さという点ではずば抜けている。例えば、光属性があるならバリアを張ったら完璧なものが出来上がるとか」


「なるほど。それは朗報ね! 私のグループに囲って……ん? その子が来たわよ」


 ゆっくりと不安な足取りで徐々に近づいていくるマリアに全員が注目している。それに気付いたマリアが顔を赤くして俯く。


「あ、あの……し、失礼します! ミラ王女。リリアナ王女。わ、わたしはブロッカ第2エリアの庶民、マリア・セリーヌと申します。本学院の二年生です」


「知っているわよマリア。さっき同じ講義を受けていたんだから。あなたの素敵な魔土術も観ていたわ」


 リリアナ王女もニコッと笑った。人との対話も大分慣れたという印象だ。


「そ、そ、それは大変光栄です。あ、ありがとうございます!」


「わたしはティア・グリードです。よろしくお願いします」


「僕はヘンリー・ブランです!」


「あわわ……み、皆さんよろしくお願いします」


 ひょっとしてリリアナと同じく極度の人見知りなのだろうか……全員がそう思ってマリアを観ている。



「で、どうしたんですか? マリアさん」


 どうやらマリアはただお礼を言いに来たらしい。ここまで学院での生活は貴族にいじめやバカにされる事は頻繁にあっても、優しくされたり褒められることは一度もなかった。本人のこの性格もあって、友達もできず寂しく過ごしていたが、講義でノアから褒めてもらったことで周囲から尊敬の眼差しで見てもらえたと喜んでいた。



「だったらさ、マリアも私たちと一緒に行動しましょうよ! 私も同じ下民よ! アハハ」


「そうね。それがいいわ。私たちはこの通り、身分を気にしない仲間だから安心して」


 早速先輩にタメ口で話すティアと同意してくれたミラ王女。



「え? そんな、いいんですか? 私なんかが王女様や優秀な方々と?」


 驚いてはいるが首は何度も頷いている。それだけ嬉しい事なのだろう。


「じゃあ、そう言う事だから、よろしくねマリア」


 ノアもヘンリーも皆、笑顔で頷いている。


「あ、ありがとうございます。これからの学院生活がとても楽しみです」


 ミラ王女の一言に思わず涙を流して喜ぶマリアだった。

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