第47話 初めての講義 01
ノアは4日ぶりに王宮に戻ってきた。普通にお帰りと言うティアとロイたちをみて、信じられない表情のミラ王女だったが、夕食時にノアの話を聞いてもう何も驚かないと心に決めるのだった。
「はあ? ノア、お前仙獣のウサジさんに会ったのか? しかも稽古までつけてもらったのか? 俺ですらグランサンクチュアで一度しか会った事ないのに……」
羨ましそうなロイとリリカの表情から、ウサ爺がそんなにすごい存在なんだと改めて感じるノアだった。
「お兄ちゃんは本当に先を行くなぁ……せっかく私とミラ王女はシルバーC 、リリアナとヘンリーはブロンズAの試験を無事に受かったっていうのに。初日でプラチナクラス合格されたときはちょっと腹が立ったわ」
「あはは。まぁ、結構大変だったよ。それよりみんな試験合格したってことは卒業はいつでもできるんだね! ミラ王女はどうなさるおつもりですか?」
国王も王妃も興味を持って話を聞いている。
「私はノア先生の授業を受けることが楽しみなの。明日講義会場に皆で行くつもりよ。しばらく卒業はしないわ。それにゴールドで卒業しないとね。王族としての誇りもあるから。そのためにもノアの授業が大切だと私は思っているわ。シルバーCの試験、私にとって簡単ではなかったからね」
「リリアナもノアの授業が楽しみです」
二人がワクワクしているのだが、ノアはすっかり忘れていた……自分が先生であったことを。
「僕の授業に来る学院生なんているのかな? 完全に孤立した存在になっている気がするけど……」
「ノアよ。民は必ず王国の期待に応えてくれると余はいつも信じておるぞ。今は皆不安なのじゃ。お前のその力を民が十分に理解できた時、必ずお前の期待に応えて精進するはずじゃ。自信を持って思うままにやってみよ」
「……はい。僕が思うようにやってみます! ありがとうございます。国王陛下」
ノアが思うように……それはちょっとやめたほうがいい気もするが……と考えるロイとミラ王女だった。
* * *
そして、いよいよノアが教壇に立つ日を迎えた。
本人は10人程度だろうと予想していたのだが、大きな会場は学院生で埋め尽くされていた。後ろで立って参加するものや教員が覗きに来るほどの盛況ぶりだった。
「す、すごい人気だね……」
ヘンリーが驚くのも無理はない。普通の教員の講義でここまで学院生が集まることは無いからだ。
「やっぱり、プラチナクラスを合格したっていうのが大きかったのかしら」
ミラ王女の推測に頷きながら悔しがるティア。
――ガラガラ
扉が開くとともに大歓声と響めきが巻き起こる。
「えぇ? すごい反響だな。どうしてだろう……」
無詠唱の魔土術で音量を大きくして会場全体に聞こえるように話す。
「本日の魔土術理論を教えることになりました、ノア・グリードです。皆さんよろしくお願いします」
教壇に立って自己紹介をしたノアに再び大歓声と拍手。ちょっと授業をしにくい雰囲気だ。
「ちっ。調子に乗りやがって。あの下民が……」
ヘッポコット・ダッサーイがイライラしてノアの授業に参加している。試験当日に、ティアへ失礼な物言いをし、リリアナ王女の逆鱗に触れてしまった妹のヘタレカ・ダッサーイは当然実力不足で試験不合格だった。
「あいつらさえいなければ今頃我々ダッサーイ家は王族と良好な関係を築いていたものを……」
完全に八つ当たりのヘッポコットの隣に座り、頷いて同調する奴がいた。
ヘッポコットと同じく上級貴族のミスバッカ・イッツーモだ。
「ヘッポコット様、あんな下民を信じてはなりませぬ。私に良い考えがございます。この下民の講義を潰してしまいましょう。それで学院生や教員らの信頼を失墜させてやるのです」
「ほう、ミスバッカよ。そなたには何か考えがあると言うのか?」
「はい。とても良い策がございます」
「……いつもミスばかりするから少々不安ではあるが……期待しておるぞ。クククク……」
ノアが教壇を左右にゆっくり歩きながら、学院生に笑顔で話し始める。
「今日は魔土術の講義ですね。どんな内容が皆さんのためになるかを考えまして、一つ最初の講義としてぴったりの課題を思いつきました」
ザワザワと会場が騒めいている。ティアはワクワクし始めた。
「それでは皆さん、まず初めに魔土術のライトを唱えて小さな光の玉を掌の上に出してみましょう。初歩的な生活系魔土術ですから光属性が無くても問題ありません。皆さんやってみましょう」
ノアの指示に学院生たちは楽勝だという表情で大小様々な球体の光を作り出す。オコール・アングリーもなんだかんだ下民教員ノアの授業に参加して光の球体を作り出している。
「いいですね! とても美しい球体です。皆さんとても上手です」
そんなノアの褒め言葉をかき消すかのように、ミスバッカが大声で隣の女子学院生に罵声を浴びせる。
「おい! お前はこんな小さな光しか出せないのか! どこのどいつだ?」
「すっ、すみません……わ、私は……マ、マリア・セリーヌです。しょ、庶民です」
「あぁ? お前下民なのかよ? 汚ねぇからどっかいけよ! しかもこんな小さな豆粒ライトしか作れないなんてよ!」
メガネを掛けた気弱な学院生に声を張り上げるミスバッカ。周囲貴族も流石にミスバッカに対して不快感を覚えているようだ。
「マリアさん。大丈夫ですよ。あなたのライトもちゃんと丁寧に詠唱された美しい光です。自信を持ってください」
ノアがマリアに近寄って笑顔で伝えると、マリアはとても喜んで、はいと返事をした。
「ちっ! おい下民先生! こんなことやらせて何になるんだよ! 俺たちは忙しい貴族の上級学院生なんだ。くだらない授業だったら承知しないぞ!」
ミスバッカの煽りを笑顔でかわすノア。
「それではみなさん、一旦ライトを解除してください」
光で溢れた会場が一気に元の落ち着いた雰囲気に戻る。
「ここ、魔土術学院塔は皆さんもご存知の通り、高級魔土で造られています。だからさっきみたいに簡単に魔土術が使えるわけです」
「そんなことはわかってんだよ! 下民!」
ミスバッカとヘッポコットが騒いでいるがノアは全く気にせずに話を続ける。
「では、ここで私から簡単な課題です。この教壇の上に置いた低級魔土を使ってライトをもう一度唱えることはできますか? 勿論、皆さんが今座っている席から一歩も動かずに、です」
学院生全員が固まってしまった。




