第41話 王都魔土術学院入学試験 09
「はぁ? お兄ちゃんが先生? え? 受験生が?」
ランク制度の動揺も合わせて上級生の不満が一気に爆発する。
「おい! おかしいだろ! 新入生がなんで教員扱いになるんだ!」
「そうだ! 英雄の息子だからって特別扱いするのはやめろ!」
ものすごい厳しい視線を一身に浴びるノア。
(僕は何も言ってないんだけどなぁ……)
おさまらない罵声とクレーム。
そこにタングス先生が前に出てきて雄叫びをあげて威嚇し、会場を静まらせる。シーンとした空気の中タングス先生が話し始める。
「お前らの主張、要するにノア・グリードの能力が学院教員のレベルでは無い、コネで得たものだというわけだな?」
頷く上級生たちにタングス先生は厳しい状況を突きつける。
「お前ら! 将来魔土術士を目指すものは手を挙げろ!」
半数以上が勢いよく挙手した。貴族っぽい、自信とプライドに満ちた表情で。
「今、手を挙げたやつ! 120m先に設置した的の中心に魔土術を正確に当てられるものはいるか? いるならそのまま手を挙げておけ! 今すぐ試験してやる! 合格したものは卒業でも教員にでもしてやるぞ! どうだ?」
全員が勢いを失って手を下げ始めた。そして挙手するものは誰もいなくなった。
「次! 将来魔土戦士を目指すものは手を挙げろ!」
同様に大勢の貴族上級生が挙手する。
「今、手を挙げたやつらに聞く! 俺と一対一の模擬戦をして引き分け以上に持ち込める自信があるやつはそのまま手を挙げておけ! 今すぐ俺が試験してやる。勿論、合格したものは卒業でも教員にでもしてやるぞ!」
全員が手を下ろす。
「最後に聞くぞ! この中にS級モグラーの資格を持ち、A級ダンジョンを踏破したものはいるか?」
誰も手を上げない。
「では、B級かC級もしくはD級でもいいぞ! ダンジョンをパーティーのリーダーとして踏破したものはいるか?」
誰も手を上げない。全員が悔しい表情でノアを睨んでいる。
「つまりそういうことだ! ノア・グリードは全て達成しているぞ。この状況を知った上で、まだノアが教員となって教えることを不当と思うモノは今すぐ前に出ろ!」
誰も出てこない。いや、出てこれない。文句のつけようが無いのだから。
後ろへ下がるタングス先生と苦笑いするミネルヴァ校長。
「補足しますが、ノア・グリードが卒業ということではありません。彼も同級生と同様に入学し、ランク試験を受けます。教員の件は学院生兼教員という形で打診する予定です」
ノアが微妙な表情をしていることを確認して再び苦笑いの校長。
「そして明日から3日間、状況に不服という生徒の希望退学を受け付けます。その際は学院が入学金を全て払い戻します。また、退学希望を出さないものは新制度に対して合意したとみなします。3日を過ぎての退学希望は、特例ではなく通常の退学対応となるので注意してください。学院としてはどちらでも構いません。詳細は同様に掲示板に載せておくので各自確認しておくように! 以上!」
会場が騒然としている。厳しい視線が再びノアに向けられている。
「なんか……大変な事になったね」
ヘンリーの言葉に頷くことしかできないノアにエミール先生が話しかける。
「ノア・グリード。今、時間はありますか? 校長が話をしたいそうです」
* * *
校長室に呼ばれたノアたち。重要そうな話ということでミラ王女も同伴している。途中ティアよりノアが突然先生になる話を聞いて驚くが、納得するミラ王女と喜ぶリリアナ王女。当の本人は何とも複雑な表情をしている。
「皆さん、本日は入学試験、お疲れ様でした。改めまして校長のミネルヴァです」
「初めまして。ノア・グリードです」
なんとも気まずい状況だ。ノアは教員を断ろうとしているのだから。
「ノア、そんなに重く受け止める必要はありませんよ。教員の件、断るつもりでしょう?」
「えぇ? どうしてそれを? まぁ、おっしゃる通りなんですけれど」
ティアたちは何も言えない。
「まず、教員といっても、毎日教えろということではありません。時々でもいいのです。ヒューマニア王国の民が平和に暮らせるように魔土術士や魔土戦士の底上げをしていきたいのです。そのためにあなたの力が必要だと私は判断しました」
「いや、10歳の僕が教える立場というのはちょっと……やるべきこともたくさんありまして、これ以上更に増えるのは……」
「魔族との戦いに向けて動くのが王宮だけではきっと足りませんよ」
びっくりするノアとミラ王女。どうしてそれを校長が知っているのか。
「王宮の出来事は全て把握していますよ。私はこう見えてロイやリリカたちに魔土術を教えた師匠ですから」
「えぇ! 父さんたちの先生? 見た目が若いんですけど……」
「こら! ノア! 校長先生に失礼でしょ!」
「アハハッ。そう言ってもらえると嬉しいわ。まぁ、エルフの寿命は長いし、まだまだ若者なのよ。それでも魔土術の腕前は確かですよ」
「いや、それなら尚更僕が先生になる必要なんてありませんよ。立派な方々がたくさんいらっしゃるわけですから」
ミネルヴァ校長が一呼吸置いて、話を続ける。
「あなたはこの学院の生徒だけでなく教員たちにも大きな影響を与える事になる。その効果を私は期待しているのです。勿論、この話を受けてくれるなら貴方にとってとても魅力的なものを提供すると約束しますよ」
ピクッとノアの身体が反応したのを見逃さないミラ王女とティア。これはもう決まったと確信した。
「み、魅力的なものとは……一体なんですか?」
喰いついてしまうノアに笑顔でミネルヴァ校長が提示する。
「教員の件を受けてもらえるなら、古代魔土術の<テレポート>をノアに授けましょう。更に私が個人的に所有する超級魔土を幾つか差し上げると約束します。そして教員として学院生の能力底上げ及び……ん?」
さっきまで暗黒の奥底にいるかのように沈んでいたノアの眼が、突然キラキラと輝きを放って校長の話を聞いている。
「……それではミネルヴァ校長。条件面のお話、もう少し詰めて行きましょうか」
…………お前、本当に10歳か?
呆れるミラ王女だった。




