第39話 王都魔土術学院入学試験 07
「今後は学院ランク制度を新設します。全員が一斉に受ける試験にそこまで大きな意義はありません。それよりも学院生がいつでも挑戦できる目標となる壁を設ければ良いでしょう。それをクリアしたらそのランクでの卒業が許されるという制度です」
驚きのあまり声が出ない教員たち。あまりにも斬新すぎてちょっとリアクションできない。
「そうですね。この制度を実現するために……まず、学院から率先して授業は行いません。学院生が自主的に学ぶ場を24時間提供するだけにします」
タングス先生が後ろで笑っている。他の先生は話についていくのがやっとという顔をしている。まだ十分に理解していないと思ったミネルヴァ校長が説明を加えていく。
「お馬鹿貴族が8割を占める学院生を相手に講義を開いてもほんの一握りの学院生だけがちゃんと講義を聞いているだけで他の皆は聞かない、伸びない、意味がない状況ですよ。時間の無駄です。やる気のある生徒だけでいいのです。
自主性100%にすることで各々の目標に合わせて学ぶようになっていく。その際に必要であれば学院生を導く。それが教員の役目だと、私は主張します」
教員の表情を見ながらさらに続ける校長。
「ランク制度は階級をブロンズクラス、シルバークラス、ゴールドクラス、プラチナクラスと分けましょう。各々のクラスは更に三つに細分化します。ブロンズA、ブロンズB、ブロンズCという具合ですね。おそらく現在の二年、三年の学院生のほとんどがブロンズCかそれ以下でしょう」
「なるほど。これを魔土術士、魔土戦士、探掘調査士それぞれに適応させるんですね。そして、望んだランクの筆記試験もしくは実技試験をいつでも受けられる。見事に合格できたらそのランクを受け取って卒業もできるし、更なる高みを目指して学院に残って学ぶこともできる……ですかね?」
エミール先生は理解しているようだ。校長が笑顔で頷いている。
「つまり、講義に時間をかける必要はなくなるが、常に学院生からの挑戦を受けて立つような……精神も肉体も屈強な教員が求められるわけだな。面白そうじゃねぇか!」
タングス先生のコメントに他の教員も興味を持ち始める。
「確かに。これはつまり学院生だけでなく、我々教員も日々精進しないとダメな制度ですね。実に面白いですね」
「ただ、学費はどうされるのですか? これだと固定で費用を取るわけにもいきませんしね……」
ミネルヴァ校長が頷きながら回答する。
「はい。おっしゃる通りです。なので学院生から学費は請求しません」
「「「え?」」」
「40%を王国から工面してもらえるように交渉し、残りの60%を三つのギルド(冒険者、商業、モグラー)から提供してもらえるよう交渉しましょう。なぜなら育て上げた人材の就職先はほとんどこの三つのギルドだからです。断ったギルドには人材を提供しないと言えば解決するでしょうし、揉めるのなら国王から言ってもらえばそれでOKです」
(この人……商才もあるな)
教員全員がそう感じた。ミネルヴァ校長には逆らわないほうがいい。
「この方針なら上級貴族から資金を調達するプレッシャーは無くなりますよね。一切助けを借りないわけですから」
「あの〜。なんとなく新しいスタートは理解できたのですが、在校生である二年と三年の学院生にもこのシステムを当てはめるのですか? つまり、あまり能力が高くない貴族たちがどのクラスも合格できなかったらどうなるのでしょうか?」
「うん、その場合は入学金を返して強制退学ですね。ランクを獲得できない生徒は沢山出てくると思います。今の怠けたままでしたらね。誇り高い貴族が最も低いランクすら獲得できない落ちこぼれとなればメンツも無くなるから必死で学ぶかもしれませんよ。オホホ……」
「オホホって……まぁ、それが一番良さそうですね」
別の教員が質問する。
「ちなみに本日の試験の難度を次回以降も継続するのですか? 少々難しすぎるような気もしますが……」
ミネルヴァ校長に迷いはない。
「このまま続けましょう! 全く役に立たない見せ掛けの魔土術士や魔土戦士を大量に生み出すのはもう懲り懲り! 少数ではあるが優れた者を輩出する王都魔土術学院、そのほうがヒューマニア王国にとっても良いはずです」
教員全員が頷く。現在のヒューマニア王国の弱体化を築いた貴族を追い出すという校長の決意がはっきりと伝わってきた。
「まぁ、他のことはおいおい考えて行くとして、とりあえず試験のことを話そうぜ。皆待ってるからよ」
タングス先生が受験生の話題に戻す。
「えっと、二次試験の合格者は12名ですね。校長、この12名全員が今月の新入生ということでよろしいですか?」
「そうね。問題ありません。順位はどうなりましたか?」
「首席はノア・グリード、次席にティア・グリード、そしてヘンリー・ブラン、リリアナ・ヴァン・クライトンですね」
「ところで筆記試験の結果はどうだったんですか? あの難問を1時間でどれくらい解けたんでしょうか? しかも3科目も連続で……」
ある教員が何気に聞いた質問に黙りこむ教員たち。
「うん……それなんですがね……あの子がね……」
「え?」
エミール先生が説明する。
「校長先生の想定では1時間で20問解けたら優秀、10問で合格ラインというものでした。それに対し、受験した20名のうち、3教科全てで15問以上解いた受験生が先ほどの総合順位上位に入った4名ですね。特にリリアナ・ヴァン・クライトンは全てで25問解いています。ティア・グリードも2教科で同等の成績ですが探掘調査士では18問と少し下がりました。ヘンリー・ブランは全て20問解いていますね。皆本当に優秀な成績でした」
「それは素晴らしいですね! それにしてもさすが王家ですね。ミラ王女も優秀ですが、まさかリリアナ王女まで才能があるなんて…………ん? 皆さんどうしてそんなに落ち込んでいるんですか?」
教員全員が浮かない表情でどこか遠くを見ている。誰も触れたくない話題なのだろう。
ミネルヴァ校長が仕方ないとばかりに口を開く。
「出題数が足りなくて時間を持て余していた受験生がいたのです」
「……えぇ? 解いたらすぐに問題が出てくるわけですからそんなはずは……」
「だからよ。その問題を全部解いた奴がいるってことだよ。50問全てな!」
「そんなまさか! 校長が出されたあの難題を? 我々教員でも全て完全に解くのは時間があったとしても厳しいのに? 嘘でしょ?」
静まり返る教員たち。校長が再び口を開く。
「ノア・グリード、3科目全て50問です。勿論全て完璧な回答でした。中には私も興奮してしまうような斬新な解き方までありました」
「もはや実技の評価なんて聞く必要ないよな? ノアがダントツだ。モグラーの試験免除で満点なんて今まで聞いたことないぜ。俺はぶっ飛ばされちまうしよ」
重苦しい雰囲気になってしまったところで校長がパンと手を叩く。
全員の視線が校長に向いたところで一言。
「私にとてもいい提案があります」




