第38話 王都魔土術学院入学試験 06
ノアのもとに駆け寄るティアたち。
「ちょっと、お兄ちゃん! 大丈夫?」
ボッコボコになったノアの顔を見るのはいつ以来だろう。ロイとの特訓でも時々こうなっていたが、最近は滅多に見ない。ちょっとテンションが上がるティア。
「ノア! 大丈夫? 直ぐに回復魔土術を!」
ミラが詠唱し始めた時、ミネルヴァ校長がやってきて無詠唱でノアを完治させた。そして笑顔でノアに話しかける校長。
「あなたはこのヒューマニア王国の未来を背負うことになるでしょう」
気絶しているノアに、そう言い残して何処かへ消えてしまった。
「ノア! 大丈夫?」
ミラ王女の呼びかけにやっと目を覚ましたノアが突然起き上がって悔しがる。
「くっそー! 負けちゃったのかぁ〜」
気絶したので負けたと勘違いしている。そこへタングス先生がやってきた。
「引き分けだぞ。俺と格闘で互角って、お前本当に大したもんだぞ」
「え? 引き分け?」
こうして、魔土戦士の実技試験は全て終了した。ノアたちは大勢の学院生に注目されながらその場を離れ、次の探掘調査士実技試験の会場へ向かった。
ここでの受験者は人数が5名と少ない。筆記試験を突破したのが15名、その中で魔土術士の実技試験は10名が参加、魔土戦士は9名、探掘調査士は5名という状況だった。
「ワシが試験官を務めるボイドじゃ。皆よろしく……んん?」
「こんにちはボイドさん」
「ノアか? なんと今日試験を受けておったのか? じゃあ、お前はパスじゃ」
「「「……へ?」」」
再び受験者から視線を浴びるノア。笑いながらモグラーギルドのギルドマスターでもあるボイドが説明する。
「ノアはすでにS級モグラーの資格を持っておる。A級ダンジョンに自身の名前までつけておる。そんな奴が受験しても時間の無駄じゃ。パスじゃ。満点で合格じゃわ」
結局、ノアはそのまま合格した。試験内容は探掘実技と鍛治実技の2種類が行われた。ティアは探掘は五人中2番目の高得点、鍛治は5番目だった。
「あ〜もう! こんな事ならお兄ちゃんの鍛冶場で練習しておくんだったわ」
悔しがるティアに笑って励ますリリアナ王女とミラ王女。
「それにしても実技試験を顔パスで満点合格って前代未聞というか……異常よね……普通ありえないでしょ」
ミラ王女が愚痴るように呟いて、周りが頷く。ノアは苦笑いしかできない。
これで全ての試験が無事に終了した。結果は3時間後に発表されるため、ノアたちは学院塔のラウンジスペースでくつろいで待つことにした。
* * *
その頃、教員たちが会議室で集まって今後のことを話し合っていた。
「校長! これからどういう体制で進めていくおつもりですか?」
「そうですよ! 教員を半分以上解雇なさって、受験内容を当日に変更してほとんどの受験生を落とすなんて」
「しかも上級貴族を全員落としましたよ……学院はもうダメだ……」
そう。教員たちは試験どころではなかった。ミネルヴァ校長の一声で一気に学院の体制が変わってしまった。しかも早くも上級貴族から抗議の連絡が次々と……
だが、校長はむしろ喜んでいた。
「皆さん、退職を希望される方はいらっしゃいますか?」
騒いでいた教員たちが静かになる。
「今後は教員の皆さんにとっても茨の道になるでしょう。この腐り切った学院を立て直すのですから、様々な弊害が起こるでしょうし、教員の皆さんに迷惑をかけることにもなるでしょう。だから今、問います。辞めたい方はいますか? 退職金もしっかりお支払いしますよ」
三分の二はキョロキョロと周囲を伺っている。顔には出さないが本当に情けないと思うミネルヴァ校長。
「では、こうしましょう。前向きに私と一緒に共に歩んでくれる方を求めています。貴族とも戦えて、困難にも乗り越えられるとお考えいただける方、挙手をお願いします。それ以外の方は退職という形で」
さっと10人の教員が手を挙げた。残りの20人はそのままだ。
「わかりました。それでは退職の方々。今までありがとうございました」
こうして受験生だけでなく、教員にも大鉈を振るって改革を進めていく校長。
保守的な教員が出て行き、残った10名の教員と今後について話し合うことに。
「さて、新体制となりましたが、これからお馬鹿貴族から圧力がかかるでしょうからその対策として私が王宮に出向いて国王と話をつけてきます。むしろ怒っているのは私の方ですから何の問題もありません。この件は解決できるので皆さんはご心配なく」
「誰も心配していませんよ。仮に襲ってきても誰も負けませんし」
「確かに! これが本当の魔土術だって見せてやりますよ!」
教員、皆同じ気持ちだ。校長は笑顔で話を続ける。
「さて、今回の受験生の合格者は10名です。今日の内容の試験をこれからは毎月一度行うことにします。おそらく、毎月5名は新入生が入学するでしょう」
「そうなると、カリキュラムとかどうします? 結構面倒だと思いますが」
まともなツッコミをするエミール先生にミネルヴァ校長が度肝を抜く制度の変更を告げる。
「これは私がここ10年でずっと考えていたことなのですが……三年制という腐った制度を廃止します。これからは学院生個々の能力に合った卒業を目指してもらい、それに見合った卒業証書を渡すことにします」
「もう少し具体的にお聞きしてもよろしいですか?」
「卒業に時間の概念を設けるのは無意味です。優秀な人間は一ヶ月で卒業しても良いのです。もしくは時間をかけて力をつけたいと望むものは数年居続けても構わないのです」
「では、全体試験はどうされるのですか?」
「……むしろこれまでの全学院生で受ける試験は全て撤廃しちゃいましょう!」
「「「……え?」」」
「これからは学院内にランク制度を導入します!」




