第37話 王都魔土術学院入学試験 05
「ノア・グリード! 最初に言っておくが、お前はもう魔土戦士実技試験の合格が決定だ」
当然だが、周囲はざわめいている。何故何もしていないのに合格なのだと。
不満の声が聞こえてくるなか、ノアはその意図を理解して笑顔で答える。
「では、これは模擬戦と捉えてよろしいですね?」
ニヤッと笑ってタングス先生が頷く。
「ミネルヴァ校長! ご覧になっているんでしょう? 審判をお願いできませんか?」
訓練場全体に通る大きな獣の声。それに応えるようにゆっくりと姿を現すミネルヴァ校長。
「タングス先生、あなたって人は本当に………………最高ね! 楽しそうだわ! やりましょう模擬戦!」
ミラ王女がさらにドン引きする。
「校長もノリノリじゃない……」
そして、一瞬で人集りが出来てしまった。タングス先生と受験生でしかも10歳の男の子が模擬戦? 学院生からしたら理解できない話だ。
ノリノリのミネルヴァ校長がルールをまとめていく。
「武器使用ありで時間は無制限。魔土術による相手への直接攻撃は不可。武器や自信の身体強化などのエンチャントは認めます。また重ね掛けも有りです。全ての急所攻撃も有り。たとえ首がちょん切れても私が必ず修復してみせますのでご安心を。遠慮せずにお互い殺し合ってください!」
「「了解です!」」
ミラ王女が校長の言い方に恐怖を感じる。殺し合いって……
「で、ノアは何の武器を使うんだ?」
タングス先生が聞くとノアは笑って首を振る。
「素手の格闘で先生に挑みます」
嬉し過ぎて思わず大笑いするタングス先生。
「お前、本気か? 人族と獣族だぞ。ましてや子供と大人だ。いいんだな? 俺は手を抜くつもりはないぞ。気持ちが高ぶってワクワクしてんだよ。久々に骨のある奴に出会えたってな。お前の父さん以来だぜ」
「僕だって同じですよ。人生で初めて獣族に出会えました。しかも剣よりも格闘が本職のように思えたので。だから剣で勝負なんて勿体無いでしょ?
獣族の格闘を体験できるチャンスなんですから」
二人の熱い会話を前にして校長が一番興奮しているように見えるミラ王女。
訓練場が静まりかえる。校長が二人の表情から気合十分と判断し、号令をかける。
「始め!」
――ドドン!
両者が消えるほどのスピードでぶつかり合う。周囲の学院生にはその動きが全く見えなかった。気づいたら二人が中央で激突していた。
(コイツ、無詠唱で身体強化の2倍かよ。いきなり獣族の優位性がゼロになっちまったな)
(流石獣族だ。力がヤバすぎる。これ以上の強化は自分に負荷がかかり過ぎる……)
と、タングス先生がノアのボディに強烈な左フック。ノアの身体がくの字に曲がって吹っ飛ぶが衝撃吸収バリアのおかげでダメージはそこまで大きくない。
「やばい……威力がやばいぞ……ガードではなく、なるべく躱さないと」
「オラオラ! どうしたノア! まだまだこれからだぞ!」
蹴りとパンチの応酬。お互いがダメージを受けながら一歩もひかず、肉体が激しく衝突する音だけが訓練場に響き渡る。
「すごいわ。ノアがあんなに格闘も強かったなんて……」
感心するミラ王女と口が空いたまま観戦している学院生たち。
しかし、徐々にノアが押され始めた。獣族の関節や骨格が人族とは違い、ノアが推測しにくい角度と距離から攻撃される感覚で対応しづらい。
(だったら、これでどうだ!)
「ファイア!」
「はぁ! なんだと!」
ノアの両手が炎で燃え上がっている。そしてそのままタングス先生のガードする両腕に連打を見舞う。
「あっちぃ! くそ! どうなってんだ」
反則なのか? 全員がミネルヴァ校長を見つめる。それに気づいた校長が堂々と宣言する。
「これは武器へのエンチャントです! 両腕に魔土術を付与したのです!」
とんでもないことだ。両腕が無事なのかという疑問もあるが、それを発想すること自体が常軌を逸している。それを楽しむかのように笑っているノアとタングス先生。
タングス先生の攻撃を両腕でガードするノア、それが同時に攻撃にもなってタングス先生の打撃に少しずつキレが無くなっていく。
「いまだ! クアトロ! アーム!」
ノアの両腕が光を放つ。フックをかい潜って強烈なボディショットの二連打。
「グハァ!! ヤベェの喰らっちまった……」
だが詰め寄るノアに生まれた一瞬のスキを見逃さず、タングス先生が尻尾でノアを捕らえた。
「あっ! しまった! グアァァー!」
そのまま両腕の拘束は逃れたものの、胴体を締め付けられるノア。 そして顔面に連打を浴びて終わりかと思われたが、四倍のパワーとなった握力で思いっきり尻尾を握りつぶす。
「ウギャー!! この野郎! 俺の尻尾を!」
「へへへ……まだ負けませんよ」
一旦距離をおく二人。
腫れ上がった顔面と締め付けられてボロボロになった身体。回復魔土術をかければ、その隙にやられる。そう考えたノアは最後の攻撃を仕掛ける。
「クアトロ! 両脚だ! 行くぞ!」
ノアが四倍となった脚力で飛びかかっていく。最後の特攻と判断したタングス先生は冷静にカウンター狙いで右ストレートを放つ。
「ん?」
伸ばした右腕の先にノアはいるが手応えが無い……いや、これはノアの残像だ!
「しまった! コイツそういえばミラーを使え……」
ドゴン!
ノアの渾身のアッパーカットがタングス先生の顎をクリーンヒット。宙を舞い、地面にドサっと落ちて動かない。白目を向いて失神している。
そしてノアも撃ち込んだ後、そのまま力尽きて倒れてしまった。
どうやら気絶してしまったようだ。ピクリとも動かない。
模擬戦にしてはあまりにも壮絶なダブルノックダウンだった。
あまりにもレベルが高すぎる戦いを見せられて誰も反応できない。教員ですら口を開けて固まっている。
ミネルヴァ校長が歩み寄って、二人の状況を確認する。
そして両手を大きく振りながら観衆に伝える。
「この模擬戦、両者引き分けです!」




