第36話 王都魔土術学院入学試験 04
「そんな馬鹿な……」
「嘘だろ……」
その場にいた教員たちと学院生が120mの的に集まっている。
「一体どうやればここまで正確に打ち抜くことができるんだ? そもそもなんの魔土術を放ったんだ? 貫通するってあるか?」
騒がしくなった試験場を移動してノアとティアは魔土戦士の試験会場へと向かう。リリアナ王女は適正認定が10を超えた魔土術士の実技試験を終えたため、残りの二つはミラ王女と共にノアとティアの応援にまわった。
「お兄ちゃんが試技をする前まではティアがキャーキャー言われていたのに。全部持っていかれちゃった……」
「アハハ。そんな事ないよ。ティアの実力はまだまだ伸びるから来年の今頃は僕よりもすごい魔土術を唱えているさ!」
言葉にも余裕があるノアの雰囲気、ティアが本当に憧れる目標となっていた。
リリアナ王女の前で、英勇と讃えられる両親を知る世間の前で、ティアは自分らしさをストレスなく外へ出したいとずっと考えている。ノアは本当にそのお手本だ。
「お兄ちゃんにはプレッシャーとか無いの?」
「う〜ん……無いね。ここまでの短い人生では、だけどね」
歩きながら、笑い合うノアとティア。
「ちなみに……ティアには新しいプレッシャーが生まれたと思うよ」
「え? 何よ急に。やめてよ……どういう事?」
ノアが後ろを軽く指差して笑う。
「リリアナ王女の心をコントロールするためにはティアの助けが必要ってことさ。さっきのアレ、もし王宮でやられたら怪我人じゃ済まないよ。あとで原因を突き止めて対策を立てないとね」
「あぁ、あの怒りの竜巻ね……確かに私の事を思って爆発したって感じだったね」
「それだけティアの存在が大きいんだよ。これはすごいプレッシャーだぞ。へへへ」
憎たらしい笑顔でイジってくるノア。じゃれ合っているうちに次の会場へ到着する。
「実技試験を受験される方はこちらです」
係員の指示で向かった広い室内訓練場の中央には、ポツンと一人の教員が立っていた。そしてニカッと笑って話し始める。
「今回試技を行うのはお前ら9人だな。俺は魔土戦士教員のタングスだ。試技は獣族である俺と戦って、その力を見せてもらう。それだけだ」
怯えている受験生を見て大笑いしながら説明を加えるタングス先生。
「俺は殺したりしねぇから安心しろ。基本的に受けにまわってお前たちの力を見極めるだけだ。俺が攻撃する奴はおそらく一人だけだ」
タングス先生がノアを見ている。
「さぁ、始めるぞ!」
タングス先生直々の試験が始まった。最初の数名が弱々しい剣技で攻撃を繰り返すが、タングス先生には当たらない。全て躱すか防御されてしまう。
「よし! 終わりだ。お疲れさん! 次!」
テンポよく、5分程度で一人の能力を測っていく。
「次! ヘンリー・ブラン! 前に出ろ!」
「はい! よろしくお願いします!」
勢いよく飛び出し、なかなか鋭い太刀で連続攻撃を仕掛ける。余裕でさばくものの先ほどまでとは違って、ヘンリーには才能があるとタングス先生は感じた。
「よし! お疲れさん! お前なかなか良かったぞ」
「あ、ありがとうございました!」
喜んで後ろへ下がっていくヘンリー。
「次! ティア・グリード! 前へ!」
「はい!」
「ティア! 頑張って!」
リリアナ王女とミラ王女が応援してくれている。手を軽く振るティア。そして珍しくノアがティアにある注文をつける。
「ティア。あの先生に攻撃させるまで帰ってきちゃダメだぞ」
「……へ? それって課題? ここで?」
しかし戸惑いではなく……ニヤッと笑ったティア。緊張はない。闘志に満ちている。
(ほう、こいつなかなかのオーラを持っているな……やはりさすがロイさんの娘って事か……)
「始め!」
ティアが素早く足元を狙って動くがそれを読まれてバックステップでかわされる。そして連続攻撃で足元ばかりを狙うティア。それを余裕で受け流すタングス先生。
そしてティアが不意に後ろへ下がる。剣の刃先に手をかざし詠唱する。
「ファイア!」
「はぁ? その歳で魔土術のエンチャントかよ! やるなぁ!」
喜んでいるタングス先生に向かって地を這う炎の斬撃! 砂煙とともに襲いくる斬撃をうまく躱したものの、視界が悪く正面にいたティアの姿を見失う!
そして背後から殺気を感じてすぐさま振り向き、足元へ攻め寄るティアの攻撃をまたしても受け流したタングス先生だったが……
「あっ!! 足元への攻撃が剣のみ? アイツぶん投げてきやがったのか!」
「もらったわ!」
ティアが砂煙の中からジャンプして顔面に渾身の右ストレート!
「くそ!」
咄嗟に対応したせいで無意識の裏拳カウンターがティアの腹部に直撃。
ティアが後方の壁に吹っ飛んでしまった。屈強な獣族の一撃が9歳の女の子の身体に直撃してしまった。誰もが青ざめてしまう。
「ヤベェ!!! 大丈夫か! おい! すまね…………えぇ!!!!」
すると、ムクッと起きかがってケロッとしているティア。洋服をパンパン叩いて埃を落としている。
「……ど、どういう事?」
周りも理解が追いつかない……
「ありがとうございました!」
スタスタ歩いてノアの元へ戻るティア。ノアとハイタッチを交わす。
「ティア、とてもいい攻撃だったぞ! あれは父さんにもきっと褒めてもらえるぞ。よくやったな!」
ノアに褒められた……これがティアにとって今日のハイライトだ。ぶん殴られたことが何故と思われるかもしれないが、ノアに認めてもらえる喜びを知っているのはおそらく妹のティアだけだ。きっと誰にも理解されない。レベルの高い兄の背中をずっと追って来たからこそ湧き上がる感情なのかもしれない。
「ノアのやつ、打撃を受ける瞬間、ティアにバリアを張ったのね。緩衝効果も付与されたとても優しい心のこもったバリアをね。しかもお腹と背中に……ちょっと技術の高さについていけないわ」
ミラ王女がドン引きしている。レベルが高いというものではない。ある程度ティアの攻撃パターンを読んで、タングス先生がどう出るかを想定しておかないと咄嗟に出せるものではないのだから。
「なるほどな……お前の仕業か……」
タングス先生が全てを理解する。そして名前を呼ばれるまでもなく、ノアが前に出て来た。
「ノア・グリードです! よろしくお願いします!」




