第24話 王家との食事 01
王宮2日目の朝。ノアたちは結局そのまま朝まで眠ってしまった。ノアはまだ寝ぼけた状態で朝の日課となっている魔土術トレーニングや最近始めた身体能力向上のためのトレーニングを王宮の庭で行なっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……難しいな。もう少し集中してマナの流れを意識して……」
ノアはここが王宮で、ハイソイラを基本素材として作られていることを思い出す。
「そうか、魔土術士は周囲の魔土の魔素を利用して魔土術を放つか、携帯している魔土アクセサリーの魔素を利用するかのどちらかだ。つまり環境の魔素を利用するならソイラ、ローソイラ、ハイソイラという変化に注意しないと……」
ブツブツ言いながら、まず自分自身でトライアンドエラーを繰り返す。そして書物や先人のアドバイスを聞く。こうしてノアはここまで成長してきた。
そんなノアを見守っているロイとリリカ。二人とも庭園に出てきた。そしてミラ王女も同じタイミングで現れる。
「ロイ、リリカ。昨日はよく眠れましたか?」
「ミラ王女、おかげさまで家族全員ぐっすり寝てしまいました。夕食をご一緒できなくてすみません」
「アハハ。本当にいい家族ですね。ノアはいつもこんな朝からトレーニングをしているのですか?」
「そうですね……もう6年ほど続けていますよ。すごい子ですよ」
(……6年って、4歳の時から?)
ミラ王女は聞きたかった質問をロイにしてみる。
「……ノアは赤子の時にあのグランサンクチュアから降りてきたというお話は本当ですか?」
「本当ですよ。私もリリカもそして他の仲間も目撃しています。本当に天空から舞い降りてきたんですよ。やさしい光をまとって」
笑顔で話すロイとリリカを見て、ミラ王女はノアと家族の関係性を理解した気がした。
一般家庭とは違う王宮で育つ自分、それともまた違うノアに対してどこか似た者同士という意識が芽生えていた。
「これがノアの強さの理由の一つなんですね。初めてダンジョンで見たときはただ信じられないという思いだけでしたが。今ではよく理解できます。それでも彼が生み出すものは魔土術も武器も装飾品も全て驚かされますけどね」
笑って話すミラ王女にロイたちも大きく頷いて同意する。
「……邪気か。魔族を初めて見たけど……不思議な力だなぁ。生物が邪念を強く持った結果、生まれ変わってしまうと言われている。そして魔族はガイアの力を得られないと言われている……もうちょっと知識が欲しいなぁ」
そしてノアはミラ王女がいることにやっと気づく。
「み、ミラ王女。おはようございます! すみません。いつからここに?」
「いいのですよ。構わずに続けてください」
「あの……今日、図書の間に入ってもよろしいですか?」
「あ! ノア! 私も行くわ!」
リリカが大人気ないのを恥ずかしそうにするロイ。そして笑って答えるミラ王女。
「もちろんいいですよ。朝食は国王から一緒にと言われておりまして。皆さんご一緒でよろしいですか? どうやら、気楽に話ができる場でロイやみなさんとお話をしたいそうです」
「はい。私たちがご一緒してよろしいのであれば是非。ただ、王宮での食事のマナーなど、わかっていない庶民の我々でよろしければですが」
笑って問題ないと答えるミラ王女の反応に、ホッとするロイだった。
* * *
大会食の間で王家の人間とロイ一家が食事している。なんとも不思議な光景である。そして緊張しているロイとリリカに対し、自然体でパクパク食事を摂るノア。ティアはリリアナの隣で楽しそうだ。
「ロイよ。昨日はすまなかった。此度の件、改めてお礼を言わせて欲しい。本当に感謝している」
「いえいえ、そんな。昨日は……その……辛い状況だったことは皆わかっております。それに止められなかったことに責任を感じております」
「第二王子のことは王宮の責任だ。お前は本当によくやってくれた。そしてロイの家族、皆のおかげで余はこうして生きているのだ」
国王の一言で少し気が楽になったロイ。
「ときにロイよ。お前の息子、ノアのこの天才とでもいうべき知恵と力は、一体どういうことなのだ? こんな幼い子供が魔族の呪いを解き、魔族の偽装をも見抜いてしまうとは……」
「ノアは私たち夫婦の想像をはるかに超える存在です。最初は戸惑いましたが、今では温かく見守って、ノアが興味を持ったことに集中できるよう、背中を押してやりたいと考えて暮らしています。本当に、ただそれだけでして」
ロイの言葉を聞いて嬉しくなるノア。そして、国王もロイの言うことに共感したのか、笑顔で頷いている。
「ロイよ。お前に……というかロイの家族の皆に頼みがある」
「えっと……どういったことでしょうか?」
国王はゆっくりと口を開いて話始めた。
「余は此度の一件をヒューマニア王国の大いなる危機だったと考えておる」
ミラ王女が頷いている。
「簡単に何人もの魔族に侵入されるだけでなく、人になりすまして王宮内に潜伏されていたことすら、見抜くこともできずにいた。
更には第二王子を魔物に変えられるという許されぬ失態まで。そしてそんな魔族に対抗できる手段を今の王国は持ち合わせてはおらぬ」
「王国騎士団では難しいのでしょうか?」
ロイの質問にミラ王女が答える。
「今の王国騎士団は名ばかりのものです。平和な時期が長すぎたため、騎士としての実力もそうですが、騎士としての精神ももはや地に落ちた状態と言えるでしょう」
「そこまではっきりと……」
リリカも驚く国の衰退ぶりだ。
「そして……余はあと3年で国王という地位を退こうと思っている」
「「「えぇ!」」」
ロイたちだけでなく、王家の皆も驚いている。ヘンドリックだけは知っていたようだ。
「父上! それはジョンが死んだ今、私が王の座を引き継ぐと考えてよろしいのですか?」
レスタ王子が目を輝かせて話に食いついてくる。
「はぁ……レスタよ。お前はどうしてこんな欲と権力に目がくらんだ情けない男に育ってしまったのだ。そして魔物になったとはいえ、実の弟の死をそのように軽く扱うなど話にならん。昨日はノアに対して暴言を吐き、その後の魔族との戦いでは18歳であるにもかかわらず、泣き叫びながら王妃の背中に隠れていたそうだな。最後の辺りは余も直接見ておるわ。情けない。そんなものに国を任せられると思っているのか」
「そ、それは……」
何も言い返せないレスタ第一王子。そして誰もが国王の言うことが正しいと思っていた。
「で、では私が国王にならないとおっしゃるのなら、一体誰が国を治めると言うのですか? 王を継ぐ資格があるのはこのレスタ・ヴァン・クライトンしかおりません」
ため息を再び漏らして、国王は言う。
「おるではないか。お前の目の前に」
「はぁ? 目の前……っ! まさか、ミラですか!」
「そうだ。ミラだ」
唖然とするレスタ王子。そしてミラ本人も驚いている。
「ミラこそがこの国のことを思い、この国のために動き、この国のために全てを捧げることができるヒューマニア王国の象徴となるべき存在だ」




