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グランサンクチュア〜地底天空都市の伝説〜  作者: 大森六
第一章 ヒューマニア王国

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第16話 王宮に迫る陰謀

「ノア、これらの樹木は全部グランサンクチュアから譲っていただいたものなのよ。我々人族は現地の民に技術を提供した。そうやって国と国で交流して得たものなの」



「どこの国の樹木なのですか?」


「獣族国家ビースタニアよ。あそこに広がる【生命の森】から数本だけいただいたのよ」


「ヘェ〜。とても大きな樹ですね。森というのは樹々が集まった場所のことをいうのですか?」


「そうよ。よく知っているわね」




「……僕は本でしか読んだことがありません。今日、初めて植物と出会いました」



「私だってこの王宮でしか見たことがないわ。というより、このヒューマニア王国を出たことが一度もないわ」



 少し寂しそうに話すミラ王女。リリアナ王女が顔を覗き込む。



「……いつか私も外へ行ってみたい……なんてね」



「……ミラお姉様」


「……」




「あの……この木に登ってもよろしいですか?」


 ノアが唐突に変な質問をする。



「え? もちろんいいわよ」


「ではお二人も一緒に!」


「は? え⁈ あ〜!!」



 そう言って、ノアはリリアナ王女を抱きかかえ、ミラ王女を魔土術で浮かせて太い樹木の葉が生茂おいしげるところを超えて、てっぺん付近まで登っていく。



「ノア! ちょっと何をしているの!」


「こ、怖いです!」


「すみません、この辺がいいですね」



 二人の王女をゆっくり下ろす。とても眺めの良い場所だ。王都だけでなく、ヒューマニア王国全体が見渡せる。そしてノアが前方のある場所を指差す。



「僕は……きっとあそこで生まれました」


「え? 知っているわよ。第1ブロッカ地域よね?」


 首を振るノア。そしてもっと先だと言って、わかりやすく前方上部、空まで伸びているタワーを指差す。



「えぇ⁈ グランサンクチュアで生まれたってこと?」



「正確には、グランサンクチュアの神の塔の上から落っこちてきたそうなんです。その時に今の父と母に拾われたみたいでして」



「嘘……でしょ? 本当に?」



 コクリと頷くノア。ただ、悲しさは一切ない。笑顔でミラ王女とリリアナ王女に言った。


「僕は銀の髪で青い目で他の人と違うかもしれないけど、全く気になりませんし、父と母と妹とは血の繋がりはないかもしれませんが、心から愛しています。そして僕は必ずあの場所へ……あの塔を必ず登ります。僕の全てを知るために」



 ミラ王女は自分が15歳でノアよりも5歳年上であることを恥ずかしく思った。ノアの表情と言葉からは、10歳にしてすでに自分の人生を達観してるように見えた。

 しかしそこに諦めや悲観は一切ない。全てをノア自身で納得できるように切り開いていくという強い信念まで感じられた。




「……リリアナはお友達が欲しい」


「うそ! リリアナが自分から話しかけるなんて! この子は私にしか懐かないのよ」



「……ノア、リリアナの友達になってください」



「え〜! ちょっとショックなんですけど! リリアナ! 私にだって大分時間かかってやっと慣れてきたのに。 ノアには一日で? はぁ〜なんで?」



「あははっ。もちろんですよ。リリアナ王女。こんな庶民の僕でよければ。それから今度私の妹のティアを連れてきますよ。ティアとリリアナ王女はきっと仲良くなれますよ!」


「うん。ティア。楽しみ」


 顔を真っ赤にして喜ぶリリアナ。



 樹木の上ですっかり打ち解けた三人。そしてミラ王女が本題を切り出す。




「ノア、一つ相談があるの」


「……相談? 一体どういったものでしょうか?」




「暫くの間、王宮で私の従者として仕えてもらえないかしら?」


「申し訳ございません。無理です」



 迷うことなく即答するノア。そして悔しさと恥ずかしさで顔を赤くしながら話を続けるミラ第一王女。



「ちょ、ちょっと待って、まだ話があるのよ。最後まで聞いて欲しいの」





 ミラ王女によると、このヒューマニア王国は国家による他民族への差別は無い。つまり王都リトルガイアであろうとコンクーリであろうとブロッカ地域であろうと、王国が定める規律を守れば住むこともできる。平和主義国家だ。しかし、敵対している国家が一つだけ存在する。それは魔族国家のノエビラ魔王国だ。


「ヒューマニア王国は魔族の入国、交流を固く禁じているわ。もしもこの規律を破れば処罰される」



 静かにミラ王女の話を聞くノア。


「ところが約一ヶ月前、王宮で開催された宮廷舞踏会で魔族が持つ邪気を帯びた髪飾りが発見されたの。誰もが行き来する舞踏ぶとうの床に落ちていたのよ」


「カミカザリとは何ですか?」


「あぁ、そうよね。リリアナがつけているこれよ。髪を飾る装飾品」


 なるほどという顔をするノア。


「ただ、その髪飾りの所有者が結局見つかっていないの。女性貴族だけでなく、男性貴族や王宮に勤める全てのメイドや使用人、従者たちも調べたわ」


「それでも持ち主は現れなかったと」


「そうよ。そもそも邪気をまとった防具や武器、日用品が王国内に出回らないように、検閲はかなり厳しくされているはずよ。仮に王国の正門をくぐれたとしてコンクーリの市場に出回るとしても、王都リトルガイアへ出回ることは不可能というくらいに王都の正門での検閲は厳しいわ」



「そうですね。僕も先ほど体験しました」



「そんな中、舞踏会でそれは見つかった。つまり、何者かが持ち込んだことになる。この厳重な王宮の中にね」


「なるほど。ちなみにその髪飾りは今どこにあるんですか?」


「王宮地下に隔離してあるわ」



「……ところで、僕がミラ王女の従者になる必要性が見えてこないのですが」



「その髪飾りと同時期に私の父、つまり国王が病気になってしまったの」


「え? 国王陛下がご病気に?」



「……胸を抑えて苦しみ出して。王宮の魔土術医師団に診せても原因がわからないって。どう考えてもあの元気だった父が急に病気で倒れるなんて不自然なのよ」



「……う〜ん。なるほど。それで僕に従者になって原因、つまり誰が髪飾りを持ち込んだか、誰が国王をおとしいれたかを探れということですか?」



「その通りよ。これはヒューマニア王国にとって国家転覆にもなりかねない事件なの。内乱かもしれないし、外部……つまり魔族が仕組んだ罠かもしれない」


ノアも状況を理解する。


「今この王宮内にいる人間は私利私欲でしか動かない愚か者ばかりだわ。宮廷伯、執政官、王国騎士まで私は誰も信用できないの」



「二人の王子、つまりお兄様たちにこのことは?」



 首を横に振るミラ王女。



「相談なんてできないわ。国王が突然謎の病にかかるということは、()()()を真っ先に疑うべきなのだから」




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