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グランサンクチュア〜地底天空都市の伝説〜  作者: 大森六
第一章 ヒューマニア王国

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第15話 初めての植物

 王との謁見えっけん当日、ノアとロイは城下町コンクーリにある冒険者ギルドから馬車にのって王都へ向かった。20分後正門に到着し、馬車を降りて身分確認を終える。そしてノアにとって人生初となる王都リトルガイアへと足を踏み入れたのだった。



「うわぁ〜建物が綺麗だ。全てソイラ以上の等級魔土で建物ができてる!」


 地面も舗装されていて、街を歩く人々全てが華やかだ。これが貴族というものか……



「王都なんていつぶりだろうなぁ。懐かしいなぁ」


「お前、顔パスだろ。いつでも来たらいいじゃねぇか」


「いやいや、堅苦しいのは苦手なんだよ」


「確かにロイには似合わねぇな! ハハハ」



 ノアはあることに気付く。不快な感じの視線を浴びているのだ。どこからというか……街ですれ違う人たち全員から。



「みんなが僕を見ているけど、要するにこれって()()ってやつ?」


「プッ! ブァッハッハ! ノア、お前すごい冷静な反応だな。嫌な気持ちにならないのか?」


 リックがノアを別の生き物のように扱っているのがノアにもわかる。



「いや、僕にだって不快な気持ちはあるよ。でもまだピンと来ていないかな。庶民だからさげすまれているのか、僕の髪が銀色で、青い目だから珍しいのか」


「さぁな。どっちもじゃねぇか? 俺は貴族のくだらねぇ考えに興味がねぇからなぁ。それもロイのように英雄となったら途端に態度を変えてくる。気持ち悪い生き物だぜ」


 リックの言いっぷりに苦笑いするロイ。そう。ロイに向けられる眼差しは差別のそれとは違うのだ。左腕を失っているせいか、余計に目立ち、簡単にロイだとバレてしまう。


「まあ、でもよ。ノア、お前は誇っていいんだぞ。お前の父ちゃんはそれだけすごいことをやってのけたんだ。ロイのような冒険者は二度とこのヒューマニア王国からは出てこないぜ」



「やめろってリック。恥ずかしいから」



 そうこうしているうちに王宮の正門に到着したロイたち。門番に王宮からの手紙を見せて中へ通してもらう。



「うわぁ〜、父さん! この王宮って、もしかしてハイソイラで建てられているんじゃない⁈」


「あ、あぁ。そうだな。そういえばノアはハイソイラの建物は初めてか」


「すごい! 壁からもすごい魔素の量を感じるし、綺麗だし、そして……こんなに大きな建物を見るのは初めてだ〜!」



 ものすごく興奮しているノア。建物だけではない。王宮には植物や樹々、多様な美しい花で彩られた()()があるのだ。


「父さん! あれは何? あの緑の!」


「あれは樹木だ。本にも出てきただろう? 植物だな」



「すごい! すごいよ! あの樹木を直に見れるなんて! 触ってもいいのかな?」


「よ〜し!じゃあ、後で国王にお願いしてみるか!」



 ノアだけじゃない。ブロッカに住む庶民や城下町コンクーリに住む中級以下の貴族も植物を見たことはないだろう。ヒューマニア王国が位置するガイアの大地は表層が低級魔土<ローソイラ>でできた地盤であるが故に植物や樹々が育たない。



 ここガイアの大地において、森が存在するのは中央のグランサンクチュアだけである。そこは高級魔土<ハイソイラ>でできた地盤で、植物に必要な十分なエネルギーが蓄積されているからだと、王国の研究者から発表されている。



 そしてヒューマニア王国の人族でグランサンクチュアの大地に生息している森や多種類の植物を見たことがあるのは【黄金の大地】の冒険者、つまりロイたちと、一部の商人だけである。


 その商人たちはどうにかして現地の民と交渉し、植物を王都へ持ち運ぶことを許された。実はその仲介者として交渉に大きく貢献したのが他でもないロイたちなのだ。


 ヒューマニア王国は文明国家であり、その知恵を大いに活用し、王宮の一部分にハイソイラの地盤を形成し、そこへ植物や樹々を徐々に移植していき、長い年月をかけてついに庭園を完成させたのだった。


 そんな庭園の前に立って、ノアは猛烈に感動していた。初めて目にする()()という存在。不思議と見ているだけで癒されるこの感覚。全てが初めての体験だ。



「その庭園に入っても構いませんよ。私が許可します。」


 ノアたちが振り返ると、十代の若い女性と小さな女の子が立っていた。


「ミ、ミラ王女様!」


 リックが片膝を地につけてお辞儀する。


「えぇ? 王女様?」


 慌ててロイたちも同様の仕草をする。



「普通で構いません。顔をあげてください」


 楽にする三人。ふとノアが気付く。このマナの感じは……



「あぁ! エミラ様⁈」


 ニカッと笑ってノアに近づくエミラ。


「あの時は楽しかったわ。そして身分を偽っていてごめんなさい。私はミラ・ヴァン・クライトンです。このヒューマニア王国の第一王女です」



「えぇ!! なんか失礼なことしていたらすみませんでした!」


「大丈夫よ! 本当にあなたには色々と興味が湧いたの。だから私が王宮に呼んだのよ。よろしくね、ノア!」


 いまいち状況が理解できないノアと、やっぱりかと呆れるロイ。そしてミラ王女の後ろに隠れている女の子をミラが手を引っ張って前に出す。


「で、この子が妹のリリアナよ」


「初めまして。リリアナ王女。私はノア・グリードと申します」


「は、初めまして……」



 リリアナは挨拶が終わるとすぐにミラの後ろに隠れてしまった。どうやら極度の人見知りのようだ。そしてミラはノアの手を引いて庭園に連れて行く。



「え? あ、庭園に入ってよろしいのですか?」



「いいのよ。私がいいっていうんだから」



 三人が庭園で遊んでいる光景をリックとロイが見守っている。そしてロイの元にヘンドリックがやってきた。


「ロイ様、先日はどうも」


「やはり、王宮のお方でしたか」



 全てを知っていたリックは微妙な感じで話を聞いている。



「改めて突然の王女様のたわむれに巻き込む形となってしまったことを心からお詫び申し上げます。先日、リック殿からノア様の一件をお聞きし、ミラ様がとても強い関心をお持ちになられまして……」



「ダンジョンにどうしても行きたいと?」


「はい……そうです」


「だから、リックが調査に参加したってわけだな」


「まあな。仕方ねぇだろ。他の冒険者だと万が一何かあったら問題になるからな」


「ははは。確かにそうだな」



「ミラ様はノア様だけに興味を持たれたわけではありません。実はあなたとノア様のダンジョンでのご活躍を王女ご自身の目で見て、そして判断なさったのです」


「……と、言いますと?」



「ミラ様はロイ様とノア様にご相談したいことがあり、今回国王様への謁見という場を利用することで、《《怪しまれることなく》》直接お話する機会を設けたかったのです。」



「怪しまれることなくって……」


 ロイが真面目な表情でヘンドリックの話を聞く。どうやらリックはすでにわかっているようだ。



「実は……このヒューマニア王国、王宮が何者かに狙われているようなのです」






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