第14話 王宮からの手紙
ロイの言っている事が理解できないリリカは再び尋ねる。
「王女ってどういう事?」
「王国騎士団ってのはもっと屈強な騎士のイメージだがあの爺さんはどう考えても違うだろ。能力もおそらく元兵士というものではない。何より俺はあの爺さんに会ったことがある」
「まぁ、冒険者時代に王宮には何回も行っていたからね。どこかで会うこともあるとは思うけど」
「……王宮の謁見の間で見たんだよ。つまり王族か、その側近という事になる」
「じゃぁ、あの仮面の子が王族、つまり容姿からして王女ではないかって事?」
「ノアはあの子を回復魔土術が使えると断定していたからな。回復魔土術が使えて年齢は若い。さらにダンジョンであの爺さんに守られていた。なんで王国騎士の補佐役としてきているのに、王国騎士に守られているんだ? 意味不明だろ」
「そもそも、未開ダンジョン調査には一名の王国騎士が参加し、その調査が不正かどうかを判断するだけでいいはずなのに、二人で参加っていうのもおかしいわね……なるほど。王女がノアに興味を持ったという事ね」
「まぁ、とりあえず今日は帰ってゆっくりしようか。そのうち王宮から連絡がくるさ。その時に考えよう」
「そうね。帰りましょう」
* * *
あれから一週間が経過した。
ノアは早朝4時から起きて魔土学と魔土術学の勉強と訓練に励んでいた。時々寝坊してサボることもあるが、4歳の頃から今までずっとこの努力を続けている。それをロイとリリカは知っていた。だからロイが10歳にしてなぜあそこまで高い技術を持つのか、戦闘センスがあるのかをある程度理解できていると思っていた。しかし、10歳になって急激に成長し始めたのか、才能が開花して二人にも手がつけられないほどに色々と吸収し、自分で改良を加えて昇華させてしまう。魔土術にしても防具や工具にしてもそうだ。
悪いことではないがその早熟さが怖くもあり、どうするべきか悩んでいた。
しかし、あのダンジョン調査の一件からは、むしろノアが思うように自由に生きて欲しいと思いはじめ、最近は迷うことなく自分たちができることは助けていこうと決めていた。
そんなある日、ロイに冒険者ギルドから連絡が入る。
「ノア、冒険者ギルドへ行こう。リックが話があるってさ」
「うん! わかった!」
そして冒険者ギルドについてすぐ、ギルドマスター執務室でソファに座って三人は話を始める。
「あれから、身体はどうよ? 俺は全身バッキバキだったぜ。歳には勝てないな」
「俺もだよ。無理したつもりはなかったが、ダメだな。ハハハ」
「幾つか話すことがあるんだが、まず前回のA級ダンジョン踏破に対するノアへの報酬だな。一般的には成果に合わせて王国から報酬を貰い、装備品やアイテムも貰うんだが……何か欲しいものがあるか?」
「う〜ん……報酬に関しては父さんとリックさんで分けてもらえたらそれでいいかな。父さんが家に使ってくれるだろうから僕もそれで十分」
「お前、本当に欲がねぇなぁ……」
呆れるリックだったが、ノアは全力で否定する。
「いやいや、欲しいものはあるよ。今考えていたんだけどね。あの時に見つかったロングソードと超級魔土<レアラ>が欲しい!」
「あぁ、あの剣か。レアラはなんとかなるかもな。剣は微妙かもしれねぇが、ちょっと王宮で掛け合ってみるわ」
「すまんな。リック。よろしく頼むよ。報酬は俺たち半々にしよう」
「あぁ? 半々なんて俺がもらいすぎだろ!」
「いいんだ。こうしてノアの件でも動いてもらっているしな。俺たち家族が助かっているから。受け取ってくれ」
「……わかったよ。有難く頂戴しておくわ」
リックはローテーブルの上の手紙をロイに渡す。
「王宮からだ。ロイとノアへの招待状だとよ」
「……やはり来たか。王女に見られたからなぁ。隠し通せないな」
「なんだ。ロイもわかっていたのか」
「おう、そりゃあれだけ下手な芝居打たれたら誰でもわかるだろ」
「はっはっはっ! その通りだな」
二人の会話の意図がわからず、ノアは話についていけない。
「あのな、ノア。王国がお前の存在に興味を持ち始めた。多分王宮にノアを連れて行って、ノアを王国の人間として雇いたいんじゃないかな」
ロイの言葉に怪訝そうな顔をして、ちぎれそうなくらい全力で首をふるノア。
「王国で働くなんて絶対に嫌だ。僕は父さんと母さんみたいに冒険者としてあのグランサンクチュアに行きたいんだ。不自由な王国騎士なんて嫌だよ」
「お前ならそういうと思ったよ。俺はノアに自由に生きて欲しいと思っている。だから俺もリリカも王国へノアを渡すことは大反対だ。まだ国王に何も言われていないから焦る必要もないし、何か言われても俺が守ってやるから安心しろ。」
ホッとした表情で笑顔を見せるノア。
「しかし、お前ら本当に変わってるよな。普通王都で生活できるだけでも庶民からしたらありえないくらい嬉しい話だぜ。それが王宮でって話になるってもはや王族になるってことだぞ。力もないのに偉そうにふんぞり返っているあのバカ貴族の上に立つんだから、俺なら一回なってみたいもんだがなぁ」
「僕はどうしても自分の目で見てみたいんだ! 父さんが僕を拾ってくれたあの妖精たちがいるグランサンクチュアの大地を。そして……」
「「そして?」」
「どうしても登ってみたいんだ! 天をも突き抜けるあの神の塔を!」
「「はぁ! グランサンクチュアのタワーを登るだと!!!」」
「それが……僕の夢なんだ……どうしても……どうしても自分の目で見て知りたいんだ! 僕が舞い降りてきたって父さんと母さんが言う、その『天空』には一体何があるのかを」
「「……」」
10歳の小さな子供が語った夢。
しかしそれはよくある「大きくなったら何かになる」という微笑ましい子供の夢とは全く異なる。今後も変わることはないであろう、たった10歳の子供がブレない信念を持って掲げた生きる目的のようにすら思え、ロイもリックも思わず言葉を失ってしまう。
「ノア……お前そんなことを考えていたんだな……いつからそんな風に?」
「……4歳かな。ヒューマニア王国からも見えるあの塔をぼんやり眺めながら」
「そうか……」
何かに納得した様子のロイ。
「う〜ん……なんだかよく話からねぇけど、お前ならやっちまいそうな気がするな」
リックが笑いながら言う。
「必ず叶えるさ。ノアは俺の自慢の息子だ!」
「まぁ、熱い親子の会話はその辺にしておいて、三日後の王宮での謁見については承諾でいいな?」
「もちろんだ!」




