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謎が解けなきゃ、被害者は私だ。  作者: 吉川緑
終章_市白の事件
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雪遊び

服部(はっとり)鳩山(はとやま)姉弟、ちゃんと山口さんの言うことを聞くんだぞ」


 片桐(かたぎり)先生と角貝(つのがい)はワンダーフォーゲルよろしく冬山歩きをするらしい。詳しい話は聞いてもよく分からなかったが、片桐先生の話を要約すると、


『世界でも珍しい花、月の欠片が群生しているから』


とのこと。わざわざ危険な冬山登山に興じることもなかろうに、と思うが、スキーリゾートができてからはその数が減っているようで、見られなくなる前に、という魂胆らしい。


 もっとも、それに付き合わされる猫のげんちゃんは寒いだろうなあ、と合掌するしかない。


「へーい」

「あぁ。十七時に下でな」


 間抜けな弟、二の声とどこか不満げな山口(やまぐち)警部補の声。服部はグローブを嵌めて少し大きくなった手を振っている。


 天気はよいと言え、季節は冬だ。照明がつくスキー場とその近くとて、陽が落ちたら暗い。さっさと滑ってさっさと屋内へ引っ込む。そうすれば危ない目に遭う確率も減るというもの。それに、『雀部 由恵(ささべ ゆえ)』も探さなくてはいけない。


「ほら、じんくん。上行こうよ、上」

「待て待て。えぇと……服部さんだったか? ここの上、けっこう上級コースだぞ。帰ってこれるのか?」

「んー、私と市白(いちきよ)姉さんは大丈夫だけど……」


 服部が少し考えこむようにじんのことを見て首を傾げる。どこか悪戯そうに笑い、芝居がかった仕草で掌をつく。


「まあ、いざとなったら転がしてでも降りますよ。ね、市白姉さん?」

「じんなら大丈夫だろ。石頭だし」


 市白はスノーボードを滑らせながら雪の具合を確かめるように、挨拶代わりにアンディを決める。くるりと横に一回転して、急停止。ぶわっと白い雪が削られて舞う。

 呆れたように山口はため息を吐く。


「だめだ、だめだ。ていうか、弟くんよ。この女どもにやられっぱなしでいいのか? 俺はだめだと思うぞ。たまにはガツンとやらにゃ」

「え、絶対やめた方がいいよ。特にひとみんは。マジで怖いから」

「ちょっとー。それはじんくんがふざけてばっかりだからでしょ!」


 そういって雪玉を投げつける服部。鳩山は慌てて走り出す。

 私が生暖かい視線で二人の様子を眺めていると、山口と目があった。大丈夫。そんな目をしなくても言いたいことはわかる。


(青春だねえ……)


 私は山口をそっとリフトへ促すとその隣に座った。


「あ、待ってー」

「ちょ、ちょっと姉ちゃんー!」

「二人とも、暴れて落ちるなよー」


 雑に後ろ手で手を振ると、私と山口は同じタイミングでため息を吐いた。



◇◆◇



「最上級コースは封鎖しているみたいですね」

「ちょうどいいだろ。君はずいぶんと上手そうだが、弟くんはきついと思うぞ」


 乗り継ぎのリフトには『運行停止中』の札が垂れ下がっていた。どうやら市白はやたらスノボに長けているようで、雪の上では身体が勝手に動いてしまう。


「しかし、客が全然いないですねえ」

「そりゃあ、ここはスキー場ってよりは山だし、温泉目当ての客が多いからな」


 確かに、下から見た時にも山の中腹辺りから煙が立ち上っていた気がする。

 ここのスキーコースは、そういった山の景色を眺めながらのんびり滑り降りるもの。柵がしっかり備えられているし、夏はハイキングコースとしてもいいだろう。


「どうせなら、夏に来たかったですねえ」

「同感だが、夏は日差しきついらしいぞ」


 年寄り臭い会話を山口としながらのんびり鳩山と服部を待つ。どんなものかとコースを見やる。傾斜自体は緩やかだが、時折道が狭い。目の前が崖になるので危険度自体は高いだろう。景色はいいが、落ちたら助からないと思える。


(ん? あれは?)


 崖際に立って写真を撮っている人物が目に入った。どこかで見たスキーウェアの気がして、記憶を手繰る。


(あれ、柴田(しばた)やん!)


 冬山コテージで会った姿とほぼ変わらない柴田がそこにいた。齢のせいか容貌もほとんど変わらないのでわかりやすい。しかし、同時に新たな疑問も浮かぶ。


(『雀部 由恵』と『柴田 洋(しばた よう)』がいる。これってもしかしたら……)


 連続殺人に至った『兎本 翔(うもと しょう)』彼の動機は雪崩で妹を失ったことだった。今日でなかったとしても、近々、雪崩が起こるのかもしれない。


(あ、もしかして『兎本 葉(うもと よう)』って、妹か?)


 妹だとするなら、雪崩で亡くなったはずの『兎本 葉』も近くにいるはずだ。

 リフトの近くにある小屋、係員用のそこにいる女性へ目を向ける。


(思った通りか)


 その顔は、謎の空間で会った顔と同じ。ネームプレートには『兎本 葉』と書かれている。日付から見ても、冬山コテージ事件からぎりぎり一年前と言えるくらいだった。年の瀬を挟んでいるので、人によっては三年前とも呼びそうな微妙な時期だ。


(鳩山市白がいつ死んだのかは詳しく知らない。でも……)


 『兎本 葉』と近い時期であることは確かだろう。いや、ここまで揃っているのなら、もう確信を持つべきか。


(『兎本 葉』と『鳩山 市白』は同じ日に亡くなった可能性が高い)


 となれば、『雪崩を防ぐ』これも優先して考えるべきだろう。

 もっとも、『鳩山 市白』が雪崩で死ぬという確証はないし、コテージ事件での鳩山、服部の様子を踏まえれば恐らくは違う死因だと憶測は成り立つ。


 しかし、『兎本 葉』が言っていた『試練』や『約束』、置物といった、私の立場に関する謎に繋がっている可能性がある。


 そうなると問題は『いつ、どこで起こるか』。滞在予定からすれば今日か明日であるのは恐らく、間違いない。では場所はどうか。


(この付近で何かが起こる?)


 『雪崩』それが自然の災害なら止めるのは難しい。しかし、意図して起こせるものであれば、話は変わってくる。博識な彼ならもしかして何かわかるかもしれない、隣の山口警部補に話を振ってみる。


「山口さん、雪崩って人工的に起こせるんですか?」

「ん? できなくはないよ。カナダとかスウェーデンでは、よくやってるし」


 いかにも雪深そうな国々だ。でも、もう少し身近な例を聞きたい。


「日本では?」

「んー。札幌あたりで実験してた気がするけど。あまり多くはないね」

「なるほど」


 考えすぎかもしれない。しかし、ここまであつらえたようにパーツが揃っているのだ。考えに入れない方がおかしいだろう。


(事件、事故、どちらの可能性も残っている、と)


 しかし、ここで雪崩事件が起こらなくなったら、『兎本 翔』の動機が消えて、コテージでの惨劇も起きないはず。そうなると、私の記憶にある『ゲーム』その最初のシナリオへ繋がらないことにもなるが。


(タイムパラドックス。いや、設定の不備とでもいうのか?)


 顎に手をやって考えていると山口が話しかけてくる。


「なに? どっかで雪崩起きそうなところあった?」

「いや、そうではないのですが……」


 同時進行でいくつもの謎とタスクがあるからややこしい。

 大本は『私がなぜゲームに召喚されたのか』で、そのためには『鳩山市白の記憶を集める』のと『これから起こる事件の犯人を特定し生き残る』ことをしなければならない。


 その上で一番有力な事件、それが『雪崩』。もちろん、説明することもできないし、したところで中二病の妄言としか思われないだろう。


「温泉とスキーなので、雪の管理はどうしているのかなあ、と」

「なるほどね」


 適当にはぐらかす。


「意外とそれ、難しいんだよ」


 そういって、山口が額に手をやってあたりを見渡す。そして、リフトの脇、椅子とテーブルが置かれているくらいの簡易なレストスペースへ立った。


「ほら、上の方とあそこ、見えるか?」


 私は後に続いて柵へ背を預ける。そのまま見上げると、『運行停止中』そのリフトに沿うように管が這って白い煙が上っている。


(温泉引湯管かな)


 振り返って柵に身体を預ける。写真を撮ることも想定されているのか、とても景観が良い。眼下には、森の間を縫うようにスキーコースが続いているのが見える。


「んー、どれでしょう?」

「スキーコースから少し外れたところにあるだろ」


 指差された方角へ目を細める。スキーコースが大きく曲がっていく反対側に小さな建物があった。滞在用には見えない無骨な建物で、白煙が上っている。


「温泉の汲み上げ施設か何かですか?」

「ご名答。つまり、あそこは間欠泉のそばってわけだ」


 よくよく見れば、森の合間でところどころ白い煙が見える。恐らく温泉引湯管だろう。山頂方面、建物、温泉ホテルは直線上に位置し、リフトのすぐ脇でもある。山頂とあの建物付近から汲み上げて給湯するのには、メンテナンスなども含めてちょうどいい位置なのだろう。


「雪国、特に温泉地で起こる事故には、ガス中毒もあるんだよ。雪の窪みやらに溜まっていて、不用意に近づくと……ってわけだ。そういうのを防ぐためにも雪の管理は重要だね。『雪崩』を起こすかはわからんが」

「なるほど」


 興味深い指摘だ。『雪崩』の他にも『ガス事故』にも気を付けておきたい。


(私はなんで死ぬんだろうな)


 無意識に、手すりから距離を取った。手を預けて崩れたら死ぬかもしれない。雪崩と思わせておいて、逆に警戒心が薄らいだところをつく、巧妙な罠かもしれない。『何か』ならそれくらいやってもおかしくない。開始三秒で死にかけた豪華客船での地雷事件を思い出しながら思う。


「えーっ! じんくん見えなかったの? 森由(もりよし)さんいたじゃん!」

「ひとみんが揺らすから、俺はそれどころじゃなかったよ……」


 静謐な空間だった白銀の地は、鳩山弟と服部がリフトから降りた途端に寄席演芸の舞台のように変わる。やかましい。


(あぁ、『森由 秋沙(もりよし あいさ)』もいるのね)


 『コテージ事件』の被害者コレクションはコンプリート間近だ。まだゲットしていないが、『目白 結衣(めじろ ゆい)』もどこかにいることだろう。


「山口さん。雪崩が起きて誰かが亡くなられたら、遺族の男性への手紙には注意してくださいね」

「……何の話だ。それは」

「いえ……。転ばぬ先の杖というやつです」


 不審そうな山口の視線は無視だ。

 それだけ呟いて市白はゆっくりと滑り出す。十中八九、どこかで雪崩が起きるだろう。それで『兎本 葉』が亡くなったら、兄が復讐の鬼に変わってしまう。


 焼け落ちたコテージと雪だるまに隠れたことを思い出して唇が歪んでしまう。


(雀部役は一番きつかった……)


 そんなことを考えながら、雪に隠された落とし穴や崖下に落ちないよう、慎重にボードを滑らせた。


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