寝起き
「・・・・・・なさい。・・・きなさい。」
春の木漏れ日が当たる先生からも見えにくい窓際の奥の席である。
このベストポジションで眠る今日この頃。この眠りを妨げる邪知暴虐は一体誰なのか?
「誰が邪智暴虐よ。さっさと起きなさい。もうお昼よ。」
「・・・後4時間。」
「何バカなこと言っているのよ!そんなに寝たら放課後になるじゃない。あの子達も待っているんだから。さっさと起きない!!」
うるさいな〜もうこうなったら、やるしかない。
「!いっったいわね。何するのよ!」
「ぐへ!」
溝内を狙った拳はパチンと音と共に片手で受け止められ、そのまま、黒板に投げつけられてしまった。
奇貨を投げ飛ばした張本人は新しく新調した制服を着こなし分厚い胸の前で腕組みしていた。
「もう痛いな。か弱い僕に何するんだよ。」
初見では女と見間違えてしまう身体と顔をした奇貨は見た目だけではなく、身体能力も鍛えているにも関わらず女の域にいる。
「何するはこっちのセリフよ。いきなり殺気を出したかと思えば、殴りかかってくるなんて、怪我したらどうするのよ。」
そう悪態つくのは奇貨の幼馴染で悪友の安藤 赫こと、赤ちゃんだった。
「え〜だって僕の眠りを邪魔する赤ちゃんが悪いんじゃないか?まぁ、お陰で目覚めたし、ご飯食べに行こうか。」
「はぁー。相変わらずのマイペースなんだから。アンタに振り回されるこっちの身になって欲しいわね。後、その赤ちゃんって言うあだ名やめてよ。赤ん坊みたいじゃない。」
「え〜僕としては赤ん坊の時から一緒な赤ちゃんの呼び方を変更するなんて考えられないよ〜」
「せめて外ではやめてよね。昔からその呼ばれ方の性でアタシの名前 赫なのに、赫だと思われてるのよ。」
「最近なんて家族にも赫って呼ばれたのよ!」と抗議する赤ちゃんに笑顔で「似合ってるよ。」と褒める奇貨にこれ以上粘っても無駄だと思った赤ちゃんはこの話を止めることにした。
「ふふ。そんなこと言っていつも付き合ってくれる赤ちゃんが僕は好きだよ。」笑顔で言うと。
「奇貨、それ他の子にやるんじゃないわよ。私じゃなきゃ勘違いするから。まぁもう手遅れの子もいるけど。」
「うん?分かったよ。ふふふ。ホント赤ちゃんが女の子だったら良かったのに。そしたら、本気で堕としにかかるのに。」
僕がこう言うと赤ちゃんは「自分が男で良かったと心の底から思ったよ。」と安堵しながら言った。
「酷いな〜そんなに嫌がること無いじゃないか。」
「アンタに堕とされた女の末路を生まれた時から見ているだよこっちは。その一号になっていた可能性があったこっちの身になって欲しいわね。」
「まぁいーや。赤ちゃんを堕とすのはまた考えるとして、お腹すいてきたしおしゃべりはここまでにして行こうか。」
「はいはい、今日は屋上で食べるそうよ。」
まだ手が痺れるのか、手をさすりながら言った。
「手、大丈夫?」
「誰の性だと思ってるのよ。奇貨の拳は骨にくるから痛いのよ。」
「ごめんね。でも、わざわざ殺気を出してあげたんだから。避ければ良かったのに。赤ちゃんなら楽勝でしょ。」
「アンタ、私が避けたら、後ろの子に当たるようにしてたでしょ。」
「バレてたか。」
奇貨は赤ちゃんが避けた場合を考え、後ろの子にも衝撃が行くように放っていた。赤ちゃんはその事が分かっていたため避けれる攻撃を受けていたのだ。勿論、奇貨は赤ちゃんがそうする事を分かっていた。
「アンタ、本当に性格悪いわね。そう言うとこ直した方が良いって昔から言っているのに、一向に直す気配どころか、昔より悪くなっているじゃない?」
「そうかな?自分じゃ良く分からないな?」
そうこう話していると二人は屋上に着いていた。
「ごめん、待った。良かった。今来た所なんだね。」
「いや、こっち何も言って無いんだけど。」
「何遅れて来たことを雑に誤魔化そうとしてるのよ。」
「あはは、でも本当にあまり待ってませんよ。お二人が来るのが遅くなるのは、美歌さんと咲夜さんが予想していたので。」
奇貨のボケに対して辛辣に返す女性が二人、それをフォローする女性の三人が待っていた。
「おやおや?誰かと思えば編入生ちゃんじゃない。君もいたんだね。」
「はい、お邪魔さしてもらってます。」
「うんうん。これから宜しくね。二人に拉致されて来たの?」
「三郷さんは、アタシが誘ったのよ。」
「赤ちゃんが誘ったんだ。珍しいね。」
「この学校は広いし、複雑だから。放課後案内しようと思ってね。後、アンタがやったことへお詫びも兼ねて誘ったのよ。」
「そうよ。てか何で一番最初に思い浮かぶのが私達が拉致って無理矢理連れて来たみたいに考えるのよ。」
「え〜だって、昨日ボコボコにされた人に会おうなんて思わないでしょう。」
奇貨は昨日、模擬戦で三郷に完勝しているのである。
服でうまく隠しているが、裾などから見える包帯からどれだけ奇貨に悲惨な敗北を味わらされたのか、一目瞭然である。よって、二人が三郷を無理矢理連れて来たと思う奇貨の考えは間違ってはいないのだ。
「いえ、あの戦いは同意の元でやった事ですから。恨みなどは一切ございません。それより、己の未熟さが良く分かりました。ありがとうございます。」
「ワーオ、殴って感謝されるなんてこの学校でも中々ないよ。君ってもしかして変態?」
「そうなっていた場合、アンタのせいよ。奇貨。」
「咲ちゃんも何でも噛んでも僕のせいにしないで欲しいな。僕が何したって言うのさ。」
「いや、したでしょ。そもそも奇貨の第一犠牲者が隣にいるのに、よくそんな事言えるわね。」
美歌が言った通り赤ちゃんは奇貨の犠牲者。別に何か怪我を負わしたとかではなく、昔奇貨の何気ないアドバイスに今の男なのに女言葉で話す安藤 赫こと、赤ちゃんが生まれたのである。
「そうね。アンタのアドバイスでアタシはこうなった訳だしね。」
「え〜赤ちゃんはその喋り方が似合っているのに、可愛いよ。」
「煽ってるんか。コラ!そもそもこの体格の、この話し方で、可愛いとか、テメェの方が変態だろうが!」
赤ちゃんは怒ると男に戻るのである。
「も〜そんなに怒らないでよ。冗談じゃないか。」
「あのー、そろそろ食べませんか。時間なくなりますよ。」
「それもそうね。こいつと話してたらいくら時間あってもキリが無いわ。」
「話しを振って来たのはそっちじゃないか。」




