番外編 再開は跳び蹴り
「おい、レグそれどうしたんだ…?」
「色々ありまして…」
私の頬には綺麗な紅葉が出来て、目にはのらくろのような丸いあざが出来ていた。
「なんかやらかしたんだろ」
「やらかしました。始まりはチュートリアル終了からなんだけど」
ゲームにログインしてチュートリアルの説明が終わるとキームンのギルドに向かった。観音開きの扉を開けるとそこには、見慣れた毒々しい色と柄のキノコがいた。久々のその姿に段々涙が出てくる。
「アリス~!」
こみ上げるものの赴くままに腕を広げアリスに駆け寄る。思い出すのは、無口ながらも感情豊かなその仕草。そして嫁に欲しいその気配りだ。
「久しぶり、帰ったよっ!へぶっ!??」
アリスを抱きしめる筈が非常に素晴らしいジャンプ力と姿勢で顔にアリスの蹴りが入る。まさか蹴りがくるなんて思わないから後ろに倒れる。
「あっ、アリス…?」
無口な同居人は、腕を組み足を不満げにタシタシと地面を蹴る。明らかに機嫌が悪い。どうしたものかと思っていると今度は、手で叩かれアリスはどこかに行ってしまった。
「あら~、レグ。久しぶり、どこに行っていたの?」
赤毛の美女で女医のローザさんが現れた。
「実家の方に戻ってまして…」
「アリスちゃんに一言もなく行ったでしょう?あなたのこと、ずぅっと待ってたのよ」
「あ~、そうか」
あの襲撃事件から突然いなくなった形になっているわけだ。あの地下で何がおこったのか知る人物は、ここには誰もいない。
「あたしからみればどさくさ紛れてダージリンの子と駆け落ちでもしたのかと思ったわ。それにうちのギルドで行方不明とかよくあるし」
「そういえばそうでしたね」
研究と趣味に生きる人たちが多いため定期連絡をしなかったり音信不通になったりする人が多い。中には研究対象に襲われてしまったり、現地に慣れすぎて永住する猛者もいる。
「そういえば私がここを出て何年でしたっけ」
「あれからでしょう?5年ね」
「5年かぁ」
5年間も寂しい思いをさせたのかと思うと申し訳なくなってくる。
「アリスに謝ってきます」
「そうして頂戴」
「それでキノコに会いに行ったんだろ?でもその手のあざは人間の手だよな?」
「そうだよ。ギルド内でアリスが行くところなんて限られるから探すのも楽だと思ったんだけど…よりによって男子禁止の女子の部屋にいっちゃったんだよ」
「ん?問題ないだろ」
チアキはとても不思議だという顔で私を見る。5年間あっちで会っているから忘れているようだ。
「チアキちゃん、こっちだと私男だぞ」
「あ」
「男の私が女子の部屋に入ったんだ。ひどいめにあったよ…。その女子の部屋ってさ男嫌いの大魔女が作った対男性のえげつない魔法トラップ仕掛けてあるし」
思い出しただけでも恐ろしい。服を溶かす食中植物からの大量の吸血ヒルを召喚する陣とか、魔法発動妨害の魔術からの次元のはざまに落とすトラップとか。だいたい二段構えでどっちがくらっても困る代物。
一番ひどいと思ったのはオークだ。たぶんオークを投入した理由はわかる。目には目を歯には歯をである。
「それでもまぁ、謝るために頑張ってたどり着いたよ。あっ、この目のあざはオークにパンチ食らった時のだから」
「そこにつながるのか…それでその手は?」
「アリスの他にも先客がいてねぇ。その人からだね」
たどり着いた先には、アリスとスーチョンとクリスがいた。扉を開けて顔を認識された瞬間にクリスからビンタをいただいた。
「事情を説明したら納得してくれたけどさ」
そんでアリスと話し合い仲直りした。やはり寂しかったのかホールに連れてくために抱き上げると頭を擦り付けて甘えてくる。
「よかったじゃないか」
「そこまではね。ホールに戻ったら顔見て笑われた。しかもあの部屋でこの程度で済んでるから勇者認定された。しかも後から確認したらステータスに変態勇者って称号ついた瞬間の虚しさ…」
「変態勇者!!そりゃいい」
美少女姿でゲラゲラ笑うのは止めて欲しいと言えないほど精神的にくる。
「でもまぁ、思ったより前と同じでよかったよ」
「そうだな」
色々変わったところがあるけれど人は変わらない。会いたかった人たちにも会った。
「楽しみだね」
「あぁ」




