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グランレコード  作者: 33
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33.モーゼ

しらみ潰しに部屋を探索し、3階の広い部屋に到達したところで最後のひとりであるサッサーが現れた。


「とうとうここまで来てしまいましたか。やはり擬似感情を入れたことによって、計算性能が下がっているようですね」


「ぶつくさよくわかんねぇこと言ってねぇで、縄につきやがれ!」


「却下します。あなたがたを敵対対象として迎撃します。いつでもかかってきていいんですよ?」


サッサーは、不敵な笑みを浮かべ逃げる様子もない。よほど勝つ自信があるということだろうか。よくわからないと思っていたところでチアキが進み出た。


「サッサーさんよぉ、なんか隠してないか。例えば元々俺達に勝つのが目的じゃなく、足止めが目的で勝つのは副産物とかな」


「足止めしてどうするのです」


「足止めっていったら、時間がたてば済む問題。例えば時間に関係ある攻撃方法か、ここから運び出したいものがあるか。なんだろうなぁ」


チアキは、美少女に似合わない人の悪いニタリとした笑みを浮かべた。サッサーも顔色を変えず笑っているので不気味である。


「左手の先にある食器棚が気になるか?俺がそっちに目を動かすと手が動いてるぞ」


「なんだと、そんなはずは…!」


サッサーの顔色が変わったので何かあると見ていいが確証がない。それで思いだしたのは、人工知能の限界だ。これは人間に近い思考をする上で重要なものだが、人工知能は持っていると聞いたことがない。


「食器棚に何かある。"はい"か"いいえ"か。答えない場合"はい"と認識するよ」


「………」


私の質問にサッサーが黙りこむ。どうやらこの方法は有効だったらしい。

人工知能は、嘘をつくことができない。濁した発言はできるだろうが今の質問は、はいかいいえのみなので当てはまらない。嘘をつくというのは、複雑な条件と判断が必要なので簡単そうで難しいのだ。


「ふむ、考えましたね。ならばあなたたちは進みなさい。ここは、僕達が引き受けます」


「私もサッサーの実力を知っているがそう簡単に通せる相手ではないぞ」


黒蟻(ブラックアンツ)だろう?めんどくせぇ」


なんだそれはと思ったときだった。突然サッサーが二人に別れた。


「はぁ?」


驚いているうちに次々と増えて広かった部屋は、黒服のサッサーだらけになった。


「「「この人数の間を通りクローゼットに行けるなら行ってごらんなさい」」」


全てのサッサーが同じこと言い出し、短剣をとりだし構えた。


「ようするにコイツら倒せばいいんだろ!」


「難しいことは後だ!」


ウバの奴らがサッサー軍団に向かっていった。そして手強いと言われたのにも関わらず意外にも善戦している。最終的には、個人の戦闘力も必要だがそれ以上に数がものをいうことを表しているようだった。


「俺も混ぜろ!」


ディンブラがハルバードを横凪ぎにして3人のサッサーを真っ二つにした。見た目がかなりエグいことになっている。


「ならば私も行くとしよう。水剣(アクアブレード)


ニルギリが呪文を唱えると何も変わった様子がない。だがそれは大きな間違いで、剣は血を纏うことなく切り口も落ちる様子がない。


「どうなってんのあれ?」


「剣に対して水の膜を張ったのですよ。さらにその水を高速で動かすことにより水の刃を作り追加効果で剣は血に汚れることがない」


「へー、そうなんだ。ところでマスターは何してるの?」


てっきり得意の魔法を使うのかと思ったがその様子がない。


「何も考えず突撃していったお馬鹿さん達がいるので準備していた範囲魔法の条件が複雑になってしまったのですよ」


「あっ、はい」


ギルマスは笑みを浮かべてるけど怒りのオーラが滲みでてるよ…。確かに味方ごと攻撃するわけにもいかないだろうし。


「その程度の妨害で時間を要する頭脳はしていません。樹波(ウッドウェーブ)


床から樹が生えて戦う全員を押しのけてギルマスからクローゼットまで樹の道が出来た。まるで海を真っ二つにしたという伝説のモーゼのようだった。


「いまのうちにいけばいい。僕の第六感(シックスセンス)が君たちを先に行かせろというんだ。心おきなくいきたまへ」


「はい!」


樹の道を走ると行かせまいとしているのか樹を壊す音が聞こえて走った。たどり着いたのはいいがどういう仕掛けかわからない。とりあえず定石としてクローゼットの中にあることがあるので開けてみた。クローゼットの中は、服が入っていたが奥から冷たい空気が来ているのがわかる。間違いなくこの先に道がある。


「このまま突っ込め!」


「応!」


チアキが飛び込んだのを確認すると私はクローゼットの扉を閉めた。

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