31.毒マニアの友
玄関の扉は、鍵がしまっておらず楽々とヨルゲン伯爵の屋敷に入った。
ヨルゲン伯爵邸は、まさに豪邸という作りで玄関ホールの階段の先には人物画が飾ってある。たぶんヨルゲン伯爵なのだろうが顔と胸元がはズタズタに引き裂かれどんな顔をしているのかわからなかった。
「なぁんかここ妙だな…?」
「確かに妙ですな」
ディンブラとニルギリがそろって言い出す。何が妙なのかさっぱりわからない。名詞をいいなさい。
「私が目を通した資料ではこの屋敷に人が入ったのは230年前の筈だ。それなのに建物の痛みが少なすぎる」
230年とは、凄まじい年月である。五重塔とか法隆寺など長い年月建ち続けているがそれは管理しこまめに修理するからである。そうでなければとっくの昔に壊れるはずなのだ。
「他にもあるぜ。ここには4人も逃げ込んでるはずだが荒らされた形跡がほとんどない。埃も一ヶ所以外積もったまんまだ」
ディンブラの言うとおり玄関ホールから真っ直ぐ埃が乱れた形跡がある。確かに誰かが通った形跡といえるだろう。
「あいつらがこの建物をよく知っているか、埃の所が罠かってところだろ」
「僕の魔法だとなにか仕掛けがあるのはわかりますが魔法系統以外は、どんな風に発揮されるかわかりませんね」
「マスター、ついでに聞きますがその魔法系の罠ってどういうものですか?」
「床から風が吹くとか、天井から水が降る、地面が硬化するなど。それの大体が子ども嫌がらせ程度の威力しかでないはずですから防犯には訳にたたないはずなんですがねぇ」
罠の内容を聞いて思いあたる節があるがどうしたものか。もし予想が当たっているなら、ヨルゲン伯爵は相当スキモノの変態である。たぶんメイドでも罠にかけていたかもしれない。
「やぁ、みなはんお揃いでんな」
ヨルゲン伯爵の自画像前には、灰猫ことオブザーバー2がいる。その立ち位置からしてまるきり悪役ですね。
「わいオブザーバーの中で一番したっぱなんやねん。みなさんには足止めくろーて貰いますけん」
「ふん、貴様のようなもの。我が魔力で…」
いかにも傲慢な態度をみせるダージリンの一人が進み出る。よほど魔法に自信があるらしい。
「遅いでおっさん」
自画像前にいたはずの灰猫がダージリンの男の首を切っていた。詠唱を終える前に切られたのか男の口が開かれたまま崩れ落ちた。灰猫が離れたのでローザさんが駆け寄り治療を始める。
「呆気ないでおっさん。次かかってくる奴おらへんか」
灰猫が余裕綽々に一同を見る。私を含め目の前で理不尽に狩る姿に足がすくんでいた。だが例外というものはどこにでもいるのだ。
「まろが相手致すでおじゃる。だからみんな先に行くでおじゃるよ」
「トリカブト!」
いつもの何を考えているかわからない糸目で灰猫を見つめる。そこに人のことおかまいなしの毒マニアとは思えない覚悟が窺える。
「ならあたしも残るわ」
「クリス!」
「トリカブトを一人に出来ないのよ。あたしたちに構わず進みなさい」
クリスは、空間からキメラを出して臨戦体制に入った。
「みなさん、ここは彼らに任せて次に進みましょう」
「そんな!残って戦うべき…」
「彼らの戦い方は、大勢いる状態では奮いにくいことを知っているでしょう」
トリカブトは、毒を使った攻撃だから万一毒が味方に当たれば味方が毒に侵される。クリスにしてもさまざまなキメラを使うためそこそこ広い場所が必要だった。
「絶対死ぬな!」
トリカブト達が灰猫を引き受けているうちに階段を駆け昇る途中でそういった。フラグがたちそうな発言だが一番言いたいことがコレなのだ。
「もちろんでおじゃる!初めての友との約束でおじゃるからな」
無事を信じながら私は、建物の奥へと駆け出していった。




