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ポナの季節  作者: 大橋むつお
18/92

18『昨日のポナは最悪だった』


ポナの季節・18

『昨日のポナは最悪だった』        



 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名





 昨日のポナは記事にも話にもならないほどミゼラブルだった。


 最初はドラマチックで楽しげな朝の始まりだった。

 いつものように、ポチを連れ薮医院の前を通って大川の河川敷にボール遊びにいくところだった。


 そこにみなみのメールが入った。


――寺沢先生って、ポナの兄貴じゃん! 話ししたら遊びにきていいって。今からいく!――

――え、ほんと!?――


 チイニイが乃木坂の講師になったことは知っている。それが、こともあろうにみなみのクラスを持っている。で、お気楽みなみは、チイニイとお友だちみたくなって、これからうちに来るというのだ。


――あたし、大川にポチ連れてお散歩だよ――

――じゃ、ちょっと調整する――


 みなみは積極的な子だ、授業うけてピンときて、話をしたら親友の兄貴だということが分かり、チイニイも調子いいから、昔の感覚で「遊びに来いよ」になったんだろう。でも、みなみはバランス感覚もいいから、ポナと一緒じゃないと、ちょっと薄情な気がしたんだろう。


「なんだポナ、日曜もポチのしごきか?」

 医者の不養生のいいわけに、藪先生がウォーキングしているところに出くわした。

「ポチの健康維持にはちょうどいいんです。明日から平常通りの学校だし、今日が最後なんです」


 最後と言って、ポナは自分でもドキンとした。


 犬は暑さに弱いので、夏休みは老犬ポチには無理だ。冬休みもダメだろう。でも普段の休みならやってこられる。でも、きちんと時間を決めて散歩できるのは今日限り、それを端折って「最後」と言ってしまった。

 天気予報でも、そろそろ梅雨とか真夏日とか言い始めてる。だから無意識に……そこまで理由を考えて、ポナは思考を停止した。あまり暗いことは考えたくなかったし、ちょうど大川の土手に着いたところだったし。

「さあ、ポチいくよ!」

 土手の上から河川敷に投げると、ポチは十六歳とは思えない素早さでボールを追いかけ、ポナが河川敷に着いたころには、ボールを咥えてもどってきた。

「調子いいじゃん、ようし、今日は二十回目標でやってみよう!」


 ポナの周囲は、この十年で少しずつ変わっていった。


 四人もいた兄姉が、大ニイの防大受験から始まり、チイニイと大ネエが家を出て、去年の春からはチイネエも大学進学といっしょに家を出た。家にいるのは両親とポチだけである。立場はもうミソッカスじゃないけど、ポナはどこか寂しい。ミソッカスもやだったけど、ミソッカスでなくなることも寂しく。チイネエが家を出るころに、辞書を引いてPerson Of No Account という言葉を知った。頭文字をとればPONA=ポナだ。字がポチに似ているのも気に入った。SNSのハンドルネームに使ったのが最初で、三月も自分で使っていると、周囲もポナと呼ぶようになった。


「ようし、これで最後。いくぞポチ!」


 力が入りすぎ、河川敷のコンクリートで大きくバウンドして、ボールは川に落ちてしまった。

「ポチ、いいよ!」

 と叫んだ時には、ポチは川に飛び込んでいた。川の流れは意外に速く、二呼吸するほどの間に岸からかなり離れた。


 ポチが溺れた。


「ポチ!」


 叫ぶと同時にポナは、大川に飛び込んだ。

 岸を蹴った時に右足に違和感があった。ポチの傍まで泳ぐと、脚がつって泳げなくなってしまった。痛さのために声も出なかった。

 ポチは、力を振り絞って岸に向かって吠えた。犬語ではあるが救助を求めていることは、誰にでも分かった。


 そして……気が付いたのは救急車の中だった。


 救急隊員の他に、チイニイとみなみがいっしょだった。チイニイがびしょ濡れなところを見ると、どうやら助けてくれたのはチイニイのようだ。ポチも毛布にくるまれてみなみが抱っこしてくれている。


――ああ、助かった……――


 そう思うと再びポナは意識を失った。






※ ポナの家族構成と主な知り合い



父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補


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