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朕は猫である  作者: 名前はまだない
63/70

#61

今年の更新は最後です、と言ったな。


あれは嘘だっ!!!!

(来年も拙著をよろしくお願い致します)

 翌朝、肌を刺すような凛冽な空気に白い息を吐きながら目を覚ますと、起床のラッパが鳴り響いたのはほとんど同時でした。

 まるで静謐な霊廟のように静かだった幕舎の内部が一気に活気付きました。

 寝台から起き出して毛布を畳み、配給所に朝食を取りに行きます。

 朝食も昨晩と全く同じオートミールが拳一つ分だけ。やはり国軍の補給状況は宜しく無いようです。

 食事が終われば全員が幕舎の前で「休め」の姿勢で待機します。ヌシの話だと今までは毎日小隊長だという少尉がやってきては、「一日待機」を言い渡して去って行くだけだったそうです。


 寒空の下、その少尉殿とやらが来るのを待ちます。待っている間、またヌシたちが昨日使ったベッドウォーマーを差し出してきます。

 私は多少寒くても周囲の空気を圧縮したりして暖を取れますが、彼女たちはそうでは無いからこんな陽の光も差さない曇天の空の下、ただ立っているだけでも辛いでしょう。

 全員のベッドウォーマーを温めてやると、彼女らはそれを毛布に包んで服の下のお腹の辺りに入れたものだから、全員妊婦みたいな格好になってしまいました。

 

 ちょうどそこに髭も生えていないような若い少尉殿がやってきて、腹を膨らませた後備役の女兵士たちを見てギョッとした顔をしました。

 まぁ、それはそうでしょう。後備役とはいえ、妊娠したら戦闘には耐えられませんし、それに後備役に入るぐらいですから、全員それなりの歳です。そんな女たちが大きなお腹を抱えていたらそれは驚くでしょう。


 慌ててヌシが腹からベッドウォーマーを取り出して少尉殿に説明すると、少尉殿はほっと胸を撫で下ろすと同時にヌシに喰って掛かろうとしますが、ヌシが発した「あ゛?」と言う一言で押し黙ってしまいました。

 少尉殿がそれなりに経験を積んだ(怖い思いをして学んだ)人で助かりました。最先任の下士官に目をつけられると少尉くらいなら戦場に出てなくても簡単に戦死(KIA)してしまいますからね。


 少尉殿は少したじろいだ後、咳払い一つで気を取り直して私たちに向き直りました。



 「総員に達する。本日は一日待機。以上!解散!」



 たったそれだけを伝える為に来たのか、と思うと少尉殿も少し可哀想な気がして来ました。

 ヌシたちもため息をついて三々五々と幕舎の中へと帰っていきます。

 私もヌシたちに続こうとした時、



 「ウネルマ・タラジドブネは居るか!?」



 少尉殿が私の名を呼びます。

 なんでしょうか?

 少尉殿に向き直って敬礼、自分がそうである旨を申告すると、少尉殿が答礼して



 「……官姓名を申し給え!」



 私の襟元の、少尉殿よりも明らかに豪華そうに見える見たこともない階級章を見てそんな事を言います。

 でしょうね。



 「昨日着任いたしました、ウネルマ・タラジドブネ大尉相当官です、少尉殿」



 『大尉』と聞いて一瞬身構えた少尉殿は、続く『相当官』と言う聞いたこともない言葉に、何だそれは?とハテナ顔になりました。

 そんな顔されても、作ったのは私ではないのでクレームは司令部に入れてもらえると助かります。



 「大尉とは違うのか……ですか?」



 恐る恐るといった感じで、私の顔を覗き込むようにして少尉殿が尋ねます。

 その辺も良くわからないのですけれどね。



 「とりあえずは、軍制上の『大尉』では無いようですよ。ですからお気になさらず、普段通りでどうぞ」



 解らないものは仕方がないので、私もはにかんで誤魔化します。

 すると、少尉も普段通りに戻ろうとしますが、一度伸ばしてしまった背筋はなかなか戻らないようで、



 「了解いたしました。では大尉相当官……殿はこちらに来てください」



 敬語が中途半端に混じった変な言葉で私についてくる様に言いました。

 ヌシたちが心配そうにこちらを見るのに、ちょと肩をすくめて心配要らない事を示します。



 「毛布、貰っといてやるからな!」



 そう言ったヌシの親切心に手を挙げて感謝を示して、私は少尉殿についていきました。











 頬が痛くなるような空気がブルブルと震えるのを感じて、私、ルクレツィア・セルニルトンは慌てて耳を塞いだわ。

 お腹を嫌な感じに震わせるその雄叫びが止むのを、目をギュッと閉じて待ったの。


 なんでこの子は、いつも、いつも、私の言うことを聞いてくれないの!


 そんな思いが沸々と込み上げてきて、憎たらしい私の使い魔を睨もうとしたのだけれど、真紅の鉄よりも硬い鱗を纏った大人のヒトよりも数倍は大きなその巨体を起こして、私なんか一口で食べてしまえるような大きな口を開けて私を威嚇する使い魔のヘルカイト(プルプル)の恐ろしい形相を目の当たりにして、悔しいけれど私は思わず尻餅をついてしまったの。


 まるで、そんな私を馬鹿にするように見下ろしたプルプルは、明らかに私を侮っていたわ。

 思い知ったか雑魚。俺に命令するな。

 まるでそんな言葉を浴びせられている様で、私は悔しくて、悔しくて、歯を食いしばったわ。



 「セルニルトン少尉!何をやっている!貴様の使い魔だろうが!大人しくさせろ!」



 そんな私に、プルプルにも負けないほどの罵声を浴びせるのはギュスターヴ中尉。

 近衛大隊の私の上官。



 「貴様、それでも誉貴きテルミナトル帝国近衛師団のつもりか!?碩術師たるもの自分の使い魔くらい(ぎょ)せんのか、この無能が!貴様の様な無能が近衛に居るからラサントスに良いようにやられておるのだ!この無能!屑!貴族の面汚し!」



 目の前で駄々を捏ねる子供のように吠えるプルプルと、私の背後から20ショークは離れた土嚢の裏でそんな言葉を怒鳴り散らす中尉。



 「何故この私が貴様の様な無能の世話をせねばならんのだ!司令部は何を考えている!」



 好き勝手にわめき散らす大尉の罵声に、プルプルが威嚇するように咆哮を上げて、手近にあった土嚢の山に力任せにその太い尻尾を叩きつけたの。

 土嚢の山はまるで紙吹雪みたいに舞い散りながら、中尉が隠れていた土嚢の壁の辺りにバラバラと降り注いだわ。


 悲鳴を挙げて土嚢の壁の裏に隠れる中尉。

 慌てふためいてみっともなく四つん這いで壁の影に滑り込んだその滑稽な姿を見て、ちょっとスッとすると共に、このあと待ち構える罵詈雑言の濁流を想像して改めて血の気が引いたわ。


 そもそも、プルプルがキチンと私の言う事を聞いて、ギュスターヴ中尉の言う通りに空を飛んでくれれば、私がギュスターヴ中尉に叱られる事も無かった筈なのに。

 それ以前に、なんで私が戦争なんかしなくちゃいけないの。こんな寒くてご飯も美味しくなくて、臭くて泥だらけで汚い所に居なきゃいけないの。


 卒業の儀(ケラヴゼナ)で、プルプル(この子)を召喚して、お父さんもお母さんも両手を上げて喜んでくれて、お祖父さんもお祖母さんも、親戚のみんなも私を凄い碩術師になるって褒めてくれて、あのいけ好かない従姉妹のナタリアの悔しそうな顔ったら。


 凄い豪奢な制服を着た近衛軍の士官が家を訪ねてきて、私を近衛軍に招聘したい、なんて言い出したものだから、みんな大喜びで盛大なお祝いまでしてくれて、私を送り出してくれたわ。

 私を送り出す壮行会の席でのお母様の鼻高々な様子ときたら。今思い出しても笑ってしまうわ。


 でも、調子が良かったのはそこまで。

 私は近衛軍に入るにはまだ歳が足りなかったから、帝立碩術高等学校に入ったのだけれど、プルプルが私の言うことを聞いてくれなくて何度も叱られたわ。


 しかもすぐに戦争が始まってしまって、お父様が出征して、今度は私が特例で近衛軍に入隊させられたの。

 それは誇らしい事だったけれど、やっぱりプルプルは言うことを聞いてくれなくて、近衛軍に入ってからは高等学校にいた頃よりも増して、毎日叱られるようになった。


 毎日毎日、無能無能と罵詈雑言を吐きかけられて、悔しくて悲しくて。

 でもお母様に帰りたいって手紙を出せば、お母様からは「何てことを言うのかこの親不孝者」とお小言の手紙が帰ってきたわ。


 何もかもが、理不尽で、不親切で、意地悪で、悪意に満ちている、そんな現実に、思わず嗚咽が漏れてしまって、頬を熱いものが流れ始めた、そんな時だったわ。



 「随分とご機嫌斜めね」



 怒り狂うプルプルにゆっくりと近づく人影があったの。











 寝泊まりしている幕舎からは半刻ほどは歩いたでしょうか?

 私、ウネルマ・タラジドブネは今朝方幕舎に朝礼にやってきた少尉殿に連れられて、随分と前線へとやって来ていました。

 最前線ではありませんでしたが、そのすぐ後方、砲兵段列や増援用の予備隊が配置された支援線のすぐ後ろにまで連れてこられておりました。



 「大尉相当官殿には碩術化大隊司令部で小姓役を務めて頂きたく、お連れいたしました次第です」



 すっかり敬語になってしまったまま戻ってこなくなってしまった少尉殿は、私の三歩前を歩きながら、私が呼ばれた理由を教えてくれました。

 小姓とは、要は雑用係です。高級将校に個人的に付く事もままありますが、大抵は司令部要員として参謀部付きで雑用をこなす役割としてあてがわれる役割です。

 少尉や曹長クラスが就くことが多い役職であり、新人の少尉の中で将来有望な者、要は家柄の良い少尉が経験を積む役職でもありました。


 そんな貴族師弟の出世コースみたいな役職に何故私が充てがわれたのかはわかりません。ヒトが足りないのでしょうか?

 一応、士官経験者であり、碩術も使える平民と考えれば、軍隊のアレコレを解っている人材の中でも平民だから誰でも顎で使える、と確かにちょうど良いのかもしれません。


 少尉に連れられて私が出頭した大隊司令部で、大隊参謀を務める本物の大尉(・・)殿に挨拶をすると、待ってましたとばかりに今度は別の小姓役の曹長に連れられて、軍馬などの厩舎が並ぶ区画へと連れていかれます。



 「大尉相当官殿には近衞師団の方々の使い魔の世話をして頂くんですが……まぁ、ちょいと気をつけてください」



 私と同じくらいの曹長は、道中私が仰せつかる仕事を簡単に説明してくれました。



 「餌やりとかブラッシングとか細々した世話は専門の奴らが居ますんで、そいつらに任してもらえりゃ良いんですが、何分どれも高貴な方々の使い魔なんで、何かと扱いを間違うと文字通り首が飛んじまう上に、どいつもこいつも気性の荒い奴らと来てましてなぁ」



 曹長は気の毒そうに私を見やりながら話を続けます。



 「(なだ)めてちゃんと使えるようにしておくのが大尉相当官殿のお仕事になりますが、まぁ多分相当ご苦労なさるでしょう」



 曹長は気の毒そうにそう言いますが、私にとってはもしかしたら適任かもしれません。

 私はアニマルコミュニケーターですから、使い魔とも意思疎通ができます。



 「特に、大尉相当官殿にご担当いただくのは、別に脅すわけじゃぁないんですが、何を隠そうヘルカイトでして。それも主人がまだ十二の子供だもんだからなかなか御しきれなくて、担当する奴、担当する奴、相当ひどい目見てましてね。前任者だってあのバカでっかい尻尾で猫がネズミを甚振(いたぶ)るみたいにペシーンとやられて、そのままカーリスバーグの病院送りですわ。多分、戦争が終わるまでには帰ってこれんでしょう……いや、それ以前にもと通り働けるどうかさえ……戦争が終わったら、おっかさんにうまいもん一杯食わせて孝行するんだって言ってたのに……勇敢に敵と戦ったんならまだしも、味方のお貴族様の使い魔にやられたなんて……あんまりだ……」



 前任者とはそれなりに親しかったのでしょうか?曹長は目頭を抑えながらそんな事を(のたま)います。

 すると、前方からザワザワと何かが囁くような波を感じました。



 『狭い、痛い、外して』

 『寒い、寂しい、遊んで』

 『お腹すいた』



 見れば、様々な使い魔が入れられた厩舎が立ち並ぶ一角でした。

 ガウガウと吠える狼や、仕切りにカゴを羽で叩く鷹、それに鼻息を荒くしたユニコーンまで居ます。

 それらに見入っていると、曹長が私を急かします。


 「そろそろ着きます。この先……うわ、最悪だ」



 曹長の声にそちらを見やれば、そこには陽光を反射して紅く輝く鱗を纏った見事なヘルカイトが今まさに腹を揺さぶる咆哮を上げる所でした。



 「耳塞いでくだせぇ!」



 ガオーとも、グオーとも違う唯々腹の座りが悪くなり、背筋を震わせる咆哮が辺りに響きました。



 『寒い!こんな寒いのに飛べるわけがない!!!』



 その咆哮は、確かにそう叫んでいました。



 「あぁ、変温動物だもの、この気候は確かに辛いかもしれないわねぇ」



 その姿を見て、声を聞いて、私がポツリと呟いたのを曹長が不思議そうな顔で見ていました。



 「あの子の世話をすれば良いのよね?」



 私の質問に曹長は恐る恐る「へえ」と頷きました。


 では早速仕事を始めましょう。

 と、ヘルカイトに向き直った途端、目の前を一抱えもある土嚢が飛んでいきました。

 見れば、土嚢の裏に隠れた将校服に身を包んだ士官が頭を抱えて悲鳴をあげています。

 あんまりゆっくりしていると、あのヘルカイトの主人が罰を受けてしまうかもしれません。

 猛るヘルカイトの足元で今にも泣き出しそうな、ライラと同じくらいの女の子を見やります。


 そう言えば、ライラと同じ卒業の儀(ケラヴゼナ)でヘルカイトを喚んだって言う子が居たわね、などと記憶を掘り起こしながら、両手を広げて敵意がないことを示してゆっくりとヘルカイトへと近づきました。



 「随分とご機嫌斜めね」



 私の言葉に、ヘルカイトが私を振り向きました。



 「寒がりのドラゴンさん。寒いのなら、温めてあげましょうか?」



 オドを練りながら、ゆっくりとヘルカイトの周りの空気を励起しながら圧縮します。

 すると、身震いするようにしながら、ヘルカイトが心地よさそうに頭を下げました。

 その鼻先を優しく撫でてやりながら、その横で瞳に涙を溜めながら驚愕に見開く少女に微笑みかけます。



 「私はウネルマ。このヘルカイト()のお世話係を仰せつかったのだけれど、貴女のお名前を教えてくださる?」



 優しく、そう語りかけたつもりだったのだけれど、その少女はクシャリ、と顔を歪ませると、堰を切ったように泣き出してしまいました。

 あらやだ。どうしましょう。


あれ?ウネルマ先生の設定ちがくね?

と思ったそこの貴方。

賢い奴は嫌いだよ。

(設定変えましたすみません)

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先生がまた徳を積んでらっしゃる… 鉄拳女神より女神してるぞこれ… 更新良き良き 来年もよろしくです
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