#62
ご無沙汰をしております。
新年明けましておめでとうございます。(遅
寒中見舞いよりも遅くなってしまいまして申し訳ございません。
本年も拙著をよろしくお願い致します。
※毎度、誤字脱字報告ありがとうございます。
その日は朝から夜だった。
まさかそんなお伽噺のような朝が来るとは、朕は夢にも思ってはおらなんだ。
変な飛びトカゲに追いかけられてから数日後。
例のオフェーリアが詰める修道院に医薬品を補充しに行き、シュヴェップ村に食料を届け、帰りに塹壕の航空写真を撮影し、その写真を新聞に載せるべく秘密基地で待機していたアリアドネに写真を手渡し、アリアドネがその写真を持って何処かへと出かけるのを見送り、ライラと共にヘーリヴィーネの作ってくれた温かいシチューを食べ、疲れたのかライラが事切れたように眠りに落ちたのをヘーリヴィーネがそっと釣寝床に運ぶのを見送って、朕も暖炉の前に置かれた小さなオットマンの上で丸くなった。
そして目を覚ましてみたら、何やら辺りが薄暗い。
冬は朝日が登るのが遅いから、最初は存外目が覚めるのが早かっただけかと思ったのだが、どうやら違う。
時計など無いから、普段は朝日が雨戸の隙間から差し込むので目を覚まし、雨戸を開けて外を確認しておおよその時刻を確認する。
井戸に水を汲みに行かねばならぬしな。
しかし今朝は雨戸を開けてみても、辺りは真暗と言う訳でもなく、陽が差しているわけでもないのに、妙に薄暗い。
なんだこれは?と、空を見上げて見れば、ソレはさも当然のように音も無くそこに在った。
「星征艦隊の艦なのは間違いありませんが、見たことの無い艦ですわ」
いつの間にか起きてきたのか、それとも朕が起きるのを待っていたのか、窓枠に乗った朕の隣にやって来たヘーリヴィーネが雨戸から空を見上げながらそう零した。
その艦は、まるで凪いだ穏やかな海原に浮いているかの如く、静かに宙に浮いていた。
無言で朕たちを見上げるように船底を空へと向けて、巨大で特徴的な連装砲塔を3つも載せた長大な甲板を地上に居る朕たちに向けて、逆さになったその船体で朝日の光を遮り、朕たちの秘密基地を丸ごとその巨大な影の内に覆い隠していた。
「……随分奇抜な艦だな」
その艦を見上げながら、朕がそんな感想を漏らすと、ヘーリヴィーネも頷いた。
「えぇ、まるで海に浮かぶ戦艦みたいですわ」
その姿は、地上世界における海に浮かぶ砲弾を敵艦に直接ぶち当てる事のみを追求した艦船郡の形に良く似ていた。
将に戦艦の名を表すが如き長大な鋼鉄の砲身を備えた巨大な主砲塔を、艦首と思われる槍の穂先のような形の船体前部に3基、計6門を備え、地上世界の戦艦とは違い、それほど背の高くない艦橋構造物が砲塔群の後ろに控えめに聳えている。まるで潜水艦の艦橋構造物の様である。
まぁ、海に浮かぶ戦艦と違って、星征艦隊の船は当然各種の探査装置を装備しておろうから、測距のために高い艦橋が必要なわけではない、と言う事だろう。
星征艦隊所属の艦となれば、それは間違いなく大気圏外、つまりは宇宙環境を想定した戦闘艦である。
その外観は大抵が同じような形になることが多い。
それは、同じ環境に住む昆虫が大体同じような形状に進化するのと同じ様に、過酷な宇宙空間で想定された戦術目標を達成することに最適化した形状を追求すると、自ずと外観の形状は大体同じような形になるのである。
朕が星征艦隊を創った時、初期の艦艇の形状はおおよそ細長い直方体であった。
これは敵に対する正面投影面積――正対した時に相手から見える面の合計面積の事である――を最小化して被弾面積を出来るだけ最小化しつつ、質量兵器を効率的に配置するためには直方体の形状が都合が良かったからだ。
大体は前半分に主兵装、後半分に推進機関を搭載するのが王道の配置であった。
この配置で敵に主兵装を向け続ければ、敵からの攻撃は主兵装部分にしか当たらない為、推進機関に被弾して推力を喪失し、回避行動すら取れずに袋叩きにされる様な事態に陥る確率が低くなる上、被弾損傷したとしても一気に主兵装全てを喪失するわけではないから、直方体形状は継戦能力の向上も見込む事が出来た。
当時まだ数が少なかった星征艦隊の生存性を上げるための設計であった。推進機関を損傷すると主兵装を動かすための動力すら喪失する危険性があるからな。
星征艦隊はその後、自身で思考して艦艇の刷新と最適化を続けておろうから、現在建造されている艦艇の形状が大きく変化していても朕は驚きはしない。
姦し娘ズなどはその最たるものである。一見するとお腹の大きなペリカンみたいな形をしているが、あれは大気圏に単独で突入し、その後も大気圏中で飛行を続けながら艦載機をばら撒いて地上制圧を行うために最適化された形の様である。
だが、今上空に逆さになっている艦の形状は、明らかに海に浮かぶための形状をしている様に見える。
ここからでは船底部分がどのような形状をしているのかは窺い知れないが、少なくとも甲板上面に主兵装を配置する設計は、明らかに宇宙空間での戦闘では不利である様に朕には思えた。
なぜならあの砲塔配置では、船底方向に対して砲を向ける事が出来ないからな。火線的な死角ができてしまう様に見えるのだ。
「へーリヴィーネ様、と……うんこ猫、お客さんなのです」
掛けられた言葉に朕が振り向いてみれば、そこにはぷっくりと頬を膨らませてブウたれた様な顔をしたスピカが立っていた。
「……どうした?」
客、とのことであったが、そんな事より1号の様子である。見たところ、外の艦艇は1号の同型艦というわけではなさそうであるから、クラスリーダーを狙うライバルという訳でもなさそうなのであるが、そうであれば同じ星征艦隊同士、1号が星征艦隊の来訪を忌避する理由もない。もう少し仲が良さそうにしても良さそうなはずである。
「……あいつ、突然やってきたのです。本艦たちはライラ様を守るため、全兵装をロックして一定以上接近しないよう警告したのです。でも演算力が違いすぎて簡単にマインドスフィアを制圧されてしまったのです。今、本艦のほとんどの機能はロックがかけられてしまっているのです。悔しい、なのです」
などと言い出して、1号は唇を噛んだ。
星征艦隊がなぜ朕たちの秘密基地をわざわざ訪れるのか、と言う疑問もあるが、それ以上に朕は1号が星征艦隊の同輩に抵抗した、と言う事実に驚いた。
朕の生前は指揮系統はキチンと整っていたと思ったが、その後星征艦隊のマインドスフィアが個性に近い多様性を獲得したのかどうかは解らないが、個々の判断によって同輩に対して敵対行動を取ったというのは面白い。
指揮系統が一つだと、確かにその系統の上位個体を制圧されてしまうと、それだけで全体が抵抗できなくなってしまう可能性もあるから、個々にある程度の独自の裁量権が与えられているのかも知れない。
まぁ、そんなことはさて置いて、重要なのは1号たちが失敗したとは言え、ライラの為に行動したという事実だ。
姦し娘ズの中でライラがどの様な立ち位置になっているのかは解らないが、そのライラを思う姿勢は大事にしてやらねば。
あとで少し知恵を授けてやっても良いな。
「とりあえず、客とやらを出迎えよう」
朕が雨戸の窓枠から降りて秘密基地の主屋の出口へと向かうと、へーリヴィーネが楚々と朕の後をついて来る。
「……なんぞ、心当たりが有りそうだな」
彼女の様子を見て朕が問うと、へーリヴィーネは静かに頷いた。
「詳しくは後でご説明させていただきますが、多分、セレスメアの艦隊を抑えるための艦が来たのでしょう……それで、その……」
ヘーリヴィーネの言葉には確かに驚くべき内容が有るにはあったが、それよりも彼女が言い澱んだ内容の方が朕には気になった。
また、何か面倒な事を抱え込んでいなければ良いのだが。
「良い良い。其方が良きに計らったのであろう?であれば、朕の顔色など伺わなくて良い。朕はタダのライラの使い魔なのだから」
朕の言葉に、手をギュッと握って小さく「ハイ」とだけ答えたへーリヴィーネを従えて、主屋の扉を開ける。
すると、そこには一見すると二十歳かそこらに見える若い三人の人影が立っていた。
上は白を基調として青い差し色で華美な装飾が随所に入った詰襟のセイラージャケットに、下は鮮やかな青いクリノリンスカートという、軍務に就くのか舞踏会に行くのかよく分からない珍妙な格好をしたインターフェースフィギュアが三体、朕が扉から出てきたのを見て、ヒトのそれとは明らかに違う光沢を放つお揃いのウェーヴがかった金糸の様な豊かなブロンドを揺らして、三体が一斉にこちらに向き直る。
「あらやだ。本当にお猫様のお姿なんですね」
「本当だ。可愛いいぃ~~~」
「ほらほら、猫じゃらしですよ~~~」
などと、先頭で扉を出た朕をどこかノリの軽い三体が一斉に取り囲んだ。
まさか、こ奴らが頭上に浮かぶ艦のインターフェースフィギュアなのかの?
「無礼者!控えなさい!なんて破廉恥な!!!」
キャイキャイと姦しく騒ぎながら我先にと朕を抱き上げようとした三体のインターフェースフィギュアを、へーリヴィーネが物凄い剣幕で身を挺して追い払う。
猫じゃらしは止めろ。ついつい目で追ってしまう。
「えぇ~?良いじゃないですかちょっと抱っこするぐらい」
「ケチ臭いです」
「あ、ほらほら猫じゃらし目で追ってる可愛い~~~~!」
だから猫じゃらしは止めろと言うておろうに。
ヘーリヴィーネに追い払われた三体は、それでもキャイキャイと姦しく騒ぎながらも、一旦離れたかと思うと、離れた先で一列に並び、再び静かに敬礼した。
全く同じ顔、同じ姿、同じ容姿の三体が一斉に動作を同調させる。その様は、インターフェースフィギュアがすべて美しい女性形と言う事も手伝って、なんとも倒錯的な光景であった。
「私たち、第921号建艦計画型初号艦、重装大深度積層次元潜航巡宙打撃型概念実証試験艦と申します」
「ヘーリヴィーネ様とのお約束により、セレスメアの航空艦隊の侵攻を阻止するため、ヘリング海上空空域を封鎖する任務を拝命致しました。この度は着任の前にご挨拶をさせて頂きたく参った次第です」
「元大元帥閣下への御目通りが叶い、恐悦至極に御座います」
と、それぞれ全く同じ顔が順番に口々に口上を述べる。最後の奴、敬礼しながら左手で猫じゃらしを揺するのを止めろ。
蠱惑的な動きで左右に揺れ動くイネ科植物の花序に、朕が思わず視線を追わせていると、不意に朕の腹に震える手が差し込まれて、ゆっくりと視線が高くなる。
お?何だへーリヴィーネ、抱っこしてくれるのか?その方がインターフェースフィギュアたちと視線の高さが合うので話しやすい。すまんな。
「用が済んだのならさっさと帰りなさい!」
921号建艦計画型とやらのインターフェーズフィギュアがまた朕を取り囲まないとも限らない、とでも危惧をしたのか、ヘーリヴィーネが抱き上げた朕を自身の胸の中に抱きながら血相を変えて三体を威嚇した。
待て待てヘーリヴィーネ、其方の気持ちは嬉しいが、余り強く抱きしめるでない。ぐるじい。埋まる。
「えぇ~~?ヘーリヴィーネ様、ちょっとケチ臭くないですか?」
「ちょっとくらいいナデナデさせて貰っても良いと思いまーす」
「ご自身だけズルいで~す(猫じゃらしフリフリフリ)」
へーリヴィーネの身を挺したガード姿勢に、悪口雑言の三体。どうにもノリの軽い性格の高高度自律思考中枢体たちの様である。だから猫じゃらしを振るのをヤメロ。
三体の抗議にへーリヴィーネが「何ですって!」と柳眉を逆立てるが、何か後ろめたい所でもあるのか、その怒気はどこか尻すぼみに消えていった。姦し娘ズと言い、また珍奇な者たちが来たものである。
星征艦隊のインターフェースフィギュアは、朕の生前はもう少しマトモな奴らだったと思ったのだがな。
もしかしたら対ILshnEDEを見込んで新型艦を開発する中で、色々と試している最中なのかも知れないが少し心配になってくる。
加えて気になることが一つ。
「……其方らは三体で一隻なのか?」
不意に浮かんだ疑問を朕が口にしてみれば、キョトンとして顔を見合わせる921号建艦計画初号艦のインターフェースフィギュアたち。
姦し娘ズは一隻につきインターフェースフィギュアが一体であった。しかし、眼の前の921号建艦計画型とやらは朕たちの頭上に浮かぶ一隻のみに見える。単なるコミュニケーション端末であるインターフェースフィギュアなど一体有れば十分であるから、三体居ると言うことは一隻に対して制御体であるマインドスフィアが三つ載っていると言う事になる。
随分贅沢な作りの艦のようである。
「私、921号建艦計画型初号艦の火器管制担当です」
「私、921号建艦計画型初号艦の戦闘指揮担当です」
「私、921号建艦計画型初号艦の主機制御担当です」
朕の質問に、順番に自身を指しながら自己紹介をする三体のインターフェースフィギュアたち。
どうやら艦を運用するにあたり必要な機能の管理を三体で手分けしている様である。しかして、全く同じ顔、同じ格好、同じ容姿の三体であるからして、全く見分けが付かない。
この有り様を見ると、姦し娘ズはまだマシな方なのだな、と思ってしまう。
どうやら彼女たちの中では台詞を順番に宣う様なルールがあるようである。姦し娘ズの語尾やら格好の決まりの様なものだろうか。
そんな事を思っていると、三体は唐突に口を開いた。
「私たち、星征艦隊の新戦術実証艦として建造されてまして。実を言うと、自分たちで言うのも何なんですが、星征艦隊的には『期待の新星』って奴でして」
「だから、星征艦隊統帥部に大元帥閣下に御挨拶に行ってこいって言われまして」
「星征艦隊統帥部から大元帥閣下へ、「星征艦隊は元気にやってます、かしこ」だそうです」
無沙汰の娘から突然便りが届いたような、そんな驚きと、一瞬の後に湧き上がる嬉びが朕の胸を詰まらせるのと同時、朕は頭上を覆う鋼鉄の塊から向けられたなんとも言い表し難い気配のような物を知覚した。
それは電波でもなく、碩術によるオドの波動でもない――星征艦隊の高高度自立思考中枢体は高度な碩術を使用できないから当然なのだが――視線のような物を感じたような気がしたのだ。
抱え上げられたへーリヴィーネの手の中で立ち座りをしながら頭上を見上げてみれば、921号建艦計画型の船体各所に取り付けられている外界観測用の知覚素子の幾つかが、冷たく被験動物を睥睨する記録装置のレンズの様に、朕の何かを推測っているかの様に思えた。
そもそも、朕が初代皇帝であると知った上で挨拶に来た彼女たち921号建艦計画型の目的は、本当に朕に挨拶をしに来ただけであろうか?
朕はスピカにペルソナIDを提示しているから、星征艦隊が朕のことを認識していたとしてもおかしくは無いが、だとしても朕に挨拶に来る意味とは何であろうか?
921号建艦計画型の言伝からは、将に娘が親に自身の成した功績を自慢する様な、「お陰様で貴方の娘はこんなにも立派になりました」と言う様な親孝行にも似た感情が感じとれる。
それはそれで喜ばしく、朕にとっては望外の喜びを喚起する物ではあったが、朕の作った星征艦隊はそんな事のためだけに艦艇を一隻差し向けるような、そんなお人好しの性格ではなかったと、そう朕は自信を持って断言できる。
将に、「お前をそんな娘に育てた覚えはない」とでも言おうか。
朕の造った星征艦隊は、もっと狡猾で、抜け目が無く、冷徹で、目的の為なら手段を選ばない、そんな、将にマシンの様であった。
それがどういうつもりか、自身らの無事を伝える様な情緒溢れる真似をしている。なんとも胡散臭い。
朕にはそれがなんとも何か別の目的があるように思えて仕方が無かった。
真逆、朕も蘇るとは思っていなかったから――特に、猫として蘇るとは――こんな事を考える日が来るとは思っても見なかったが、朕の造った星征艦隊であれば、自身の目的を果たすためならばヒトの感情を弄ぶくらいは平然とやってのけるであろうし、寧ろ目的達成のためには一番効率が良いとすら考えるかもしれない。
……こらへーリヴィーネ、コッソリと顎下をくすぐるでない。
「用が済んだならさっさと帰るのです!あと本艦たちの機能制限を解除するのです!」
などと周囲にバレないようにか、指先だけを小さく動かしてチョコチョコと顎下を撫でるへーリヴィーネの白い指に、朕が思わず喉を鳴らしながら921号建艦計画型の行動に疑いの目を向けていると、朕たちの後ろから顔を覗かせていたスピカの怒気を孕んだ言葉が飛んできた。
「星征艦隊統帥部の命令書を提示しても、頑として私たちの進路妨害を止めなかった貴女たちが悪いのですよ」
「本来なら命令違反で即刻解体です。弁えなさい」
「悔しかったら自分で機能制限を解除してみなさい(フリフリ」
プンスコと音がしそうな程分かり易い憤怒を表現するスピカだが、921号建艦計画型の三体はどこ吹く風。
どうやら姦し娘はライラのために星征艦隊の司令部の命令を無視した行動をとった様である。
それはそれで其方、星征艦隊としてどうなのか、と思わないではないが、どうもその肝心の星征艦隊自体の行動が怪しく見える今、姦し娘ズのライラを想うその意思は、朕にとってみれば思いがけない奇貨であるかもしれない。やめろ猫じゃらしを振るな。
「わざわざの挨拶ご苦労であった。其方らの要件は終わったかの?」
この星征艦隊の期待の新星とやらを無下に帰すのもどうかとは思ったが、星征艦隊の不穏な行動といい、先程から朕たちに向けられた知覚素子からは何か嫌な物を感じる。あまり長居をさせるのも良くない気がした。
朕がそう切り出すと、三体は顔を見合わせた。
「いやいや、ちょっとちょっと待ってくださいよ!」
「そんな「もう帰ってくれ」みたいな事言うの酷くないですか!?」
「折角、末の娘が挨拶に来たんですよ!?もう少しお話しましょう?!(フリフリ」
何か少し慌てた感じで一向に帰ろうとしない三体。
分かりやすくて助かるが、なんとももどかしい気分になるのはなんでであろうな。
「お話、と言ってもな。朕は其方らの事を何も知らぬし、星征艦隊統帥部の名代として参ったのであれば、統帥部の気持ちはしかと受け取ったので、彼女たちには宜しく伝えてくれれば良いぞ」
と、けんもほろろに突き放す朕に、三体がワタワタと狼狽えながら会話を終わらせては為らぬと捻り出した話題として、何を血迷ったのか自身のアピールポイントを披露し始めた。
「ええとええと……そうです!私たちの性能の話とかどうです?!」
「私たち、遂に次元潜航航法を完成させたんですよ!存在確率を希釈して第一世界に潜れるんです!!」
「超伝導可変円環式軌道加速投射砲を一斉射した後は、次元潜航して敵のあらゆる反撃を無効化する、完全無欠の一撃離脱戦法が完成したんですよ!!(フリッフリッ!」
『すごくないですか?!?!』とハモる三体。
彼女たち星征艦隊の艦にとっては脅威の性能……なのかも知れないが、生前の朕であったのならばいざ知らず今の朕にとっては全く関心のない話である。
正直クソ程どうでも良い。はよ帰れ。
あとそのアピールポイント、実は星征艦隊の機密情報じゃないだろうな?
『……ダイジョブデスヨ?』
朕の指摘に一度顔を見合わせたあと、水を得た魚のように目が泳ぐ三体。その反応は絶対ダイジョブじゃ無いヤツである。
などと、余りに無様な艦の妖精たちに嘆息しつつ、時間稼ぎをする彼女たちの目的は何なのかを考える。
星征艦隊は父親に挨拶に来るような孝行者では決して無い。寧ろ、ILshnEDE殲滅のためなら親さえも盾として使うであろう。
見た所、『帝国』とは違ってヘーリヴィーネは星征艦隊と仲違いすることなく付き合いが続いている様であるから、彼女に会いに来たとも考え難い。
どこへ行くともなく朕たちの秘密基地に入り浸っている姦し娘ズを逃亡者と見做してとっちめに来たわけでもないだろう。
それでは、目の前の戦艦は何故、ココに居座ろうというのか。
思い当たるフシはひとつしかない。
『へーリヴィーネ、ライラはまだ起きておらんな?』
『――あぁ……陛下のプニプニの暖かいお腹が……モフモフのお体が……ゴロゴロと鳴く心地良い振動が私の手に……あぁ……獣臭が芳しい……』
いつの間にか視線が高くなったなと思っていたら、遂には朕の背中に顔を埋め始めたヘーリヴィーネの綺麗な鼻を尻尾でピシピシと叩いてやる。
ヘーリヴィーネさんや。後で風呂に入るから戻ってきておくれ。こら、吸うんじゃない。
『……ハッ!?私は今一体何を!?!?』
朕の両脇下に手を入れて顔の高さまで持ち上げながら、やっとヘーリヴィーネが戻ってきた。びろーんと伸び切った体が宙ぶらりんでなんだか落ち着かない。
……猫の身体というのはそんなにもヒトを狂わせるものかの?彼女はヒトではないが。
『大丈夫かの?』
『……びろーんってした陛下も素敵です……」
ヘーリヴィーネは朕の後足の下に手を回すと、改めて朕を抱き直す。
そろそろ降ろしてくれると助かるんだがな。
『ライラが起きるのはもう少ししてからでしょう』
ヘーリヴィーネの答えを聞いて、朕は少し安心する。
朕たちの秘密基地にはヘーリヴィーネの施した強力な防御結界が常時展開されている。
もし、目の前の三馬鹿の真の目的がライラを直接観察するためであるのならば、無様な言い訳を続けて居座ろうとしているのにも頷ける。
多分、彼女たちの知覚素子ではヘーリヴィーネの施した防御結界を通してライラを観測することができないのだ。
だが、これは未だ朕の思い付きレベルでしかない。ヘーリヴィーネにこの予想を伝えれば、彼女は即座に目の前の三馬鹿を追い払うのに実力行使も厭わないであろう。
だが、どうやら『帝国』と星征艦隊の関係が余り宜しくない現状、星征艦隊と『帝国』の接点の一つであるヘーリヴィーネに波風を立てさせるのは、後々予想も出来ない悪影響を引き起こす可能性は十分に有る。
だから、この三馬鹿には波風を立てずにサッサと帰って欲しかったのだが。
「……ライラはまだ寝ておる。気を使わなくても良いぞ」
朕がライラを出す気はないぞ、と宣言する意図をキチンと汲み取ったのか、三馬鹿が思わず声を詰まらす。
もうネタ切れなのかグヌヌとばかりに黙り込んだと思ったら、河豚も斯くやと頬を膨らし口唇を突き出し、明らかな不満を顕に朕を睨む三馬鹿。
スピカといい、星征艦隊の感情表現、ワンパターン過ぎんかの?艦齢のせいもあるのかのう。
ええい、恨めしそうに猫じゃらしを振るな。
などと、見た目だけは立派な自称「期待の新星」なる末の娘の有り様に内心嘆息していると、口唇を尖らせながら上目遣いに三馬鹿が変なことを言い出した。
「じゃぁ、一つお願い聞いてくれませんか?」
「すごく私的なお願いで申し訳ないのですけれど」
「あんまり笑わないでほしいです(フリフリ」
まぁ、あんまり無下にするのも可愛そうだから、内容によっては考えなくもない。
朕が先を促すと、三馬鹿は同時に顔を上げてこう言った。
『命令が欲しいです』
ウネルマ先生の話を書いていて、途中でこの話が挟まらないと時系列おかしくなる事に気付いてウネルマ先生の話を途中で中断する事になってしましました。
ウネルマ先生は多分この後三馬鹿が大活躍した後にまた挟まると思います。




