第4戦 学校へ行こう(前編)
戦時紫苑の転校初日は、クラス中が大騒ぎだった。
「転入生、全身真っ赤!!」
「父親が逮捕されたらしいよ!」
「ストーカーと初登校したみたい!」
「今日くる担任が恋した女だってさ」
「おいおい、今日の給食ラーメンだぞ!」
そんな教室のドアを勢いよく開け丸坊主の先生が入る。
「おはよう!朝のホームルームを始めるから皆んな席についてねー!」
皆一斉に自分の席へと着席したが、ざわざわと転入生の噂は収まらない。
「まずは今日から君たちの担任になる平凡大輔です!今まで1,2年生の数学担当だったからあまり関わりはなかったけど、ダイ先生って気軽に呼んでくれたら嬉しいな!最後の一年間皆んなでたくさん思い出を作っていきましょう!よろしくね!」
「…」
無言に耐えかねた先生が「はい、拍手ー!」と拍手を煽ってみたが、まばらな拍手が起こっただけだった。生徒達の好奇心は全て転入生へ向けられ、担任には興味がないようだ。
「……そして!!今日は転入生がいます!戦時さん入っていいよー!」
一気にクラス中の熱量が上がり、先生は少し肩を落とした。
次の瞬間、教室のドアが爆発した。
クラス中驚いた。先生も驚いた。火災報知器も驚いた。
そして、白い煙と生徒の叫び声と火災報知器の警報をバックに、赤い全身タイツで赤いランドセルを背負った少女が俊敏に入ってきた。
「天才的アカレンジャー、戦時紫苑、登場」
棒読みではあるが、一切無駄のないモーションから握り拳つくり手を強く振り上げたまま、紫苑は自己紹介した。
達成感を得たのかとてもキラキラした目である。
"ヒーローポイントを100pt喪失しました"
音声と共にベルトが赤くピカんと光ると、紫苑の表情は絶望へと変わり、大戦に負けたかのように、床に膝をつけて拳を叩きつけ悔しがった。
皆頭が追いつかず騒然とする中、紫苑は立ち上がり服についた埃を払いながら、何事もなかったかのように先生に向かって尋ねた。
「私の席はどこかしら」
「あぁ、、席は……。じゃなくて!!なんでドア破壊したの!?」
「あ、戻しておくわね」
ドアが元に戻っていく。レンジャーには登場時演出モードが備わっているが、演出により爆発されたものは元に戻せるのだ。
いわゆるご都合主義である。
「で、席は?」
「えぇ…」
先生は驚きのあまり、何も言葉がでないまま、窓際の1番後ろの席を手で指し示す。
紫苑は席に着きランドセルをおろすと中から謎のシートを取り出し、手際よく窓ガラスに貼り付け始めた。
「ちょちょちょ!今度は何してるの!」
「マジックミラーよ。私のことは気にせずホームルームを始めて頂戴」
ダイ先生は色々とつっこみたい気持ちを抑え、ホームルームを始めた。生徒達は転入生の奇行にざわついている。
「朝のホームルームは以上です!今日も一日頑張っていきましょう!あ、戦時さんは一緒に職員室に行きますよ!」
「わかったわ」
ダイ先生に連れられ職員室へとむかうなか、紫苑は隣を通った謎の人物からの殺気に悪寒が走り、警戒態勢で振り向くが振り向いた先に対象の人物は居なく、ただ生徒達が楽しそうに談笑しているだけであった。
戦時紫苑は嫌な予感がした。
自分は通常半径1km以内の敵意を感じとれるにもかかわらず、隣をすれ違う瞬間にしか敵意を感じなかった。
あの殺気は漏れ出たわけではなく、おそらくわざと向けたものである。
(この学校に只者ではない敵がいるということね)
いずれこの人物によって赤レンジャーとして倒すべき敵が誰なのか少女は知ることになるが、それはまだ誰も知らない…