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閑話 コンビニ強盗は絶対するな



大輔はヤグジャンを買いに近所のコンビニへ来ていた。


お目当ては武内れいなの初グラビアである。

店へ向かう足取りは軽い。顔もゆるゆるだ。



「なんか今日やたらレジ混んでるな」



期待に胸を膨らませながら列へ並んでいると、レジの方から怒鳴り声が聞こえてきた。



「いつものって言ってんだろ!!」

「なんで豚まん出してくるんだよ!!」

「太ってるから!? あぁ!? ふざけてんのか!!」

「そこの!一番だ!早く出せよ」

「一番くじじゃねぇよ!」

「俺のどこをどう見たらプルキュア好きに見えるんだよ!!」

「もういいわ!!!」



客は怒鳴り散らした挙げ句、何も買わずに出て行ったようだ。


大輔は小さくため息をつく。



「せっかくの休日なのになぁ…」



しばらくすると今度は別の女性客が叫んだ。



「あなた! 店員じゃないの!?」

「自分でスキャンしろなんて信じられないわ!!」



(おいおい……今日の店員大丈夫かよ……)



次々と飛び交うクレーム。

列はまったく進まない。


暇を持て余した大輔はスマホを取り出し、寒さで震える女性の家の窓を塞いでいくゲームを始めた。


十五分ほど経った頃だろうか。

ようやく順番が回ってきた。


ゲームをしながらヤグジャンをレジへ置く。



「あ、先生」



聞き覚えのある声だった。

大輔が顔を上げる。


レジの向こうには、全身真っ赤な少女が立っていた。


店員ではない。


どう見ても店員ではない。



「戦時さん!?何してるの!」

「見ての通りよ」

「…まさか、ここでバイトしてるの?」

「違うわ」


「じゃあなんでこんなとこに…」

「強盗を捕まえに行くから店番していてって、おばあさんに頼まれたのよ」

「そんなこと現実にあるんだ」

「あるわね」



その時だった。

ふと手元のヤグジャンが目に入る。


表紙には武内れいなが大きく載っていた。



「あっ!!!これは違うんだ!!好きな漫画が載ってて、それで!!」



大輔はその表紙を両手で隠した。


しかし紫苑はニヤリと笑った。


嫌な予感しかしない。



「私、行ってくるから先生ここ見ててちょうだい」

「え、なんで僕が」


紫苑はヤグジャンを持ち上げた。


「武内れいな17歳♪」

「ちょ」

「初めてのグラビアに挑戦」

「やめっ」

「水着姿で魅せる大人への第一歩」

「やめて!」

「『先生! 私がんばります!』」



レジ待ちの客全員が、こちらを見ていた。

地獄だ。



「するから!!!わかったから!」


「そう」


紫苑は満足げに頷いた。



「では」



そう言って走り出す。

しかし三歩進んだところで戻ってきた。



「強盗は全身真っ黒で黄色いカラーボールをぶつけられたらしいわ。見かけたら通報してちょうだい」


「あ、あぁ分かったよ」



放火犯じゃあるまいし、強盗が戻ってくることはないだろう。



「じゃ」



今度こそ紫苑は走り去った。


大輔が嫌な視線を感じ、後ろを振り向いた。

レジ待ちの客たちと目が合う。



「あはは…すみません」



ものすごく気まずい。

大輔は慌ててレジへ入り、次々と会計をこなしていった。


意外にも体は覚えている。

学生時代のコンビニバイト経験が役立っていた。



その時。



「大輔先生……?」

「えっ」



目の前には校長がいた。


アブシッ!!!!


反射的にチョップしていた。



「ぐほっ!?」



校長が崩れ落ちる。


しまった。

公務員の副業は禁止だ。


しかし、今回は事情がある。

説明すれば済む話だ。


だがチョップしてしまった。

もう別人として誤魔化すしかない。



「どうすれば…」



その時。

大輔の目にカラーボールが入った。


「これだ!」


大輔は勢いよくカラーボールを掴み、自分のツルツルな頭へと上から叩きつけた。


ベチャッ。


おそらく顔面は真っ黄色だろう。

視界も黄色くなっている。



「な、なにやっとるんじゃ」



校長がドン引きしていた。

大輔は思い切りやりきることに決めた。



「2番!りんご星人です⭐︎よろしくお願いします⭐︎」


人狼ゲームで培った人格である。


「…」

「お会計は315円です⭐︎サイコー⭐︎なんちゃって⭐︎ぺろぺろりん⭐︎」

「…」


「…りんご星人です⭐︎」



無反応。

終わった。

人生が終わった。


しかし校長は笑い始めた。



「おっほおっほほほ」

「あっははは⭐︎」

「テンション高いのぉ」

「はい⭐︎またのお越しをお待ちしてます⭐︎」


「おっほほほ」



気づいていないのか。

校長は満足そうに笑って帰っていった。



「バカで助かった…」



大輔は胸を撫で下ろした。

とりあえず、客も途切れたため、トイレで顔を洗うことにした。


数分後。


ピンポンパンポンパンパンピンポンパンポンポン♪


来客音が鳴る。



「いらっしゃいませー⭐︎」



そう言いながらレジへ戻る。

そこで大輔は固まった。


レジの前には、ムキムキのおばあさんが立っていた。キャッシャーの金を数えている。



「あれ?」


2人は目を見合わせて固まった。


「……」

「……」


次の瞬間。


「「泥棒だーーーーーー!!!!!」」


店内に絶叫が響いた。

なぜか相手も叫んでいた。


「えっ?」

「えっじゃないよ!!白々しい!!」

「えっ!?」

「また戻ってきたのかい!!」

「あ!違います!!」

「何が違うんだい!!」


その時。

大輔は自分の服を見た。


全身真っ黒。肩にびっしょり他にも至る所に黄色が飛び散っている。



『全身真っ黒で黄色いカラーボールをぶつけられたらしいわ』



紫苑の言葉が蘇る。



「めっちゃ僕じゃん!!!!」

「あぁあぁ!!めっっちゃお前だよ!!」

「違うんです!!」

「この!バカもんが!!」



ドゴォッ!!

ラリアットが炸裂した。



「ぐぇっ!!」

「カラーボール付きで戻ってくるなんて馬鹿な強盗だねぇ!!」

「僕もそう思います!!」

「だったらなんできたんだこのアホが!!」

「僕じゃないからです!!」



おばあさんは容赦なく腕を首へ回した。

ギリギリギリギリ。



「ちょっ……苦し……」

「あたしゃ元女子日本プロレス所属なんだよ!!」

「え、えぐっ」

「褒めてる場合かい!!」

「褒めてないよ!!!」



大輔の意識は遠のいていく。

最後の力で叫んだ。



「強盗のクソヤローーー!!!」

「それはあんただよ!!!」



カンカンカンカン。


なぜかゴングの音が聞こえた気がした。



その後。


紫苑が本物のコンビニ強盗を捕まえたことで、意識を取り戻した大輔は無事釈放された。


次の日の朝。

教室で紫苑は大輔に本を手渡した。


「はい、先生。忘れ物」


それは新作のヤグジャンだ。


「何それー?」

「エロ本?」

「先生が紫苑に変な本もらってるぞー!」


近寄ってくる生徒達。



「おばあさんがお詫びにタダであげるって」



紫苑がよかったわねというような表情でニコッと笑う。



「ファッ○…」



大輔の目から、一筋の涙がこぼれていた。



それからしばらくの間、大輔のあだ名は「エロ本先生」になった。

職員室の女性陣からは白い目で見られ、男子生徒たちからは妙な尊敬の眼差しを向けられる日々である。


一連の騒動について、朝礼で教頭が大輔を叱り飛ばしていた。


「教師としての自覚がですね!」

「申し訳ありません…!」



大輔が平謝りする中。


ただ一人、ぽつりと呟く声がした。



「りんご星人…」



大輔は、大事な何かを盗まれた気がした。



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