みんな いっしょうけんめい たたかって いる
★注意!★
戦闘表現で残酷だと思われるものが含まれます。人体欠損、捕食等が苦手な方はスルー、もしくはブラウザを閉じてください。
魔獣ヴェラが四人のヒトに対して圧倒的な力を振るうだけの内容です。
一話のみの更新となりましたが、これはひとえに親友がもんすたー娘が多数登場するゲームを紹介してくださりやがった結果、睡眠不足に陥ってしまったためです。ごめんなさい。
スキュラ娘かわいいよスキュラ娘
「あんたが新しい<蛇姫>だね。あたしはヴェラだ」
ベニグノを抱え込むようにして座り込むオレが見上げる視線と、魔獣マンティコアの見下ろす視線が交錯した。それは一瞬のことで、すぐにオレに身体を預けたままぴくりともしないドワーフに視線を移した。
胸部から流れる鮮血が彼自身の下半身を、そしてそのままオレの半身も赤く染め上げている。出血の多さに老女が小さく舌打ちした。
「あまり余裕は無さそうだ。その男からある程度は聞いてはいるけど一応確認させておくれ。あんた、<癒しの水>はまだ使えないんだね? 」
「<癒しの水>? 」
彼女の問いに鸚鵡返しに聞き返した事、それそのものが答えとなっている。ヴェラはそれで納得すると「すぐ戻る」とだけ残して身体を男たちの方へと向けた。
当の男たちはというと混乱しているようだった。目の前で獲物がすげ変わったのだ、無理もない。
忙しなく四人の間で怒鳴りつけるようなやり取りが交わされていた。何を言っているのかはわからないが、マンティコアという単語だけは拾うことができた。
時間にして三十秒とないその隙を老練のヴェラが見過ごしはしなかった。
後ろ肢が小石を噛むとヴェラは伸び上がった。前肢を畳み込むようにして放物線を描く。強靭な後ろ足をバネに、背骨を波打たせるようにして反動で蹴上がるそれはまさにネコ科独特の跳躍方法だ。
その一度の跳躍で先頭を駆けてきた男との距離、五メートルほどをゼロにすると落下と同時に前肢を差し伸べて襲い掛かった。二列目の二人が何事かを叫ぶと、先頭の男ははじかれたように振り返った。
体長三メートル強、尾も入れれば五メートルは超える。体高も二メートル近い巨体だ、体重は数百キロにもなるだろう。その筋肉の塊が放物線を描いて男の頭上に落下したのである。
想像したよりも遥かに静かな着地だったが、その衝撃は凄まじかった。ヴェラが着地の際に伸ばした両手の下で、不幸な男は身体をありえない方向に幾重にも折り畳んで絶命していた。
即死だった。悲鳴もなく、何か単語を吐きかけただけで、目も口も驚愕の表情で大きく開かれたまま魔獣の足元で変わり果てた姿になっている。
先頭の一人を無力化することに成功すると、さらにヴェラは次の獲物を求めた。
着地の勢いそのままに二歩、三歩と進めてから右前肢の肘を折った。自然と右肩が下がり、ヴェラは左肢を右肢の前につくと後ろ肢を蹴りこんだ。
柔道の前まわり受け身のように急旋回を始めた巨躯のあとを追ってヴェラの銀糸が宙に半円を描く。
次の犠牲者は先頭の男に続いていた二人である。
目の前でヴェラが急速に回頭を始めたことは認識できてはいただろう。しかし、彼らの意識はそこで途切れることになる。
旋回に引きずられて男たちから向かって右横の空間からうなりをあげて迫ったものはヴェラの尻尾である。
サソリのようであり、だがその先端部分は大の男で一抱えもある青黒い装甲を纏った鉄球で、しかも厳しいとしか形容しようがない大小いくつもの突起――スパイクが並んでいた。
ヒトの胴ほどもある尾が、ゴムのような伸縮性でもってムチのようにしなって二人の冒険者に襲い掛かった。
ごぱっという炸裂音と同時に一人目の男の上半身は四散した。
横にいた二人目の男は直撃は免れた。尤も直撃はしなかったというだけで、目の下から上が削り取られて先の二人同様、即死したことには変わりはなかったのだが。
横で肉塊に成り果てたパーティメンバーのおかげで死の鉄球の軌道が上方向に僅かにずれたためであった。
その場でさらに半回転して改めてヴェラは正面に残った最後の敵を見据えた。その美しい銀糸にもドラゴンの皮膜にも燃えるような毛並みにも、まだら模様に赤黒い染みがいくつも飛び散っている。
最後の一人、黒革を巻いたクロスボウを手にした男はすでに戦意を喪失していた。それも仕方がないことに思えた。目を瞬く度に一人、また一人と戦友がモノへと変貌を遂げているのだ。
その凶行をほんの数瞬でやってのけたのは、上品そうな笑みを浮かべた老女の顔を巨体に乗せた醜悪な魔獣であった。
<魔道の担い手>マンティコア。
ゲームにおいてはカンストレベルの冒険者、五、六人の一パーティで討伐可能なその魔獣は、現実と化したこの世界においてはおよそヒトが相手しうるモノとは思えないイキモノになっていた。
軽々と数メートルを飛び超え襲い掛かる身体能力、軽装とはいえ成人男性を原型を留めないほど壊しつくす膂力。一見してヒトが操る槍よりも間合いが広く、破壊力は比べ物にならないほどの尾。その上、空を翔れる翼をもつ。
爪を恐れて鎧の装甲を厚くすればそのスピードについてゆけず、押し倒された後で蹂躙されるだろうし、そもそもあの猛スピードで襲い掛かる鉄球に耐えられるとは思えない。
その上、厚く密集した毛氈と分厚い筋肉が並みの攻撃などものともしないだろう。
ヒトがより大型の敵と戦う際に、近接攻撃は避けた方が賢いように思う。彼我の戦闘力が比べるのも馬鹿らしいほどの開きがあるためだ。
こちらは有効打を与えられないのに対して、向こうはかすりさえすればいい。それで戦いは終わる。こんな分の悪い賭けはない。
では、有効手段は何であるかといえば飛び道具につきると思われる。死をふりまく攻撃範囲の外から狙うのだ。この世界においてそれは弓であり、魔法である。
その弓が彼の手の中にあった。しかも通常の弓とは違い威力が高く射程も長いクロスボウだ。ベニグノの背中に当たり、人体を突き抜けて鏃が胸から顔を出すほどだ、命中した時の威力は申し分ない。
ヴェラの方でもクロスボウの威力は熟知しており、戦いの初めから常にそれへの警戒を怠っていなかった。倒した三人ともが射線に入るように動いていたつもりである。
終始、彼のクロスボウの鼻先は魔獣に向けられることなく、今同様、男の両手に支えられたままほぼ真横を向いていた。それでもなお彼女はそれを脅威とみた。
「風よ、逆巻け」
魔術のコマンドワードのひとつなのだろう。ヴェラの口から漏れた呟きに呼応して、頭上に誇らしげに広げた両翼から突風が彼女の周囲に吹き付けていた。まるでヘリが地表付近でホバリングしているかのようだ。
それからヴェラは最後の一人に向けて歩を進めた。男に正面からやや姿勢を低く、ネコがまさに獲物に飛び掛る前のようにしながら近寄っていく。盛り上がった肩の筋肉は歩みにあわせて上下するものの、その頭部はぴたりと水平を保ったまま微動だにしていない。
いよいよ迫る魔獣の圧迫感にようやく男は手にした獲物の存在を思い出したか、今更クロスボウを目線に水平に構えて見せた。すでに魔獣から吹き付ける風が男の頬を叩く距離だ。
構えながら何かを叫び続けていた。先ほども今もオレにはこの世界のヒトの言葉はわからない。だが状況や表情で何を言っているかはおおよその見当はつく。彼は圧倒的な死に恐怖していた。
ヴェラが更に一歩、前肢を伸ばした時ついに男の恐怖は臨界点に達して容器のふちから溢れ出した。うわぁぁ!と意味のない叫びを搾り出しながら、トリガーを引いたのである。恐怖が引かせたと言った方が正しいのかも知れない。
びんっと弓弦が鳴ってクロスボウ独特の短く太いボルトが射出された。その矢の形態上命中率にやや難があるわけだが、男と魔獣との距離は数メートル程度だし的も大きい。まず外しようがなかった。
当たりさえすれば大人の親指ほどの太さもあるそれは、いかな魔獣といえどその皮膚を貫き肉を食い破ったであろう。頭部に命中すればそれで息の根を止めることすらできたかもしれない。
だが男の目の前で必殺の一矢は、魔獣の手前で急激に角度を変えてあらぬ方へと飛び去った。ヴェラが発動させた<風>の魔術によって。
ゲーム風にいえば「ノーマル・ミサイル・プロテクション」とでもいうべきそれは、ヴェラのように飛行するものにとって最大の脅威と表現しても差し支えない、物理的な飛び道具を無効化する術であった。
男の目がその飛び去った軌跡を追い、今度こそ絶望に囚われた。
クロスボウの弱点のひとつに再装填に必要とする時間がある。弦を巻き上げる形態にもよるが、通常の弓とは違い次矢を番えるのに早い者でも十秒近くを要した。
彼の手にあるクロスボウは先端部分に轡のようなものが取り付けられており、そこにつま先を差し込んでもって全身で弦を引くタイプである。
当然、ヴェラは再装填の時間など与えるつもりは毛頭なく、男の最後の一手が失敗したことを確認すると小走りに一息に最後の距離を詰めた。
男はへたり込み、それでも両足をカエルのようにばたつかせて魔獣から逃れようとした。地面の上を泳ぐように両手が空をつかんでいた。はっはっと呼吸は荒く短くなり、涙や鼻水、涎が男の顔を汚している。
細胞の一欠けらまでも死を拒絶しているかのような姿を、しかしヴェラは何ら表情を浮かべずに睥睨していた。
「この世界じゃ殺す者が次の瞬間には殺される者であるかもしれないわけさね。その様子じゃそんな覚悟はできてないんだろうけど」
男に魔道の覚えがあるとは思えない。<精霊語>を解さない彼にヴェラの呟きはどう聞こえているのであろう。
ぺりぺりと糊をはがすようにヴェラの口が耳の下当たりまで裂けた。明らかにヒトのそれとは違う立派に発達した犬歯と細かい乱杭歯がのぞいている。
両前肢が男の両腕をそれぞれ押さえつけ、もはや喚き散らす事だけが男のできる表現方法であった。
「じゃ、有難く働いた分、補充させてもらうよ。――いただきます」
ヴェラの頭が一度高く持ち上がり、振り下ろされた。がつんと一度だけ硬いモノ同士がぶつかり合う音――彼女の犬歯が男の骨に突き当たり両断する音が響いた。
断末魔は短かった。




