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ベニーを主役にと思ったりもするんですがどうですか

いちゃらぶ回。おひげと触手の。ワーイ。



その翌日からオレは外へ出る訓練を開始した。少々情けなくもあるが、引き篭もり一直線だったのは事実だし、異世界誕生直後のイベントがアレのせいでちょいとトラウマを抱え込んだわけだから仕方がない。

前日にベニグノと話たように問題は多いが、このままそれらから目をそらし続けるわけにもいかない。食事にしても、ココロが器に惹かれることにしても確かに彼のいう通り師匠である魔獣に会って相談してみるのが手っ取り早そうだ。

怖い、嫌だとぐずっていても埒が開かない。それに、いつまででも彼の家に居座り続けるわけにもいかないだろう。彼には彼の生活があるのだ。背中の矢傷もベニグノの処置もあって痛みはほぼない。なら、なおのこと生前の約束、捨てられた宿場町アレハンドを目指すべきなのだ。


オレはなけなしの勇気を奮いだして小さな戸口からまず顔だけ出して辺りを伺った。最初の数瞬は久しぶりの太陽の光に耐え切れず顔を背けた。直接空を仰いだわけでもないのだがこの有様だ、よほど洞窟暮らしが長かったらしい。

片目づつうっすらと開けて慣らすように見れば、お昼前の森の中、木漏れ日が降り注ぎ緩やかに下りの小道が伸びているのが見てとれた。さらに林の奥へと視線を注いでも、潅木や茂みを覗き込んでも当たり前だがオレが恐れているものの欠片すら見つけることなど出来なかった。

オレは木製のくたびれかけた扉から手を離し、つま先――感覚的にはそうなのだが、触腕のひとつからそっと前へ伸ばしゆっくりと身体全体を陽光の元に晒していった。木々を吹き抜ける風は優しく、どこかから聞こえる鳥の小さな泣き声も耳に心地よかった。


何を恐れていたのだろう――得体の知れないものに怯えて二週間近くも薄暗い洞窟の壁に張り付いていた自分が馬鹿らしく思えたくらいだった……



「――なぁんて言って怖がってた頃もあったよねぇ。ばかだったよねぇ、ほんと。あははは」



オレは陽気に前をいくヒゲに笑いかけた。ベニグノは黙々と前を向いたまま道を下るだけで何も返さない。返事こそないが呆れ返っているのか、はたまた怒っているのか、滲む不穏当な空気は綺麗に剃りあげた後頭部を見ればわかる。オレがからからと笑うたびに青筋が増えている。

初日こそおっかなびっくりで、ほら穴から出た後も鎖に繋がれた番犬のように半径数メートル程度しか出歩けなかったオレだが、二日、三日と経つ頃にはベニグノの後についてかなり遠出する事ができるようになっていた。


その結果を以ってきっかり一週間後の朝。

日が昇ると同時にオレとベニグノは彼の師匠に会うためにほら穴を出発したのである。



「二週間。二週間もだよ?ずっと引き篭もっててさー。なに考えてんだって話だよねぇ。我ながらわけわかんないよー、あははは」


「……本当に、その浮かれまくった頭の中身を見てみたいもんじゃ。泣いたカラスがもう笑うというが……全く。いくら<蛇姫>に染まるにしても順応が早いというか極端すぎるじゃろ」


「え?なに?なにぶつぶつ言ってんのさ?聞こえないよ? 」


「なんでもないわ!元気になったみたいで良かったの。一時は本気で心配したワシがあほらしゅう思えるくらいじゃ」


「あー、うんうん、そうだよねぇ。いっぱい迷惑かけちゃったからねぇ。でも、もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」



素直さ大爆発でお礼を口にして特大の笑顔をむけると、まったく……と言ったきり今度こそはっきりと呆れ返られた。


うん、なんていうかベニグノの言いたいこともわかるんだけどね。

空元気にすら見えるほどはしゃいでいるのも、生まれてすぐ命を狙われたその恐怖から目を逸らして心を平穏に保とうとする揺り返しの作業なのかもしれない。だがそれ以上に<蛇姫>でいる時間が経つにつれ、オレの中で逞しい魔獣としての彼女の存在が増したせいだと思っている。


彼が言っていたように「地位が人を作る」というやつなのだろう。<蛇姫>としての時間が長くなってココロが彼女に侵食されていく恐怖がないかといえば嘘になる。特にその話を聞かされてからは一層その感覚が強くなってきているように思う。だが、今のオレのおかれた状況を考えれば感謝した方がいいのだろう。やわな精神じゃ前の<蛇姫>のようになるのだから。ならば引きずられないように自分を強くもった上で、<蛇姫>のものと思われるココロに沸き立つ衝動に任せておくのが賢いのではと思う。

そう割り切って考えると、それはオレの心強い武器であるように思えた。


その<蛇姫>としての性格だが、ベニグノがいうには<湖岸の蛇姫>はスキュラ族の上位であるアーク・スキュラで、その姫である彼女はまことそれらしく奔放でややもすると傲慢なものであるらしい。わかりやすくいうとお金持ちのワガママお転婆お嬢様だ。

控えめだったユーリですらわずかではあるがその傾向が見え隠れしたそうだが、オレの場合は見え隠れなんてもんじゃない。完全露出状態だ。どうやらオレとの相性がばっちりだったらしい。ただ、そう言われると釈然としないものがあるのだが。



「……はぁ、しかしはしゃぎすぎじゃろ。落ち着きのない」


「しょうがないだろ。始めて魔獣にあうんだから」



おぬしもその魔獣なんじゃがな、とベニグノは呆れ顔だ。口でこそそう言うが、小さな目がヒゲもじゃの中で優しそうに笑っている。

オレのほうも先ほどから頬が緩むのを自制できないでいた。確かに自身も今では魔獣だが、それはそれとして置いといて。お話の中にしか登場しない伝説の生物を生で目にすることができるのだ。少々浮ついたり、大人気なくはしゃいでしまうのも大目に見て欲しいところだ。


オレたちは半時ほども小道を下って川原に出た。ここはオレが流れ着いたあたりであるそうで、今回はここを師匠との待ち合わせに選んだんだそうだ。

見渡せば全方位に広がる大パノラマ。パルマが絶賛していた雄大なカナダの自然とどっちがすごいだろうなと、TVでしか見たことのないような絶景を眺めながら思う。

周囲を杉に似た針葉樹の森が取り囲み、その遥かを見透かせば某狩ゲーを思い起こすほどの峻険な霊峰がいくつも連なっている。横を勢いよく流れるのはその万年雪を溶かした氷のように冷たい急流だ。

この流れが行き着くのはオレが生まれた湖岸となるはずである。

出発した時には目線の高さにあった太陽も今では中天近く、ほぼ頭上に輝いている。昼ごろにとの約束であるらしい。のたのたと周囲を駆け回るオレを見咎めてベニグノが声をかける。


「あんまり歩き回るなよ。じきに時間じゃぞ。それに一応手負いじゃろ、おぬし」


「もう直ってるってー。いいからいいから、そんな遠くまでいかないし。そんなに気を使ってるとハゲちゃうよ?――あ、ハゲてるか」


「剃っておるだけじゃ!ケタケタ笑うな!それとヒトを指差すもんじゃない! 」



ずっと大事をとっての穴暮らしだったオレの身体は、とにかく外気に触れての陽光の下での運動に飢えているようだった。身体を動かしたくてたまらない。

深呼吸で肺いっぱいの空気を入れ替えて、ベニグノがさらに小さく見えるほどにあちこちを探検してまわった。むう、異世界とはいえやっぱり川原は川原、前世で子供の頃に親しんだ川原となんら変わらないな。


五分もすると飽きてきて、ベニグノのそばにあった手ごろな大きさの岩によじ登り腰を落ち着けた。吹き渡る川の風も熱せられた岩肌からお尻にじんわりと伝わる熱も心地いい。


よし、と小さく気合を入れるとオレは座りなおして目を閉じた。両手は軽くおへその前あたりで組む、いわゆる座禅のポーズだ。

師匠に会うと決めた日からベニグノに言われてオレは魔力を知覚する練習を繰り返している。非常に古典的ではあるが、心を落ち着け座禅を組むのが唯一で且つ近道らしい。それからオレは時間を見つけては率先して励んでいた。



「んー、胡坐かいてるつもりなんだけど、見た目はとぐろ巻いてるってゆうかなんていうか……ちょっと下品だけど巻きうnこみたいだねぇこれ」


「うるさい、黙ってやらんか。というかおぬしは少しは女らしい慎みや恥じらいというものをだな」


「元男の子だから無理だよ」


「ええい、うるさいわ!黙って集中せんか!」


「大丈夫。もうお腹の下の方で感じ取れるようになってるから。ていうか、これ最初はお通じかと思ったけどね!でもよく考えたら魔獣は食べる必要ないんだから、お通じもないよねぇ。あはははって、痛い!痛いよ!?グーはよして、グーは!? 」


「……おまえは魔術の修行よりも先に学ばなければいかんことが多い気がするな……」



などという他愛もないやりとりも二人の間では日常茶飯事と化していた。


当初は魔力を感じ取るどころか居眠りこいてはベニグノにどつかれるを繰り返していたが、あっという間にお腹のずっと奥に何かが燻っているのを感じ取れるようになってきた。気のせいかとも思えたが、始めて二日でそれがはっきりと知覚できた。ごぼごぼとマグマのように鳴動して音すら聞こえてきそうなほどに。

通常、そこに至るまでは数ヶ月を要するそうだがさすがは魔獣。それも回復支援に特化した魔法型の<蛇姫>の面目躍如といったところか。



それにしても魔獣っていってもねぇ……数ある中でよりにもよって<蛇姫>なんだもんなー……



<湖岸の蛇姫>魔獣の中でも単体での戦闘力はかなり低い。ゲーム内ではカンストレベルである50に達すれば、どの職業であろうと鼻歌まじりでソロ討伐可能と評判だった。

水属性で支援魔法と状態異常、回復魔法を使用する完全支援型だから仕方が無いといえばそうなのかもしれない。


敵パーティの一員として<蛇姫>を相手取ると厄介極まりないんだろうが……

今<蛇姫>を操るのは、パーティ経験が全くといっていいほどに無いグダグダソロプレイ街道を邁進したこのオレだ。

敵にいればまっさきに倒したくなる程度にはうざいが、味方にいても期待を裏切って役に立たずにこれまたうぜぇとか言われそうだな。



というか、そんなことよりなにより――



「どう見ても完全に性別は女の子に分類されちゃうってのが……」



女の子っていうかメスか。どっちでもいいけど。

両拳を腰にあてた姿勢でそろそろと視線を自分の胸元へとおろす。例のずだ袋という名のTシャツを押し上げるようにふたつの頂が見事に盛り上がっている。

片手で風に嬲られる黒髪を抑えつつ、もう片方の手で布地の上からおまんじゅうを軽く揉みこんでみた。おお、なんか弾力がすごい。



「えー……見事なまでに理想的なおっぱいです。ツリガネおっぱい?巨乳じゃなくてほどよい美乳?あと、ついでに……」



自分のものとは思えないほど、無骨さを極限にまで排除した白い手を恐る恐る股間へと伸ばしてみる。下はずだ袋2号ともいうべき、ぼろ雑巾のような布を巻いているだけだ。

知ってはいるけど、そこは一応ね。もしかしたら視界にはいらないあたりにひっそりと息づいてるかもしれないし。

――まあ、そうだったらそうだったでおっぱいついてる上でちっこいモノの持ち主っていう、もはや心をどこへ置いて良いのかわからないイキモノになること受け合いなんだけどね。



「――うん。間違いないね。グッバイマイサン。ウェルカムマイシスター」



理由はわからないけど、語尾が擦れてるよ。ははは、なんでかな視界がぼやけてる気がする。

っていうか、痛い!痛いです!ベニグノさん!のびる!ほっぺたがのびるます!



「黙ってみておればおぬしというやつは……!」



気づけば怒りで顔を真っ赤ににしたベニグノがいつの間にやら自分のすぐ横でぶるぶる震えていた。太く短い親指と人さし指でもってぎりぎりとオレの頬をつねり挙げる。



「前はどうか知らんが今のおぬしは女じゃ!女!それがお天道様の下で胸を揉むどころか股間に手を伸ばすなど恥をしらんか!恥を! 」


「いたいいたい、すいませんもうしません!……あー、もう痛いなあ。ちょっと確かめてみたくなっただけじゃないかー、オレの身体なんだしいだだだだだ!ごめんごめんって!もうしないしません!左右均等につねらないでええ! 」


「うるさい、今まで大目に見ておったが今日という今日はもう我慢ならん。師匠に合わせる前にその性根を少しでも矯正してくれるわ!――こら、またんか! 」


「何度も言われてることだけど、待てと言われて待つやつはいないよ!ベニー! 」


「口ばかり達者になりおって……大体なんだそのベニーというのは!ベニグノじゃベ・ニ・グ・ノ! 」


「わかってないな、ベニーは。ベニーなんだからベニーって呼ばれてもしょうがないと思うんだ、そうだろ?ベニー」


「案hhんjbxgせdんぢめぁjjふh?! 」



耳まで朱に染めたベニグノが言葉にならない何かを喚きつつ、一直線にオレを追い掛け回しだす。

必死の形相はまるでゆでだこだ。



「あはは!あーベニグノからかうのたのしー」



恋人同士が波打ち際をきゃっきゃっうふふと走るがごとく。川原をケタケタ逃げるスキュラをうがー!と追いすがるドワーフ。誰が見てもその絵はかなりシュールであったのかも知れない。





あ、忘れておりました。

作中のベニー連呼はお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、某冒険者一向でのハーフリングのセリフを拝借させて頂きましたことここに明記しておきます。

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