⑦福田の接近
夜七時。
今夜も始まろうとする、陸の路上ライブ。
そこへ、電動車椅子に座る美月が、姿を見せた。
「こんばんは、陸君」
陸は美月を見て、軽く手を振り微笑んだ。
そんな陸に、意味ありげな笑みで近づく美月。
「ねぇ、陸君。これあげる」
美月が陸に手渡した物は、二頭身の可愛い男の子の人形だった。
それは掌くらいのサイズ。
大きな頭と、大きな胴体、ちょこんと両手両足がついている。
そして、目を惹くのが、プラスチックで作られた可愛いギター。
お腹の部分に張り付いていた。
「こ、これ……?」
陸が、美月に顔を向ける。
「実は、一ヶ月前から作ってたんだ。陸君に、そっくりでしょ?」
美月が笑うと、陸もつられて微笑んだ。
「あ、ありがとう。だだ、大事にするよ……」
ジャラーンと、ギターを鳴らし、本日の路上ライブかスタートした。
ふいに美月は、五十代くらいの男性の存在に、気付いた。
少し離れた場所で、腕組みをして、じっと陸を見つめている。
美月は、不思議に思った。
ほとんどの人は、クスクス笑いながら見ているのに、彼は目を閉じて真剣に聴いている。
時折、顎を動かして、リズムも取っているようだ。
陸の路上ライブは、歌だけで、喋る事はない。
いつも、十二、三曲ほど歌うと終了する。
曲のリストは、オリジナル曲とカバー曲が、半分ずつだ。
時間にして、一時間弱。
やがて路上ライブが終了し、陸が機材を畳んでいると、例の男性が話しかけてきた。
「ちょっと、いいかな? 吉沢陸君」
陸と美月が、男性に顔を向けた。
「僕は音楽関係の仕事をしてる、福田という者なんだけど。ちょっと、話があるんだ」
陸は、困惑した表情を見せた。
一方、美月は警戒した目を向けた。
「あの、失礼ですけど、名刺を頂けますか?」
美月が、険しい顔をして言った。
そんな美月を見て、福田は驚き、眉を吊り上げた。
途端に笑った。
「はははっ。大丈夫だよ。詐欺とかじゃないから」
福田は財布を出して、そこから名刺を二枚、陸と美月に手渡した。
名刺を確認する美月は「えっ……」と、声を漏らした。
「福田優作……。あの古木アキナをプロデュースしていた、ピアニストの方ですか?」
「ほう、よく知ってるね。確かに数年間、彼女と一緒に仕事をしていたよ」
美月は、思わず顔を綻ばせた。
「私、古木アキナさんの大ファンなんです!」
福田は「そうなんだ」と、笑顔で答えると、陸を見た。
「そういう訳で、陸君。僕は一応、ちゃんとした音楽事務所の人間だからね」
陸は、やや背筋を伸ばし、コクンと頷いた。
「……ちょっと、二人だけで話せないかな?」
福田はそう言って、陸と美月を交互に見た。
陸が美月に声を掛ける。
「み、み、美月ちゃん。ちょ、ちょっと待っててくれる?」
「うん……分かった」と美月。
つづく……




