⑤二人の距離
再会した陸と美月。
その日から、美月は度々、陸の路上ライブへと足を運ぶようになった。
そもそも陸が路上ライブをするのには、大きな理由があった。
小学生の頃の約束を果たすのもそうだが、いつか美月に会えるのではないか、という淡い願望があったのだ。
その陸の想いは、叶った。
しかも、頻繁に路上ライブに来てくれる。
陸にとっては、とても幸せな時間だった。
ちなみに、小松はと言うと、彼は全く姿を現さなくなった。
陸に吹っ飛ばされた事で、すっかり怖気付いてしまったのだ。
——季節も春から夏へと進んだ。
ある日、陸と美月は、古木アキナのライブを観に行った。
小学生の時、美月が陸に勧めたアーティストだ。
会場は満員で、約三千人のファンが詰めかけた。
古木アキナの生の演奏は、とても素晴らしくて、圧巻の一言だった。
その後、夜十時。
陸は、美月の車椅子を押し、夜道を歩いていた。
駅から美月の家まで、無事に送り届けるためだ。
「本当、今日は楽しかった。感動しちゃったなぁ……」
美月が、先ほどのライブを思い返して、しみじみと言った。
「う、うん、そ、そうだね」と陸。
しばらくして、美月が陸を見上げた。
「ねえ、陸君も路上ばかりじゃなく、たまにはライブハウスとかでやってみれば?」
美月の言葉に、陸は苦笑した。
「ぼぼ、僕、下手だから……。ラ、ライブハウスの人に、こ、断られるよ」
「でも、陸君の歌声って、高くて綺麗だよ。声量もあるし。一曲の中で、凄い良いなって思うところが、いくつかあるよ」
「あ、ありがとう。お、お、お世話でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないよ!」
少し声を荒げた美月。
その時、美月は街路樹の向こうに、丸い光を見つけた。
それは、月だった。
「あっ、満月!」
美月の声に、陸は足を止めた。
すると美月は、スマートフォンを取り出した。
「なんか街路樹の向こうにあって、良い感じ。綺麗に撮れるかなぁ?」
美月のスマートフォンが、カシャッと音を立てた。
「うーん、やっぱり遠いから、上手く撮れない。……あ、そうだ。ねえ陸君、二人でツーショット撮ろうよ」
美月の提案に、陸は思わず照れた。
「くく、暗いけど、ちゃ、ちゃんと撮れるかな?」
「大丈夫だよ、自動でフラッシュになるから」
美月が、自撮りモードにして、スマートフォンを自分達にかざした。
液晶画面に、二人の顔が映し出される。
だが、二人には微妙な距離があった。
「ちょっと、陸君、遠いよ。もっと顔近づけて」
「う、うん……」
二人の顔が近距離になった時、スマートフォンに向けていた視線が、お互いの顔へと移動した。
無言で見つめ合う、陸と美月。
やがて、どちらからともなく、二人は唇を重ねるのだった。
つづく……




