第6話 鏡の中の聖旨と夜守の猫
【巻ノ一・残頁陸:大内・伝令秘話】 「聖意は測り難く、故に紙筆に落とさず。 真の密旨は、往々にして紙には書かれず、鏡の中に現れるか、あるいは死人の口の中に隠されている。 備考:もし鏡が割れたなら、それはお上が……焦っておられる証拠だ。」 ――『司天監・冷知識総集編』
【司天監内部メモ】 「残業」――身体がすでにポンコツになり、精神が崩壊寸前の状況下で、クライアント(施主)様が突然「私もあんな琉璃が欲しい」と言い出すこと。
雑項科の朝は、耳障りな「ガリッ、ゴリッ」という咀嚼音から始まった。
謝必安は竹椅子に横たわり、顔にあの手触りが滑らかな、まるで人皮で作られたような『大荒異聞録』を被せ、破れた窓から射し込む刺すような陽光を遮ろうとしていた。
彼の状態は最悪だった。
昨夜の「琉璃封禁」は見事な仕事だったが、反動が大きすぎた。 彼の右手は今も石のように強張り、感覚は戻ったものの、骨髄に染み込んだ冷気は消えない。初夏の蒸し暑い朝だというのに、熱湯を入れた湯婆子を抱いていなければ、指先の存在さえ感じられないほどだ。
この冷気は体内から発しているのではない。あの名状しがたい非人間的な息吹が、無理やり骨血に浸透しようとしているのだ。
目を閉じるたび、右手の中に冷たい川が血管を逆流し、彼という存在を透明で死寂な結晶体へと洗い流そうとしているように感じる。
「静かに食え」 謝必安は本の下から力なく抗議した。 「デブ、お前のは歯だろ、石臼じゃないんだぞ。聞いてるだけで骨が痛む」
部屋の影の奥深くで、金猫の銜蝉が、呪符だらけの陶器の瓶の山の中で大の字になって寝そべっていた。
彼の体型は昨日よりさらに一回り大きくなり、本来ふわふわだった金色の毛は、今や硬質な金属光沢を帯びている。腹はボールのように丸く膨らみ、呼吸に合わせて上下し、時折雷鳴のようなグルグル音を立てて周囲の瓶を共鳴させている。
昨日の「大餐」は栄養価が高すぎたのだ。
あの琉璃化した穢れのエキスは、この鎮獄の神獣にとって、金山を丸ごと一つ飲み込んだに等しい。
今、彼が口の中で噛み砕いているのは普通の餌ではない。あの肉仏から剥がれ落ち、完全に結晶化した骨の破片だ。硬度はダイヤモンド並みだが、彼はそれをガリガリと噛み砕いて粉にしている。
「ゲフッ……」
銜蝉は満腹のゲップをし、硫黄の臭いがする金色の煙の輪を吐き出した。目はトロンとしている。 『オヤジ、この骨ちょっと歯に挟まるな。それにまだ死体油の臭いが抜けきってねえ。次はもっとサッパリしたのにしてくれよ。例えば骸骨兵とかな、カルシウム豊富だし』
「食えるだけマシだろ」
謝必安は顔の上の本をどけ、充血した目を露出させた。昨晩、脳内で『エリーゼのために』が一晩中リピート再生され、神経衰弱になりかけたのだ。
「阿奴は?」彼は周囲を見回した。
『梁の上だ』銜蝉は気だるげに天井を指差した。 『修行中だってさ。昨夜の肉切りがスムーズじゃなかったらしくて、反省してる』
謝必安が見上げると、銀猫の阿奴が梁に逆さまにぶら下がっていた。尻尾だけで木に絡まり、身体は真っ直ぐに垂れ下がっている。目を閉じ、全身から人を寄せ付けない鋭利な気を放っていた。時折爪先が弾かれ、空気中に音もなく銀色の線を描く。何らかの切断軌道をシミュレートしているようだ。
この二匹の猫、一匹は食っちゃ寝、もう一匹は仕事の後も意識が高い(内巻き)。性格の差が激しすぎて、飼い主(下僕)である謝必安は頭が痛い。
その時、外から「ドン、ドン、ドン」というノックの音がした。
今回は重く、急き込んでおり、拒絶を許さない官憲の威圧感があった。 さらにノックの音に伴い、一糸乱れぬ甲冑の摩擦音も聞こえてくる――重い軍靴が青石の板を踏み鳴らす震動で、屋根の埃がパラパラと落ちてきた。
謝必安はため息をつき、湯婆子を放り出し、椅子から身を起こした。
「やっぱりな」彼はこめかみを揉み、厭世的な顔をした。「商売が繁盛しすぎると、ろくなことがねえ」
彼は歩いて行って扉を開けた。
外に立っていたのは、やはり沈無だった。 だが今回の沈無の後ろには、二列の完全武装した鏡妖司の禁衛が控えていた。全員が玄色の装束を纏い、顔には獰猛な青銅の仮面をつけ、冷たい目だけを露出させている。手は刀の柄にあり、殺気立って路地の入り口を封鎖していた。
「大層な陣容だな」 謝必安はドア枠に寄りかかり、薄ら笑いを浮かべて沈無を見た。 「沈様、これは俺を逮捕しに来たのか? それともこのボロ役所を差し押さえに来たのか?」
沈無の顔色は良くなかった。目の下には隈があり、明らかに昨夜は眠れていない。高価な雲紋の服は着替えていたが、相変わらず人を拒絶する寒気を放っている。
「逮捕ではない」
沈無が身体を横にずらすと、後ろの禁衛が黒布のかかった盆を捧げ持ち、恭しく進み出た。
「聖上が……お主に会いたいそうだ」
「聖上?」謝必安は眉を上げ、盆に視線を落とした。
「昨夜の奏摺を提出して半刻も経たないうちに、宮中からこれが送られてきた」
沈無は盆の上の黒布をめくった。
盆に置かれていたのは聖旨(勅命書)ではなく、一枚の銅鏡だった。 古風な八卦鏡で、縁には雲雷紋が刻まれているが、鏡面はぼやけており、分厚い水霧に覆われているかのようだ。
黒布が取り払われた瞬間、その銅鏡は謝必安の気配を感知したかのように、突然激しく震えだした。
鏡面から「ジジジ」と、爪でガラスを引っ掻くような不快な音が漏れ出す。
直後、鏡面の水霧が湧き上がり、変色し、最後にはそこから鮮紅色の血水が滲み出してきた。
血水はただ流れるのではなく、鏡の中に見えない無数の蛆虫が這い回り、互いに食らい合い、絡み合っているかのように蠢き、最後には無理やり鏡面に二行の、歪んだ、まだ血の滴る文字を「押し出し」た。
宣す 司天監 謝必安 即刻入宮せよ
筆跡は極めて乱暴で、一画一画が絶望の中で爪を立てて刻んだ痕跡のようだ。最後の一筆は長い血の跡を引きずり、銅鏡の縁まで流れ、盆の中に「ポタッ、ポタッ」と音を立てて滴り落ちた。
謝必安が嗅ぎ取ったのは墨の匂いではない。嘔吐を催すほど強烈な、古い防腐剤の臭いだ。
「この書道は……」謝必安は眉をひそめ、論評した。「聖上の御心は、いささか乱れておられるようだ」
沈無は謝必安のその気のない態度を見て、思わず声を潜めて警告した。 「これはただの召見ではない。これは『鏡旨』だ。国が滅びる時か、あるいは……口外できぬ大事変が起きた時にしか使われない」
「謝必安、白馬寺でお主が見せたあの『錯金琉璃』の手際が、上の方を驚かせたのだ」
沈無は天を指し、さらに皇宮の方角を指し、重々しく言った。 「聖上はここ数年、長生に執着しておられる。お主の技術は、あの方にとって……致命的な誘惑なのだ」
「誘惑?」 謝必安は冷笑し、鏡から絶えず滲み出る血水を見た。 「俺には『救命の藁』に見えるがな。あの皇帝陛下、恐らくもう『腐敗』を隠しきれなくなってるんだろう」
彼は背を向け、部屋に戻って荷造りを始めた。
と言っても、まとめるものなどない。まだ微熱を帯びている『大荒異聞録』を懐にねじ込み、腰にあの空の酒瓢箪をぶら下げるだけだ。
「デブ、起きて仕事だ」謝必安は床の銜蝉を蹴った。
『ヤだ……』銜蝉は寝返りを打ち、太鼓腹を抱えてフンフン言った。 『食い過ぎて……動けねえ……オヤジ一人で行ってこいよ……消化しなきゃ……この骨まだ溶けてねえんだ……』
謝必安は眉をひそめた。このクソデブ、肝心な時に役に立たない。 だが彼も分かっていた。銜蝉の今の状態は確かに戦闘には不向きだ。この猫は今、高圧エネルギーを充填した爆弾のようなもので、少し動けば金色の火炎を噴き出しかねない。
それに……
謝必安は部屋中で騒ぎ出している陶器の瓶を一瞥した。
昨夜持ち帰った新鮮な穢れが、長く封印されていた怪物たちを刺激したようだ。呪符の貼られた瓶たちがカタカタと震え、中から引っ掻く音、叫び声、ひそひそ話が聞こえ、異常に興奮している。
家を空けるわけにはいかない。場を鎮める凶獣がいなければ、帰ってきた時にはこの雑項科は百鬼夜行になっているだろう。
「わかったよ」謝必安は仕方なくため息をついた。 「留守番してろ。いいか、瓶の中身を盗み食いするなよ。特にあの泣く赤ん坊の瓶、あれ食うと腹壊すぞ」
『へいへい……』銜蝉は適当に手を振り、高いびきをかき続けたが、その身体の下からは微かに金色の光の輪が広がり、暴れる陶器の瓶たちを死に物狂いで抑え込み始めた。
「阿奴」
謝必安は梁に向かって手招きした。
銀光が一閃し、阿奴が音もなく彼の肩に降り立った。彼女は気力に満ち、銀色の瞳孔に寒光を宿している。明らかに「入宮」というイベントに狩猟の興味を抱いていた。彼女は死んだ物は好まない。流動する、新鮮な、変数に満ちた獲物が好きなのだ。
「今回はお前だけが頼りだ」 謝必安は彼女の頭を撫で、絹のように滑らかな毛並みを感じた。 「皇宮って場所は、汚ねえからな。デブみたいな重火力兵器じゃ建物を壊しちまう。やっぱりお前みたいな『手術メス』が使いやすい」
阿奴は誇らしげに顎を上げ、喉を鳴らし、尻尾の先で謝必安の首筋を軽く掃いて同意を示した。
謝必安は門を出て、沈無に頷いた。
「行こうか、沈様」
彼はまだ血を滲ませている銅鏡を見つめ、瞳の色を深くした。 「見せてもらおうじゃないか。長生を望む皇帝陛下が、俺たちのためにどんな『サプライズ』を用意してくれたのかを」
沈無は謝必安を見て、何か言いたげにしたが、口をつぐんだ。 最後はただ手を振り、禁衛に道を開けさせた。
「謝拾遺」 馬車に乗る前、沈無は突然声を低くして言った。その声には微かに察知し難い震えがあった。 「長生殿に入ったら、余計なモノを見るな、余計なことを言うな。それから……呼吸を深くするな」
「なぜだ?」
「あそこの空気は……」 沈無の顔色が蒼白になり、何か極めて忌まわしい記憶を呼び起こしたようだった。 「人に、生えるはずのないモノを生やすからだ。前回、ある宦官が殿内でくしゃみをした翌日……彼の鼻の穴から……が生えてきた」
謝必安の足が止まった。
彼は遠く、灰色の霧に包まれた皇宮を見上げた。鼻先に再びあの馴染み深い、嘔吐を催す鉄錆の臭いが漂ってきた。
「何か、生えるだって?」
謝必安は自分の冷たい右手を撫で、その非人間的な硬い感触を確かめると、口元に自嘲の笑みを浮かべた。
「関係ないさ」
「俺はもう……純粋な人間じゃないんでな」
馬車が動き出す。 車輪が青石の板を碾き、「ゴロゴロ」という音を立てて、この「拾遺」を乗せ、大魏朝の最も核心であり、最も腐敗した深淵へと向かっていく。
屋内で、金色の太った猫が、謝必安が去った後にゆっくりと片目を開けた。
その目には先ほどの気だるさはなく、瞳孔は金色の亀裂のように縦に細まり、代わって上古の凶獣に属する暴戻と威厳が宿っていた。
彼は主人が去ってさらに狂ったように震えだした陶器の瓶どもを一睨みし、喉の奥から低い、雷鳴のような咆哮を轟かせた。
『静かにしやがれ。オヤジがいない間は……俺様がルールだ』




