第1話 燃えないゴミ
【巻ノ一・残頁壱:司天監・職官志・隠巻】
「天道に欠けあり、磁器に裂け目生ずるが如し。司天監に特設せる『拾遺』の一職は、君を諫める為にあらず、実に穢れを掃う為なり。凡そ名状すべからざる物、直視すべからざる物、薬に入らざる物は、皆雑項科の処置に帰す」――『大魏官制・隠巻』
【司天監内部メモ】
「拾遺」――燃やせず、成仏もさせられず、いまだに動く代物を専門に処理するクソみたいな仕事。
†
空気は発酵しすぎた甘い菓子の匂いがした。表面には青カビが生えている。だがその中には、秦淮河の底から漂う、死んだ魚が腹を見せた時のような生臭さが、消えることなく纏わりついていた。
謝必安は、自分が塩漬けにされた干物だと感じた。画舫の中で最も高価な紫檀の長椅子に、心地よく寝そべっている。
こめかみがリズミカルな劇痛を伴って跳ねている。脳の奥底から鳴り止まない耳鳴り。
その旋律は奇妙なほど規則正しく、この時代にあるべき音ではない。故郷の街角で時間通りに『エリーゼのために』を流していた、あの黄色いゴミ収集車のメロディだ。それが今、彼の大脳皮質の上を行ったり来たりと轢き潰している。
ここに転生して以来、この忌々しい幻聴は止んだことがない。
「全く、勤勉なことだ……」
謝必安は心の中で白眼を剥き、眉間を揉んだ。「転生してまで、俺にゴミ出しの時間を知らせてくるとはな」
二日酔いで目覚めるたび、無意識に枕元のスマホを探そうとする。デリバリーアプリで熱々の牛肉麺を頼みたくなる。あるいは階下のコンビニに駆け込み、茶葉蛋を何個か剥いてカップ麺に放り込み、エアコンの吹き出し口の前に座って、消毒液の匂いがする乾燥した空気を吸い込みたくなる。
だが、ここにエアコンはない。あるのは画舫の外の、湿って底冷えする川風だけだ。
茶葉蛋もない。目の前には、芸術品のように盛り付けられ、蝋を噛むような味がする冷えた鹿肉の皿があるだけだ。
「謝公子、この酒は……お口に合いますかな?」
脂ぎった声が耳に潜り込み、謝必安のコンビニに対する深い郷愁を乱暴に断ち切った。
声の主はこの画舫の主、王員外。密塩の売買でのし上がり、最近銀で閑職を買ったばかりの成金だ。赤や青の宝石の指輪をはめた手をこすり合わせ、顔中に媚びへつらう笑みを浮かべて謝必安を見ている。
肥え太った顔には分厚く鉛の粉が塗られ、歳月と放蕩が残した凸凹を隠そうとしている。彼が笑うたび、顔の粉がボロボロとこぼれ落ち、高価なペルシャ絨毯に降り注いだ。まるで絨毯に肥料を撒いているようだ。
彼の眼差しはあからさまで、露骨ですらあった。三分は落ちぶれた者への軽蔑、七分は「陳郡謝氏」という金看板にすがりつきたいという焦燥。
門地がモノを言うこの世の中、「謝」という姓は通行証だ。たとえ今の謝必安が下着まで質に入れるほど貧窮していても、王員外のような成金は彼を上座に祭り上げなければならない。外の連中に、自分も「魏晋の風流」に少しは染まっていると思わせるために。
「まあまあだな」
謝必安は気怠そうに答え、まぶたすら上げなかった。
細長い指で、隣の卓からくすねた金の酒杯をつまむ。杯の縁には鮮やかな赤い唇の跡が残っていた。前の主が残したものだ。安い白粉の匂いがし、鼻を突く。鉛や水銀の中毒特有の苦味を帯びていた。
だが気にならない。タダの酒だ。工業用アルコールでも構わない。首を仰け反らせ、濁った酒液を一気に飲み干した。
波斯から献上された葡萄酒。濾過の技術はクソみたいで、ブドウの皮のカスすら混ざっているが、少なくともアルコールの匂いはした。
酸味と渋みのある液体が喉を滑り落ち、細い火の線となって胃で燃え上がる。
その瞬間、脳内の『エリーゼのために』がようやく少し小さくなり、目の前の世界も……いくらか光怪陸離ではなくなった。
懐で、金色の脂身の塊が動いた。
銜蝉だ。球のように太った長毛の金吉拉猫が、顔全体を謝必安の広い襟元に埋め込み、尖った二つの耳だけを出している。画舫の歌女が弾く凄惨な琵琶の音に合わせて、耳がピクピクと揺れた。
『親父』銜蝉の声が謝必安の脳内に直接響いた。寝起きの粘り気と嫌悪感が混じっている。『この王ってデブ、死体油の匂いがするぞ。こんな酒、よく飲めるな? お前、本当にゲテモノ食いだな』
謝必安は顔色一つ変えず、指で猫の耳を軽く掻き、心の中で言い返した。
『黙れ。タダの酒だ。死体油もスパイスだ。それに、さっきガチョウの丸焼きを盗み食いした時、お前は死んだガチョウだと文句を言ったか?』
『あれとは違うだろ!』銜蝉は脳内で理路整然と反論した。宦官のように甲高い声だ。『ガチョウは食材だ。このデブは……生ゴミだ。この船の匂いは全部おかしい。下水道で三年漬け込んだ古漬けの匂いがするぜ』
謝必安はこのおしゃべりな猫を無視した。当然、彼にも匂っている。
事実、彼がこの身体を引き継ぎ、「拾遺」という不運な官職を引き継いで以来、彼の鼻は犬よりも利くようになった。繁華の裏にある腐敗の匂いを嗅ぎ取り、紅粉の下にある白骨を見ることができる。
手を伸ばし、卓の上の鶏の丸焼きの脚を掴んだ。油まみれの指先を、シルクのテーブルクロスで無造作に二度拭く。
粗野で無礼な動作に、向かいの王員外の目尻が激しく引き攣った。蘇州産の雲錦のテーブルクロスを痛ましく思っているのは明らかだ。あの布一枚で、小間使いが三人買える。
「謝公子」王員外は痛みを押し殺し、さらに身を乗り出してきた。強烈な薫香に、謝必安は危うくくしゃみをしそうになる。「お聞きしたところ、司天監で……『拾遺』という清貴なお役目に就かれたとか? 遺を拾い闕を補うとは、まさに天子の近臣ではありませんか! 後日出世された暁には、この弟分の引き立てもお忘れなく」
謝必安の動きが止まった。生焼けの鶏肉を咀嚼しながら、危うく吹き出しそうになる。
天子の近臣だと?
天道が崩壊し、神仏にカビが生え始めたこの世の中で、普通の民衆は「拾遺」が何をする者か全く知らない。彼らはそれを、文章を書いて皇帝を諫める清流の官だと勘違いしている。
謝必安だけが知っている。いわゆる「拾遺」とは、悪く言えば、体制内の廃品回収業者に過ぎない。
司天監雑項科。天が適当に投げ捨てた、カビが生え、人を噛む穢物を分類し、使えないものは束ねて虚空へ投げ返す。
彼らはこの世界最後の清掃員であり、最低の俸禄で、最も命懸けの仕事をしている。この境地に達すれば、彼はもう何も問わない。問えば、自分がより不快になるだけだ。
「そうだな、拾遺だ」
謝必安は鶏肉を飲み込んだ。視線は王員外の肥えた肩を越え、画舫の隅の影を見据える。回収瓶が帳簿に入るのを見るような目つきだ。
「ほら、また商売が向こうからやってきたぞ」
隅には、琵琶を弾く歌女が座っていた。
翠緑色の羅裙を着て、うつむいている。長い髪が顔の大半を隠し、弦を弾く手だけが恐ろしいほど青白い。
爪は長く、猩紅色のマニキュアが塗られている。弦を弾くたび、爪の先が琴の胴を引っ掻き、ジリッ、ジリッという微かな音を立てた。
指先が木目を滑る鋭い音ではない。枯れ骨が交差し、凄惨な摩擦の下で発せられる、乾いて重い摩耗音だ。
アルコールに浸され、「真実」を直視できる謝必安の視界には、歌女などどこにもいない。
そこにあったのは、水でふやけた一枚の皮袋だった。
皮袋の下に骨はない。ただ無数の黒い、田鰻のようなものが蠢き、緑色の羅裙をパンパンに膨らませている。蛆虫が詰まった麻袋だ。
『作りが粗いな』謝必安は心の中で論評した。『怨念も隠しきれてない。こんな代物、鬼市でも二束三文だ』
「商売?」王員外が呆気に取られ、振り返ろうとした。
琵琶の音が唐突に止んだ。
空気にブチッという湿った肉の裂ける音が響く。
歌女の首が、空気の入りすぎたゴム鞠のように、前触れもなく真ん中から裂けた。
血はない。無数の黒い髪の毛が黒潮のごとく噴出し、瞬時に生臭い巨大な網を織り上げ、最も近い王員外へ襲いかかった。
「ヒィィィーッ!! バ、化け物だァ!」
王員外は豚を殺すような悲鳴を上げた。反応は異常に速い。這うように卓の下へ潜り込み、ついでに極上の酒が入った壺を蹴飛ばした。
酒液がこぼれ、果実の香りが四方に散った。
「チッ、俺の酒が」
謝必安はため息をついた。怪物を見た時よりも眉間のシワが深い。
水鬼が化けた髪。怨念が最も重い。尋常な刀剣では断てず、火でも燃やせない。だが専門家の目から見れば、これは少し「特殊処理」が必要な生ゴミの塊に過ぎない。
それが恐れるのは酒ではない。古い酒に宿る「歳月」だ。
謝必安は刀を抜かない。腰の環首直刀はとうに錆びついて抜けない。ただの飾りだ。
鶏の油まみれの手を上げ、軽く指を鳴らした。
「仕事だデブ! あれは昆布みたいに見えるぞ。味見してみるか?」
懐の銜蝉が猛然と顔を出し、ネコ科の動物とは思えない怒号を放った。「ペッ! あれは髪の毛だろ! 歯に挟まるんだよ!」
口では嫌がりながらも、金色の音波が障子紙をビリビリと震わせ、黒髪の塊を空中で強引に静止させた。
停滞した刹那、謝必安が動いた。
虚空を掴む。
床の酒の染みが重力に逆らって浮かび上がり、掌で震える水球へと凝集した。
「行け」
謝必安が無造作に手を振る。ハエを追い払うような動作だ。
水球が弾丸と化し、空気を引き裂く。怪物の裂けた首の傷口へ正確に撃ち込まれた。
チン。
不自然なほど澄んだ、瑠璃がぶつかる音が響いた。
狂ったように舞っていた黒い髪の毛が、酒液に触れた瞬間から急速に黒色を退かせ、半透明の金色へと変わっていく。
金色の亀裂が狂い咲くツタのごとく、瞬きする間に怪物の全身へ這い広がった。
飛びかかろうとする姿勢のまま、血肉を渇望する獰猛な顔のまま。すべてが一瞬で凝固し、巨大で精巧な「錯金琉璃」の彫刻と化した。
同時に、袖の中に隠された謝必安の右手が激しく震えた。
見下ろすと、自分の指先も透明になり始めている。皮膚の下を流れるのは血ではなく、熱く煮えたぎる金の砂だ。
骨を刺すような痛みが広がる。彼の身体まで、怪物とともに「瑠璃化」しようとしている。
無表情のまま、卓の上の残酒を掴み、仰け反って喉に流し込む。アルコールが入り、同化される異物感が辛うじて抑え込まれた。指先がゆっくりと肉の色を取り戻す。
これが廃品回収の代償だ。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。――だから拾遺は長生きできない。
『これは労災だな……』謝必安は心の中で計算した。後でこのデブの員外に医療費を請求してやろう。
謝必安はふらふらと歩み寄り、指を伸ばして彫刻の額を軽く弾いた。
ガシャン。
崩壊の音が響く。無数の金色の破片が暴雨のように降り注ぎ、画舫の床を埋め尽くした。秦淮河の波光を反射し、目が眩むような光沢を放っている。
「この仕上がり。瑠璃廠へ持っていけば、少なくとも状元紅十樽には化けるな」
謝必安は惜しそうに首を振る。身を屈め、爪ほどの大きさの暗赤色の珠を拾い上げた。肩にいる、露骨に嫌そうな顔をした銀色の長毛猫――阿奴に差し出す。
阿奴は無理やり珠を飲み込んだ。喉が動き、ゴクリと音がする。すぐに顔を窓の外へ向けた。「不味すぎる」という表情だ。
卓の下から、王員外がガタガタと震えながら頭を出した。顔の白粉は冷や汗で洗い流され、白い溝が何本もできている。「謝、謝拾遺……あの妖孽は……消えたのか?」
謝必安は彼を見向きもせず、懐の猫に言った。「デブ、帳簿につけろ」
振り返り、王員外を見下ろす。顔には完璧な「悪徳商人」の笑みが張り付いていた。
「王員外、おめでとうございます。これは『錯金琉璃』の開眼の儀式です。貴方のこの船は今、祥瑞の気に満ち溢れていますよ」
「穢れ払いの代金、一両」謝必安は指を一本立て、さらにもう二本立てた。「それに精神的苦痛への慰謝料……三十年物の娘紅を二樽。何しろ、さっきの貴方の悲鳴で、うちの猫が消化不良を起こしましたからね」
銜蝉が横でタイミング良く「オエッ」とえずいた。
王員外に「ノー」と言う度胸などあるはずもない。「払う! 全部払う! すぐに酒を運ばせよう!」と、ニンニクを搗くように頷いた。
謝必安は頷き、窓辺へ歩いて窓を押し開けた。
川風が顔を打つ。異常な鉄サビの匂いを運んできた。
空を見上げる。烏雲に遮られた残月がある。月の周りには猩紅色の暈がかかっていた。充血して炎症を起こした一つの眼球が、冷ややかに建康城を見下ろしているようだ。
「酒二樽じゃ、足りないかもしれないな」
謝必安は、先ほど瑠璃化しかけた指先をこすり合わせた。目を細め、低く呟く。
「この風、鉄サビの匂いばかりだ……。どうやら今夜、天が投げ捨てた汚物は、これ一つだけじゃないらしい」
【作者より】
お読みいただき、ありがとうございます。
この怪談や猫たち、そして少し奇妙な物語の数々が、皆さまの食事のひとときや、一杯のコーヒーを楽しむ時間、あるいは眠れない夜のお供になれたなら、とても嬉しく思います。
もし気に入っていただけましたら、フォローや評価、感想をいただいたり、この物語を好きになってくれそうな方に紹介していただければ幸いです。
皆さまからの一つ一つの応援が、私がこの物語を書き続ける力になります。
阿奴と銜蝉が、皆さまを守ってくれますように。
この物語を、かつて私と共に過ごし、今はもう天国へ旅立った二匹の猫たちに捧げます。
―― 仔猫




