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第69話 一人と一匹の関係

 一気に話を終えたウェルヴェリアスはシンに抱かれ、背中を撫でられていた。



「そうなるとシエルカードのモチーフは実在するって事か?」

「そうだ。お前達がワイバーンと名付けたエルダーがそのままカードにされている。ワイバーンは幻獣などではなく、エルダー・ワールドでは小鳥のような存在だ」



 魔王杯の初戦相手を思い出す。

 ランク序の【魅惑の小悪魔】でランク破の【飛翼ひよくの幻獣】を倒したのは偶然ではなかったのだと納得した。



「それが事実だとして、何でそんなに詳しいんだよ」



 ウェルヴェリアスは得意げに鼻を動かす。



「私の半身が鷺ノ宮エンタープライズに潜り込んでいるからだ。お前と友達になる為に犠牲にした半身だが結果的に良かった」



 首を傾げるシンの手が止まると、催促するように展開した尻尾の先端で手の甲を叩いた。



「お前っ!?」

「安心しろ。毒は充填してない」

「冗談でも止めろよ。それに黒川さんのネックレスを狙った時も驚いたぞ」



 ようやく文句を言えたシンはスッキリした表情だが、ウェルヴェリアスはムスッと膨れっ面を作る。



「この姿であんな巨体を相手に出来るものか。耳を喰い千切られたんだぞ! そんな事を言うなら、狐の攻撃をモロに九発も喰らわせた罪をつぐなえ」



 うぐっ、と喉を鳴らすシンは一変して表情を歪める。

 お互い様と言われればそれまでだ。

 納得したシンは素直に謝罪し、ウェルヴェリアスも頭を下げた。



「で、そのヴェガルミナスって奴が人間を餌にしてるから、シエル症候群シンドロームを発症するのか?」



 カードのモンスターとして使役される事を不服に感じているエルダーとしては、動かなくなり、バトルを行えなくなった契約者を食べる方がより効率的だろう、というのがウェルヴェリアスの考えだった。



「お前はどうなんだよ?」

「私はシンを餌だと認識していないが、私とて腹は減るからな。お前の色欲とお前に対する色欲を喰わせて貰っている」



 またしても首を傾げるシンに事実を伝えるべきか悩んだが、いずれ分かる事だと諦めて全てを話した。


 シンには常時、【色欲の魔兎】の"攻撃対象にならない"という効果が発動している為、人に嫌われる事がなく、寧ろ好かれる。

 特に女性の感覚を惑わせる色気を撒き散らしている為、シンに対する好意を抱く者の感情をウェルヴェリアスはひっそりといただいていた。

 更にシンが初めて【色欲の魔兎】へ進化させた日――世界大会の最終戦の後、控室でシオンとキスした瞬間と、初めて一夜を共にした日はウェルヴェリアスにとって豪勢な食事となった。



「それ、ヤバくないか!? 俺からそんなものが出てるの!?」

「あぁ。そうしないとお前の魂を喰う事になってしまうからな」

「え……。じゃあ、その猫も?」

「こやつも契約者を気に入っているから魂は喰っておらんようだ」



 シンとウェルヴェリアスの視線に気付いた猫は可愛く鳴き、姿勢を正した。



「初めまして、えめちーの旦那ちゃん。ルーもえめちーから名を貰っているから、いちおー友達だよ。魂をガブガブする前にえめちーの嫉妬心を食べさせて貰ってるにゃーん」



 シオンは【羨望の小悪魔】を勝手にルクシーヌと呼んでいるが、その名を気に入った彼女は本名であるウェンディーヌという名を勝手に改名していた。

 その名は神につけられたものだが、自由気ままな彼女は他の六体とは異なる価値観で生きている。



「ルーの名前はウェンディー・ルクシーヌ。これで神にもえめちーにも怒られないでしょー」



 猫が話せる事には驚いたのか、シンは愛想笑いを向けるだけだった。



「そんな事はどうでも良い。私の半身のカードを手に入れなければ、進堂とヴェガルミナスには勝てない。あの時、不戦勝になったのは不幸中の幸いだった」



 ウェルヴェリアスは日本代表決定戦の話をしているのだろう。

 シンとしては1ターン目から進化不要のランク急のカードを出された事に対しておののいたが、彼女は純粋な力の差を感じていたらしい。



「半身を犠牲にしたって何だよ?」



 少し不機嫌になるシンは兎の背中を撫でる手を意図的に止めた。



「シンと友達になるには私の魂は強過ぎた。だから、騎士側の魂を削り落としたのだ」

「なんだよ、それ。そんなリスクを冒してまで友達になる必要なんて無かっただろ」

「私は後悔していない。それに、お前は取り戻してくれるだろ?」



 兎はシンの膝の上から飛び降りて、自らの意思でランク急へ進化した。

 長いまつ毛が揺れ動き、彼女の真っ赤な瞳がシンを捉える。



「騎士の魂を削ったのに何で人型になれるんだよ」

「獣の姿を見られたくないからな。お前は愛らしい兎の姿と美しい人の姿を見ていれば良い」



 ウェルヴェリアスには獣型の姿にトラウマがある。

 だからこそ、シンには二度とその姿を見せないと固く誓ったのだ。



「それから、なんで最初から好感度100%じゃなかったんだよ」

「お前が私を忘れていたからだ」



 自分の事を忘れられてたったの17%しか引かないとかどんだけ俺に甘いんだよ、と思うとつい口元が綻ぶ。



「にしては好感度の上がり方が凄まじかったぞ。思い出してないのに100%になってたからな」

「それはお前が私を心配したり、撫でたり、抱いたりしたからな。女とはそういうものだ」

「お前は兎だろ」

「なんだ、やけに突っかかるじゃないか。発情するぞ」



 どんな脅し文句だよ、というツッコミを飲み込んだシンは自主的にアプリ内に引っ込んだウェルヴェリアスに促され、シオンを叩き起こすと自宅へと帰らせた。

 邪魔者が居なくなった事で再びアプリ内から出てきたウェルヴェリアスはスリットから覗く太ももにシンの頭を乗せて優しく髪を撫でる。

 気恥ずかしさよりも懐かしさが勝り、シンは無抵抗なまま見上げていた。



「昔からこの体勢が嫌いだった」

「何故だ?」

「ウェルヴェリアスの顔が見えなくなるから」

「……あぁ。私の双丘が立派過ぎるのがいかんな」



 膝の上でモゾモゾと動くシンを落ち着かせるようにウェルヴェリアスは優しい声で囁いた。



「やっと二人きりになれたな。今宵は二人で語り明かそうか」

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