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第68話 知らない事実

 人のベッドを我が物顔で使用し、図々しくも寝落ちしたシオンの手から落ちたスマートフォンを拾い上げた時、シンのスマートフォンの中に【羨望せんぼうの小悪魔】が移動して来た。

 何事かと仰天し、画面を眺めているとコマンド入力を行なっていないのに【魅惑の小悪魔】と【羨望の小悪魔】が現実世界に召喚される。

 ポカンと口を開けたまましゃがみ込むと愛らしい兎と猫は同時にシンの胸に飛び込んだ。



「うわっ」

「うわっ、とは何だ。七年ぶりに再会したというのに私の事を忘れていたな?」

「うわっ」



 上目遣いに人間の言葉を話し始めた兎はシンの反応がお気に召さないのか前足で胸を叩き始めた。

 その隣では猫が無関心さを全開にして目を細めている。



「もう知らん。名を授けあった仲なのに……」



 机の上に飛び乗り、そっぽを向く兎を見下ろすシンは腕の中にいる猫の背中を撫でながら、「ごめんって」と苦笑いを溢した。

 それにしても、この猫のしなやかな毛の下に隠れている鱗が気になる。

 あまり猫を可愛がっていると不機嫌が助長されそうなので、猫を置いて兎を抱き上げた。



「今は思い出してるよ、ウェルヴェリアス」

「随分と大きくなったな、シン」



 ポンと前足でシンの頬を撫でる兎は鼻をひくひくとさせている。



「お前に話す事がある。座れ」



 目覚めぬシオンから離れ、シンと兎と猫が向かい合う。

 何とも異様な光景だが、それを一番実感しているのはシンだ。



「シエルカードゲームは辞めるな。お前と私がゲームから降りると、この世界を奴の好きにされるぞ」

「奴って誰だよ。たかがゲームでそんな事が起こる訳ないだろ。悪の秘密結社でもあるって言うのか?」



 兎が喋る事には違和感を持たず、語られる内容にだけ違和感を覚えるシンを見て、ウェルヴェリアスと呼ばれる兎は「やはり自分の知っている子供のままだ」と安堵した。



「進堂と"ヴェガルミナス"だ」

「……誰?」

「【忠義ちゅうぎ聖騎士せいきし】のカードに宿っている奴だ。私達と同等の力を持ち、この世界で初めてカード化されたエルダーだ」

「エルダーって何?」



 仰々しく溜め息をつくウェルヴェリアスの隣では猫がケラケラと笑い転げていたが、今はそちらを無視してシンへの説明を優先する。

 確かに唐突過ぎたな、と反省するウェルヴェリアスは順を追ってこれまでの経緯を語り始めた。




 エルダー・ワールドという異世界を創った神がその身に宿る七つの罪を削ぎ落とした事で生まれたのが、ウェルヴェリアスを含む七体の魔獣である。

 魔獣達は世界を七分割してそれぞれの土地で自由に生活を始めた。


 やがて、暇を持て余した神は自身に宿る七つの徳を削ぎ落とす。

 生まれた騎士と魔獣を戦わせ、その行く末を高みから見物するという悪趣味な行動をとった。


 その結果、エルダー・ワールドは荒れ果て、食物が育ちにくい土地となってしまった。

 それぞれに対となる徳の騎士を当てがわれた罪の魔獣は争いの果てに排斥はいせきする者と共存する者に別れた。



 傲慢の魔獣はわがままにも忠義の騎士と共存の道を選び、ヴェガルミナスの名を与えられた。


 強欲の魔獣は力を欲して寛容の騎士と共存の道を選び、ウェグロスピノの名を与えられた。


 嫉妬の魔獣は人徳の騎士への妬みから噛み殺し、ウェンディーヌの名を与えられた。


 憤怒の魔獣は怒りに任せて忍耐の騎士を殲滅し、ウェクスレイの名を与えられた。


 色欲の魔獣は純潔の騎士の色香を認めて共存の道を選び、ウェルヴェリアスの名を与えられた。


 暴食の魔獣は空腹を満たすために節制の騎士を食し、ウェナマキナの名を与えられた。


 怠惰の魔獣は面倒事を嫌ったために勤勉の騎士と共存の道を選び、ウェスカルゴーネの名を与えられた。



 排斥はいせきを選んだ者は獣型の姿を維持し、共存を選んだ者は獣型と人型の姿を得た。

 その後、またしても暇を持て余した神は様々な生物を創造して七つの土地に住まわせたが、食物不足が顕著となり飢えに苦しむ者も少なくなかった。

 その事実を神に上申するとエルダー・ワールドとどこか別の世界との道を繋ぎ、「そこへ出向いて餌を食え」と命じた。



 エルダー達はこぞって道を突き進み、異世界――地球に降り立った。

 地球に住む人間は異形の生物を幻獣あるいは神と崇め、畏怖し、書記に残して伝承した。

 にえを与えられたエルダーは人間には無い力で奇跡を起こし、にえを与えられなかったエルダーは災いをもたらした。



 しかし、それは大昔の話で信仰心の薄れた人間はエルダーを敬わなくなり、彼らはまたしても飢饉ききんに直面した。

 それから何百年も経ち、人間界から一人の少年がエルダー・ワールドにやって来た。

 これまで人間がこの地に踏み入れた事は無く、幼い肉塊は彼らにとってご馳走だったが、少年は幸運な事に美を重んじる領地に降り立ち、その地を納める魔獣に懐かれた。

 魔獣と少年は互いに名を授け合い友となったが、エルダーの言う友とは人間が認識しているよりも重いものだった。

 それは互いの魂と命を結び付け、共存するという事である。



 兎の姿を模した魔獣は少年を匿い、外敵から守りつつ神に会わせた。

 少年がエルダー・ワールドを去った後も食料問題は解決しなかったが、少年とウェルヴェリアスの関係性を見ていたヴェガルミナスは現代の地球に降り立ち、最も傲慢さと忠誠心の強い人間――進堂官房長官補佐に取り憑いた。



 ヴェガルミナスはエルダーを地球に送り、カードに換えて人間と契約させる事で半永久的に餌を得る事を目的とした。

 進堂は地位と権力の為にヴェガルミナスのスキルと効果を日常的に発動させる事を条件に協力関係を取った。



 漆原という天才にカード化する為の装置を造らせ、鷺ノ宮という天才にカードの販売とゲームシステムの作成を依頼し、進堂という天才は日本のトップとして宣伝と契約促通を約束した。



 鷺ノ宮の手によりカードは三分割してしまったが、ランク急に進化する事でエルダーは本来の姿と力を取り戻し、地球でも生命維持できる存在になるのだ。

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