表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/76

第67話 退場

 革靴の足音だけが反響し、その部屋が如何に広いのかを知らしめる。



「何の用だ、鷺ノ宮」



 足音を止めた進堂内閣総理大臣の前では鷺ノ宮 朝陽が高級な椅子に腰掛けていた。

 ここは鷺ノ宮エンタープライズ本社の最上階、社長室である。

 いくら社長とは言え、総理大臣を呼び出す事が出来るのは彼らが古くからの友人だからに他ならない。



「シエルカードゲームは老若男女、人種を問わず、世界人口の80%が契約を終えた。だが、シエル症候群シンドロームも蔓延している。どういう事だ?」

「私に聞かれても困る。それは漆原の管轄だろ」

「人がエルダーと契約し、共存する事で暮らしを豊かにする。その先に世界平和と地球を取り巻く諸々の問題の解決がある。それが俺達の掲げた理想だろう。何故、人が倒れる?」

「世界……いや、地球という強大な敵に立ち向かうのだ、多少の犠牲は仕方ない。そんなに自社のイメージが大切か?」



 ポケットに手を突っ込んだままの進堂は挑発的な笑みを深める。



「何を隠している?」

「お前こそ、隠している事があるだろ。あのカードはどこだ?」



 黙秘する鷺ノ宮には目もくれず、進堂はラックに飾られているシエルデヴァイスを撫でて、スマートフォンの画面を向ける。



「戻れない所まで行かないとつまらないか、鷺ノ宮」

「シエルカードの生みの親の俺に勝てると思っているのか」

「学生の頃からお前はずっと二番だ」



 鷺ノ宮も胸ポケットからスマートフォンを取り出し、画面を見せる。

 二人の持つスマートフォンが輝き、主人を守るように二体のモンスターが現れた。



 【忠義ちゅうぎ聖騎士せいきし】は白銀の騎士であり、西洋風の兜により顔は見えない。手には剣と盾を持ち、どっしりと構える。



 【全知全能ぜんちぜんのう天空神てんくうしん】はギリシャ風の装いで白髪の髪と長い髭が特徴的だった。右手に持つ雷霆らいていを掲げる姿は最高神に相応しい。

 鷺ノ宮 朝陽は進堂に対抗する為にカードを順当に進化させず、一気にランク急のモンスターを召喚した。



 シエルカードゲームと異なり、現実世界に直接召喚したモンスター同士の戦いはターン制ではない為、互いの武器がぶつかり合う肉弾戦になった。

 激しく剣と雷霆らいていが火花を散らし、会議室が滅茶苦茶に散らかっていく。



 涼しい顔の進堂は仕事用のスマートフォンで部下と通話を始める余裕を見せているが、鷺ノ宮は額から汗を流し、拳を握り締めていた。



「魂がきしむだろ、鷺ノ宮。ファイティング・エヴォリューションさせなかったお前が悪いんだぞ」

「この程度ッ!」

「痩せ我慢はよせ。それ以上、続けるとお前も発症するぞ」



 白銀の騎士と互角に戦う最高神は更に力を発揮する為に契約者である鷺ノ宮の方をチラリと見る。

 その視線には気付いているが、自分の身を守る為には【全知全能ぜんちぜんのう天空神てんくうしん】の全力を出させる訳にはいかなかった。



「ここまで長かったな」



 昔を懐かしむように目を細める進堂は苦しむ鷺ノ宮を見据えて、過去を思い出した。



 級友だった鷺ノ宮 朝陽が立ち上げた鷺ノ宮エンタープライズに出資したが、目玉賞品だった旧シエルカードは程なくして廃れた。

 そんな時に漆原が地球とは異なる世界を発見し、世界中で伝承されている伝説上の生物や神々はその異世界からの来訪者だと突き止めた。

 二つの世界を繋ぐ道の一つを探し出した漆原達はそこに鷺ノ宮エンタープライズの施設を造り、異世界についての研究を始めた。



 道は細く、向こう側からの一方通行。

 こちらからコンタクトを取る事は不可能だったが、漆原不在の際に無理矢理、道をこじ開けようとした事で大事故が起こり、偶然通りがかった少年が巻き込まれた。



 当時、官房長官補佐だった進堂はその事実を隠蔽し、少年を息のかかった病院に入院させた。

 鷺ノ宮、漆原と共に少年の身体を調べると、肉体だけをこの世界に残して、魂を異世界へ逆行転移させている事が判明した。



 少年は三ヶ月間もの間眠り続け、何事もなかったかのように意識を取り戻したが、彼の心臓には別の生物の何かが絡み付いていた。

 漆原は必死にその事象について調べたが解決策は見つけられず、それを契約と呼んだ。

 その契約を疑似的に可能にしたのが、新シエルカードゲームに搭載されているシステムである。

 しかし、オリジナルの彼には到底及ばない代物だ。



 少年の帰還と共に異世界からの来訪者は増加の一途を辿り、進堂は来訪者をエルダー、異世界をエルダー・ワールドと呼び始めた。

 進堂はエルダーの強力な力を封じる為にカード化を提案し、ランク急のカードへ変換する装置を造らせた。

 これをビジネスチャンスだと捉えた鷺ノ宮はランク急のカードを更に二分割する事で強大過ぎる力を抑え込み、契約させる人間の負担軽減を目論むと同時に会社経営の立て直しを図った。

 それでも、強いエルダーはランク序でも効果やスキルを持つカードとなり、それらを発動させる時の契約者への負担は計り知れない。

 それを制御するのがシエルデヴァイスだ。

 アップデートを繰り返し、遂にアプリ経由でもエルダーを現実世界へ召喚可能となった事で鷺ノ宮の望んだ世界が扉を開いた。



「お前が天上を取ると言って名付けたシエルカードはもう無い」

「エルダー"と"支配する世界を創るからシエルカードなんだ! 【全知全能ぜんちぜんのう天空神てんくうしん】の効果発動!」

「……馬鹿が」



 カテゴリーgodゴッドの中でも最高クラスのカード、もといエルダーであるにも関わらず、【忠義ちゅうぎ聖騎士せいきし】には敵わなかった。

 悔しさを滲ませながら、横たわる鷺ノ宮を見下ろした進堂は吐き捨てるように彼の言葉を訂正する。



「エルダー"が"支配する世界を創るからシエルカードなんだよ」



 進堂、鷺ノ宮、漆原は高校時代から「世界を取る」という野望を掲げて切磋琢磨してきたが、大人になり、彼らは異なる思想を元に野望を果たそうとしている。



 鷺ノ宮 朝陽は【全知全能ぜんちぜんのう天空神てんくうしん】の効果発動の為に魂を消耗し、朦朧とする意識の中で進堂の声を聞いた。

 これで自分があの子の背中を押してやる事はできなくなる。

 だからこそ、シンというあだ名の少年に忘れ去られた記憶と隠し続けた一枚のカードを託すのだ。



「鷺ノ宮君が負けたか。これで【天秤てんびんいだおおとり】の在処ありかは分からなくなった訳ね。そして、全てを話させると」



 漆原は唇を噛みながら、モニターを見上げる。

 鷺ノ宮の意識がなくなった事でシンのシエルデヴァイスとアプリには全ての機能が実装された。

【唯一の小神】→【唯一の御子神】→【全知全能の天空神】

ランク:序→破→急

カテゴリー:godゴッド

モチーフ: 神々の王 ゼウス 

効果:全てのモンスター効果を無効化する。

契約者:日本人 鷺ノ宮 朝陽

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ