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第64話 モデル業を始めた覚えはない

「私達のカードが見つかったの!」


 亜梨乃の声は騒がしい朝礼前の教室にも良く通った。

 彼女達の持つ【干天の小動物】の進化先である【天地隠覆てんちおんぷく大蛇だいじゃ】をネット上で見つけたらしい。



「ヒラタケって名前の人気のブロガーらしいんだけど、シエルカードをコレクションしてて、それをブログに載せてるの」

「投稿されたのは今日の深夜」

「そんな時間までネット見てんのかよ」



 嬉々として語る姉妹にリョウがツッコミを入れる。この光景は見慣れたものだが、内容はいつものように馬鹿げたものではない。

 シンは一緒に喜べば良いのか悩み、結局、頬杖をついて外を眺めた。

 そんな彼の物憂げな横顔を眺めるシオンは何も言わず、彼女達の方に耳だけを傾ける。



「もうアポを取ってあって、放課後会いに行くんだけど一緒に行こうよ!」

「なんでそんなに行動力があんだよ! ヤバい奴だったらどうすんだよ」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」

「シン君とAimeeエメちゃんも一緒に来てくれる?」



 亜梨乃のお願いに応えたのはシオンだけで「シンが行くなら」と返答し、彼の背中を指さした。

 シンにも亜梨乃の声は聞こえている筈だが、意図的に無視しているのか、そちらを向く気配はない。

 亜梨乃が意を決してシンの前に移動しようとする。

 しかし、ちょうど担任教師が来た為、肩透かしを喰らい自分の席へと戻って行った。



 その後もタイミングを逃した亜梨乃と麻々乃はシンを誘う事が出来ずに放課後を迎えた。

 帰り支度を終えたシンが無言でシオンの鞄を叩き、二人並んで教室を後にする。

 二人の背中を見つめる亜梨乃は小さく溜め息を吐き、麻々乃とリョウの三人で下駄箱へと歩き出した。



「帰らないの?」

「……あいつら、何とかって奴の所に行くんだよな」

「シンには関係ないよ。どうせバトルはしないでしょ?」

「でもな」

「じゃあ、ここで待ってよ。カテゴリーdevilデビルが二枚もあれば、いざという時もきっと安心だよ」



 靴を履き替え、玄関から出ようとして足を止めたシンはシオンに付き添われ、亜梨乃達と合流した。

 何事にも理由を必要とするシンにその場に適した理由を与えてくれる存在としてシオンは地位を確立しつつある。

 どんどんシンの扱いに長けていくシオンは彼にとって唯一無二だった姉――夕凪を越える存在となり得る女性だった。



 五人で電車に乗り込み、隣県まで移動して指定された場所へと向かうと、そこは雑居ビルの一室で数台のカメラに囲まれていた。

 薄暗い部屋の中央にある人影が手を上げると一斉に明かりが灯りシン達の視界が真っ白に染まる。

 目が慣れると綺麗めな服装の男性が会釈していた。

 どんな変質者が待ち受けるのかと不安だった亜梨乃は胸を撫で下ろし、中央の男性に向かって頭を下げた。



「ご連絡した、佐藤 亜梨乃です。お金は払うので、【天地隠覆てんちおんぷくの大蛇】を譲って下さい」

「どうも初めまして。『ヒラタケblog』のヒラタケです。シエルカードは契約者の手元にあってこそ価値のある物だと思っているのでお譲りしますよ」



 喜びから飛び跳ねる亜梨乃に構わず、ヒラタケと名乗る男性は彼女の後ろで腕を組むシンを指さした。



「ただですね。"魔王"そして"毒刺突兎スティンガー・ラビット"の異名を持つシン選手の相棒、【色欲の魔兎】をblogに載せても宜しいでしょうか」



 これでもかと喜んでいた亜梨乃は一変して無表情となり、シンを振り返らずにヒラタケに頭を下げた。



「それなら、結構です」

「亜梨乃ッ!?」



 思わず声を荒げる麻々乃を押し退けるように亜梨乃とヒラタケの間に割って入ったシンはスマートフォンの中の兎を見せながら、「いいよ」と呟く。



「ここに来るまでに、あんたのblogを読ませて貰った。俺と【色欲の魔兎】の写真と名前を載せる事は許可するが、効果、スキル、戦略、戦術、好感度、推測ステータス、総評、これらは載せないで欲しい」

「了承しました。では、こちらを」



 ヒラタケは専用のスクリューダウンに入れた【天地隠覆てんちおんぷくの大蛇】を持ち出し、シンに手渡す。

 ずっしりと重いスクリューダウンをそのまま亜梨乃に渡したシンは撮影の準備を始めるヒラタケをチラチラと見ながら、スマートフォンを操作する。



「あの……シン君。ほんとに良かったの」

「あぁ。亜梨乃が欲しがってたのは知ってるし。ただ、発症しないでくれよ」

「……うん。うんっ! ありがとう!」



 不安げな表情が綻び、いつもの彼女の笑顔を向けられたシンは微笑んで、【色欲の魔兎】を召喚した。

 バトル時以外に契約モンスターを現実世界に召喚する際はわざわざ順番に進化させる必要はない。

 しかし、シンは【魅惑の小悪魔】しか召喚した事がない為、自分の日常に【色欲の魔兎】が居る事が信じられなかった。



「そんな顔するなよ、笑ってろ、ウェルヴェリアス」



 シンよりの頭一つ分以上の長身を持つ【色欲の魔兎】は心配そうに眉をひそめて彼を見下ろす。

 互いに顔を見ていないにも関わらず、どんな表情をしているのかが手に取るように分かってしまう。

 その言葉に表せない感覚はシンとウェルヴェリアスが如何に深く結びついているのかを物語っていた。



 照明に照らされ、何台ものカメラにあらゆる角度から写真を撮られた一人と一匹は要求されるポーズを取り、速やかに撮影は終わった。

 シンに飲み物を渡し、感謝を述べたヒラタケはあっという間に文章を打ち込み、撮影開始から一時間足らずでblogを更新する。

 その内容はシンの要求通りで、これまでにないblogのテイストだったが、世界大会出場者かつカテゴリーdevilデビルの契約者を取り上げたという事で瞬く間にアクセス数が伸び、SNSで拡散される結果となった。



 シンは世界大会以降、アプリ内のランク戦や非公式試合に参加しなかった事で引退を噂され、バトルの申し込みは途絶えていた。

 しかし、今回ヒラタケblogに載った事で引退説が払拭され、シンのアプリにはバトルの申し込みが殺到している。

 通知がオンだったならばアラームは鳴り止まなかった事だろう。



「帰るぞ」



 【色欲の魔兎】をアプリ内に戻したシンはスマートフォンをポケットにしまい、出口に向かって歩き出す。



「佐藤さん、大切に使って下さい。"魔王"、ありがとうございました。このblog始まって以来のバズり具合です」



 無言のシンを追うシオン、リョウ、麻々乃に続き、亜梨乃も雑居ビルを後にする。

 こうして、亜梨乃もランク急のカードを手に入れたが、リョウと同様に好感度不足の為、進化させる事が出来ず、【天地隠覆てんちおんぷくの大蛇】を持て余す事になった。

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