第48話 vsフランス代表
結局、ブラジル代表のルーカスは意識不明となり、病院へと搬送された。
不測の事態ではないが、一人の選手が病院送りになったとしても大会は中止にならない。
シンの次の対戦相手はフランス代表のAimee。今回は自分の契約カードで出場しており、そのカードの名は【羨望の小悪魔】である。
『さぁ、注目の一戦です! シン選手とAimee選手は魔王杯で対戦していますが、その時は引き分けでしたね』
『前回、Aimee選手は自分のカードで戦っていませんでしたからね。シン選手と同様に悪魔のカードを持つ彼女の本当の強さが見られるでしょう』
実況者と解説者の雑談はリング上のシンには届かない。
パンツスタイルのクールな装いのAimeeの前に立ったシンは前回よりも緊張していた。
目深に被ったキャスケットの下から蒼い瞳が覗く。
シンがシエルデヴァイスの最終チェックを行っていると、Aimeeは無言で歩き出した。
『Aimee選手は前回もシン選手と握手を交わしていますね』
『悪巧みをしないと良いですがね』
シンの目の前まで迫ったAimeeは無言で手を差し出した。
その手を取ろうとした時、彼女の手に裏返しにされた一枚のカードが握られている事に気付いた。
「何の真似だ、Aimee選手」
「今日はこのカードを君に渡す為だけにここに来たんだ」
「は……?」
「これは君が望むカードだよ」
シンは無意識のうちに唾を飲み込んでいた。
もしも麻々乃の言う通り、彼女が魔王杯の時に【色欲の魔兎】のカードを手に取っていたならば、差し出されているカードは…。
そう思うとシンの指先が震えた。
「このカードを取って、わたしと付き合って」
「……はぁ!?」
「一戦交えて好きになっちゃったんだ。ダメかな?」
「ダメってか君のこと何も知らないし。そもそも、女の子だったのかよって感じで」
Aimeeは片手でキャスケットを脱ぎ、隠しておいた髪を振り解いた。
肩に掛からない程のロブヘアが露わになり、彼女が相当な美少女だと知らしめた。
「これからお互いの事を知っていけば良いよ。わたしだけの魔王になって」
「……魔王?」
「【色欲の魔兎】を使ってる姿が見たい。カードを取って、Monsieurシン」
このような告白をされたのは初めてであり、どうすれば良いのか困惑する。
この場でカードを受け取り、兎を進化させる事でシンの戦いは終わる。
しかし、それはAimeeと付き合う事でしか達成出来ないと言われてしまったのだ。
一瞬にして様々な事を考えてしまい、ショート寸前のシンの頭に悪魔と天使が生まれた。
『幼馴染の願いを叶えられて、外国の美人彼女が出来るなんてメリットしか無いじゃん』
『それはAimee選手に不誠実だ。凪姉も心から喜んでくれないぞ!』
『凪姉は勉強に必死だから、結果だけ教えれば問題ないじゃん。それに、これでシエルカードゲームから卒業して、凪姉に追いつくんだろ?』
『確かに、目標を見誤るのは良くないな。うん。付き合おう』
脳内会議においてアッサリと屈した天使に従い、シンはAimeeの差し出すカードを掴んだ。
しかし、そのカードを簡単に引き抜く事は出来ず、逆にシンが彼女に引き寄せられた。
それは瞬きを許さない程にあっという間の出来事だった。
目を見開くシンの眼前には目を閉じているAimeeが居て、唇からは柔らかくも暖かい感触が伝わってくる。
『おぉっと!? これはどういう事だ!?』
『……えっと、これは大丈夫ですかね』
実況者と解説者が困り果てる中、全世界中に唇を重ねる二人の姿が放送された。
「契約成立。次の試合はこの子を使って勝ってね。これからよろしく、シン」
何事も無かったかのようにキャスケットを被り直したAimeeはシエルデヴァイスに向かってフランス語を呟き、スタジアムを後にする。
シンのシエルデヴァイスと大スクリーンには『winner』と表示され、不戦勝扱いとなった。
彼の手には兎の最終進化先であるランク急【色欲の魔兎】のカードが、唇には微かな温もりが残っていた。




