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第22話 売られた喧嘩を買ったら、林檎が転がり込んだ

 久々の四人での帰宅中、亜梨乃はご機嫌だった。

 ランク破のカードを入手後、何度も何度も眺めていたが、実際にゲーム内で進化させてはいなかった。

 初めての進化は皆で一緒に見ると決めていた彼女は全員が揃って下校出来る今日を特別な日にする為に何時ぞやのゲームセンターへ向かっていた。

 別のグループがシエルカードゲームのアーケード版を使用していた為、予約して大型テレビを見上げて時間を潰す事になった。



「あれ? お前って今日は兎を持って来てるのか?」

「あぁ、絶対に忘れるなって鬼メッセージされたからな」

「お前が相手をするってのか?」

「さぁ。俺はなるべく静戦しておきたいんだけどな」

「だよな」



 相変わらず嫌味の無い笑みを向けるリョウと雑談していると、やけに煩いカップルの笑い声が目立った。



「あれ、あれあれ!? カガリすら知らない素人チャンピオンじゃねーか!?」

「えー、何それ、ヤバっ!!?」



 それは亜梨乃と買い物に行ったカードショップで出会った集団の一人だった。

 ムッとするリョウの前に出て「その節はどうも」と大人な対応をするシンが気に食わないのか、男は嫌味な言葉を投げ続けた。

 亜梨乃と麻々乃の表情も険しくなりゲームセンターを出ようかと考えていると、女が亜梨乃に向かって舌を出して挑発を始めた。

 あまり気の長い方では無い亜梨乃はその挑発に乗り、バトルを吹っかけてしまった。



「いいぜー。でも唯のバトルじゃつまらねぇよな! タッグバトルにしようぜ」



 ワラワラと集まって来た野次馬を煽る男は女の肩を抱き寄せ、挑発的な笑みをより深くする。

 亜梨乃にとっては男よりも女の方が許せなく、シンの腕に自身の腕を絡めて大見得を切った。



 アーケードゲームの盤上にそれぞれのカードを置き、大画面と大型テレビに四体のモンスターが現れた。



 『侵略アンヴァズィオン』の表示と共にバトルが始まり、シンは静かに攻撃のコマンド入力を行う。

 画面上の兎が毒の尻尾を突き刺した敵モンスター。それは一角獣だった。



「あの馬鹿っ!」



 ギャラリーに徹しているリョウが悪態をつく。

 一角獣のパラメーターには毒状態の表記が出されたが、それは直ぐに消滅した。



「ん? なんだ?」

「バァァカ! こいつの契約モンスターはユニコーンなんだよ」

「うちの子に毒は効かないよ!」

「魔王杯優勝だか何だか知らねぇが、恥を晒して消えろやぁ!」



 流石のシンも苛立ちを隠せなくなってきたが、彼の隣にいる者はそれよりも深い怒りを抱いていた。



「だったら、そこの駄馬は私が絞め上げる」



 たった一年と数ヶ月の付き合いだが、彼女のこんな表情は初めて見た。

 この人を怒らせないでおこうと心に留めたシンはそっと一歩だけ後退る。



「私は【干天の小動物】を進化させる」

「「なにっ!?」」



 お揃いのデッキケースからもう一枚のカードを引き抜き、【干天の小動物】の上に重ねると画面内で蛇が砕け散り、欠片が再度集合して姿を作り替えた。



『ランクアップ・エヴォリューション』と文字が浮かび上がり、乾燥している蛇はエメラルド色の巨大な蛇へと進化した。



「し、進化だとぉ!? 聞いてねぇぞ! チッ……俺はモンスターで【魅惑の小悪魔】を攻撃!」

「言ってくれるわね、小娘! 少しデカくなったからって舐めんじゃないわよ! 【干天の幻獣】を攻撃!」



 一つ眼の巨人――サイクロプスが兎を殴り、ユニコーンが蛇を突き刺す。

 互いにダメージを受けたが致命傷では無い。



「……じゃあ俺は【単眼たんがん小神しょうじん】を攻撃しておく」



 進化の演出や【干天の幻獣】の姿も衝撃的だったが、そんな事よりも早くこのバトルを終わらせたい一心でシンは攻撃を宣言した。

 どことなく兎も遠慮がちに尻尾をサイクロプスに突き刺していた。

 サイクロプスは毒状態となり、ダメージを蓄積させていく。



「【干天の幻獣】で【一角いっかく小動物しょうどうぶつ】を攻撃」



 そう呟きながら、ボタンを押した亜梨乃は不敵な笑みを浮かべている。

 巨大な蛇はユニコーンの全身を飲み込むように巻き付き、小ダメージを与え続ける。



 シンは小声で【単眼の小神】に攻撃ダメージと毒ダメージの両方をお見舞いしていく。

 そこからは【干天の幻獣】の独壇場でユニコーンを締め落とし、サイクロプスも再起不能に陥れた。

 シンは不要だったのではないかと思う程にランク破のカードは強かった。



「お、お疲れ様です。亜梨乃さん」

「シン君! あんなに言われたら言い返さなきゃダメだよ!」

「……はい。すみません」



 亜梨乃のお姉ちゃんの一面を垣間見ていると、騒がしかった観客が静まり返った。

 異変に気付き、振り向くと口を開いたままのリョウが目に入った。

 その視線の先にはスーツ姿の女性が立っており、観客達の視線は全てその人に注がれていた。



「互いの能力を把握している良い試合でした。対して貴方達は醜いですね」



 切れ長の瞳がカップル達を捉え、その視線の鋭さにシンと亜梨乃の間にも緊張がはしる。



「な、なんでこんな所に……」

「なんで、あんたが居るんだよ。"黄金林檎ゴールデン・アップル"」

「社長命令です」



 カツカツと小気味の良いヒールの音を立てながら、女性はシンの前で立ち止まった。

 慣れた手つきで名刺を取り出し、目上の者を相手にするかのように差し出す。

 名刺など手にした事のないシンは緊張の面持ちで受け取ったが、その際に女性の胸元で輝くゴールドの林檎のネックレスが目に入った。



「申し遅れました。私、黒川と申します。シン選手、貴方のスポンサーになりたいと我が社の社長が申しております。一度、ご検討をお願い致します」



 受け取った名刺には誰でも知っているであろう、多国籍テクノロジー企業の名前が書かれていた。

 こうしてシンはシエルカードゲームプレイヤーの中でも国内トップスリーと名高い一人と出会った。

【単眼の小神】

ランク:序

カテゴリー:godゴッド

モチーフ:サイクロプス

効果:不明

契約者:カップル(男)


【一角の小動物】

ランク:序

カテゴリー:mythicalミシカル

モチーフ:幻獣 ユニコーン

効果:毒の状態異常バッドステータス無効

契約者:カップル(女)

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